第14話 孤独の領域 侵入
「すごい格好だなダンフィル」
「派手に見えるだけだって。すぐ治るぜたぶんな。へへへ、褒めてもいいんだぜ。ジョシュアよ」
「ああ、よくやったな」
「素直に褒めんな恥ずかしいだろ」
空間に浮かぶ巨大な割れ目の前に、騎士たちは集う。騎士の先頭にいるのはダンフィルと、ジョシュア。
全身傷だらけで、包帯を巻きに巻いているダンフィルは、大総統を連れて隣国のルード神国まで逃げていた。護衛としては最高の仕事をした彼は、代わりに全身に無数の傷をおっていた。
「ちゃんと子供は戻ったか?」
「ああ、嫁さんが今乳をやってるぜ。っとまぁまだ結婚してねぇんだがな。逃げてる間大総統と大分話したんだが、話のわかるおっさんでなぁ。生きててよかったぜ本当に。ジョシュアもちゃんと俺の結婚式来てくれよな」
「わかってるさ。さて、それじゃ、俺も子供を取り戻しに行くかな」
「本当にお前らだけでいいのかよ。誰か騎士連れていけばいいんじゃねぇの?」
「いやこれは俺達家族の問題だ。身内の問題を外に見せるほど、恥知らずじゃないさ」
大きな太い腕に抱えられる女性は項垂れ、動くことは無い。上下する胸が、辛うじて彼女が生きてることを伝える。彼女の身体には、白銀の剣が結び付けられている。
「嫁さん、そんな状態だが連れていくんか?」
「ああ、カレナも家族だからな。やはり子供を迎えるのは、母親だろ?」
「そっか、まぁ俺は何も言えねぇな」
ジョシュアとダンフィルは、互いに顔を見合って微笑み合う。それ以上の言葉はいらない。
ジョシュアはダンフィルと、その後ろにいる騎士たちに対して背を向け、ヒビ割れへと歩き出した。そこに待っているのは赤布を背負ったジークフレッドと、黒い服に身を包んだ微笑む女性。
「行くぞ。母さんの、マリィメアの空間だ」
「承知しております。では主様の領域を通って参ります。それと、ジークフレッド様に領域に入る許可をいたします。これで主様の従者として、母上様の領域へも参れるでしょう」
「はい、すみません」
「…………行くぞ」
カレナを腕に抱え、ジョシュアたちは領域へと足を踏み入れる。まずはジョシュアの領域、墓標立ち並ぶ領域。
背後の割れ目が閉じる。
「領域の主の名前は、マリィメア・ファリーナ・セブティリアン。検索します」
黒い装束のジョシュアの使徒である彼女は、手を広げ空を撫でる。何かを探すかのように丁寧に、空を撫でる。
「見つけました。すぐ隣でしたね。ふふふ」
その場で一回転、そして二回転、クルクル回る使徒である彼女は、墓標に手を置いてしっかりとした笑顔を見せる。
「さて、主様、ここからは何が待ってるかわかりません。覚悟はよろしいですか? といっても覚悟できてると私にはわかりますけど。ふふふ」
「言うまでもない。もはや問答はいらない。俺は俺の為に、カレナの魂の半分と、シリウスを迎えに行く」
「はい、主様、では繋げます」
彼女は両手を大きく左右に広げる。そして、空を見上げる。
最初に異変が起きたのは地面、ジョシュアの領域の地面から、草が生えた。彼女の立ってる位置を線にして、真っ直ぐ横に草が生えた。
次に空気、彼女の後ろの空気は澄んでいた。
そして空、彼女の後ろの空は青空。
青空の下にどこまでも広がる草原が目の前に現れる。それはこれから訪れる領域の主が創った世界。ジョシュアの領域とは異なる領域。
「では主様、私たちはいつでもあなた様の傍に、行ってらっしゃいませ。武運をお祈りしております」
気が付けば、ジョシュアたちの後ろで一列に並んだ黒い装束の女性たちが一斉に頭を下げていた。これだけの女性に送り出されたのはジョシュアにとっては初めてのことだが、自然と胸が張る思いがした。
「いくぞシリウス」
「はい」
彼らは踏み出す。他者の領域に。
――彼女は数多の愛を受け、愛を説く、愛を忘れた女性。
広がる青空は、彼女の心の広さを現し、広がる草原は、彼女の心の暖かさを現す。花も咲き、美しい世界が広がっている。
――だって綺麗にしてれば愛してくれるから
彼女は愛されすぎたあまり、愛を忘れた女。
故に彼女に使徒はいない。この領域にいるのは、彼女のみ。
――だって独りなら、楽なんだもの。
ジョシュアは思う。美しい世界だと。ジョシュアから一歩離れて歩くジークフレッドの眼には、うっすらと涙が浮かんでいる。
綺麗なものしかない世界は、ある意味歪で、ある意味醜い。
ここは彼女以外存在しない『孤独の領域』
主の名は、マリィメア・ファリーナ・セブティリアン。
「誰かと思えば、まさか正攻法で入ってくるなんて。兄さんは馬鹿なのか?」
ジョシュアの目の前に現れたのは長い黒髪の女性。彼女の持つ曲刀はすでに鞘から抜かれている。
ユークリッド・ファム・セブティリアン。マリィメアの娘にしてジョシュアの妹。
ジョシュアは草原に、ゆっくりとカレナを下した。うっすらと開けられた彼女の眼は、ジョシュアにあることを訴えかける。
ジョシュアは頷く、言いたいことはわかっている。加減してと、彼女は言っているのだ。
「シリウス、カレナを頼む」
「はい」
ジョシュアは歩く、ユークリッドの下へ。背中から巨大な両手剣を取り出し、片手でそれを持ちながら歩く。
「ファム、お前のせいでカレナは動けなくなった」
「義姉さんが悪いんだ。だって、あんなに、抵抗するから」
「反省してないのか?」
「だって、仕方ない、仕方ないんだ。生きてるならいいじゃないか。どうせ、治せるんだろ。私は悪くない。だって、世界のためなんだから。騎士として当然のこと」
「思えば俺は、お前に対して甘やかしてたのかもしれないな。少し、仕置きが必要なようだ」
「兄さんにできるはずない。私は強いから。私は、最高の騎士。先祖返りして私は精霊になって、しかも母様の力で、神種の力を貰った。人のままの兄さんに勝てるわけがない。ここを通したら、母様が、絶対に通さない」
「通す通さないなどどうでもいい。今だけは領域も願いもどうでもいい」
「兄さんが勝てるわけがない。また、血まみれにして、追い出してやる。私はここを守る。母様を守る。だって、母様、可哀想だから。私は母様が好きなんだ」
「こうなるはずがないと思ってやったのか、こうなるに違いないと思ってやったのか。それすらもどうでもいい。来いファム」
ユークリッドの周囲に浮かぶ青い刃の一本一本が全てジョシュアの方へ向いた。
彼女の眼は虚ろで、薄くて、しかしながら真っ直ぐで。
「兄さん、私が勝ったら、帰ってくれるよな?」
「ああ」
「約束だぞ兄さん」
「だが俺が勝ったら、お前は家に帰るんだ。いいな?」
「……わかった。でも帰らない。帰れない。私は母様のために、ここを守る。最期の時まで」
ジョシュアは剣を両手で握る。ユークリッドは剣を顔の前で構え、そして右に払う。
二人は腰を落として、互いの眼を見合って。
ジョシュアは剣を上段に構えた。ユークリッドはそれを見て、浮かんでいる剣を三本、足元に並べた。
踏み込めば足を斬るという意思表示。足元の刃を嫌って飛び込むのはさらに駄目、浮かぶ水の刃は一本や二本じゃないのだ。
「ファム、いいか。全力でやるぞ。俺は全力でやる。しっかり避けろ。急所は避けるが、俺の剣、直撃すれば死ぬぞ」
「はっ、何を言ってるんだ。当たるわけないだろ兄さんの鈍い剣が。冗談がうまくなったかな兄さんは」
「いくぞ」
その一声、それが合図だった。ジョシュアの身体はまるで巨大な弾丸のように、前へと押し出された。
輝く黄金の右目、それが連なり、線となる。ユークリッドの眼に彼の姿が映るころには、もう両手剣が届く範囲。
ユークリッドは慌てて浮かべていた足元の剣をかちあげさせる。その剣の一本を踏み砕き、ジョシュアの大きな身体は彼女の眼に前に広がった。
ジョシュアに踏み抜かれた水の剣は砕け散る。水となって。
歯を食いしばる彼の顔が見えた時、ユークリッドは後ろに飛び下がった。鼻の数寸先に両手剣の切っ先が通る。遅れて風圧が彼女の長い黒髪を巻き上げる。
地面に叩き付けられた彼の剣は、地面を抉り、土を舞い上げた。
こんなものが頭にあたれば、もはや人の形を保ってられない。彼女は一瞬のうちに理解した。
間合いを取らなければならない。ユークリッドはそう思い、もう一歩、足を蹴りだし、後ろへと飛んだ。距離を取りながら周囲の水の刃を飛ばす。
それは一直線にジョシュアに向かって飛んでいった。
踏み出す。ジョシュアは剣を振りかぶりながらまた踏み出す。振りかぶったその両手剣の衝撃で、飛んでいた水の刃は一瞬速度を失った。
水の剣の隙間からまた彼の巨大な身体が迫りくる。
彼の動きは止まらない、ユークリッドは、守ることしかできなかった。一瞬のうちに水の刃を出すと、自分の身体の前に刃の華のように並べる。その後ろで曲刀の刃で受けの体制を作る。
容赦なく振り下ろされる巨大な剣は、そのすべてを砕いた。
「うあっ」
思わず声が漏れた。ユークリッドはへし折れた曲刀と、砕ける水と共に後ろへと飛んだ。飛ばされた。
彼女の身体はそのまま地面を削って、そして止まる。折れた剣を杖にして、ふらふらと立ち上がる彼女の目の前には、また両手剣を上段に構えて腰を落とすジョシュアの姿が見えた。
「なん、で、こんなに強く……」
ユークリッドは驚愕した。自分の兄は確かに強いだろう。だがここまで強いはずがない。
立ち上がったあと、ユークリッドは折れた剣を見た。それは砕けたというよりも、切断されたに近い状態だった。
「……切断? まさか、兄さん精霊の石を」
「レイスはいいものを選ぶ。触れれば斬れるぞ俺の剣は」
「馬鹿な、兄さん法力が無いのに、何故精霊の石を」
「俺は契約でレイスと繋がっている。法力はあいつのモノだ。だからこういうこともできる」
ジョシュアは腰をさらに落とした。彼の身体の周りに光の線が走る。それは斬撃、斬撃の線。
数千、数万、数億、その線は束になり、彼の身体を覆い隠す。
束は、形を作る。全ての形は、ジョシュアの身体の周りに、集まる。当然のように、彼はそれを成す。
銀色の鎧。どのような形であれ、彼の鎧化した姿は、銀色。
それは白銀と呼ぶには暗く、黒金と呼ぶには明るく。
深紅のマントを纏った銀色の騎士が、ユークリッドの前に現れた。彼の両手剣は当然のように幅広の大剣になる。
「次は受けることもできないぞ。わかってるな?」
「……わかったよ兄さん。私も、技を使うよ」
ユークリッドは、彼女は折れた剣を胸の前で構えた。周囲に円を描き、水の刃は彼女の方を向く。
貫く水の刃は青い水泡に、水泡は形に。
青い鎧に赤い二股のマント。周囲に浮かぶは鋼の剣。無数の鋼の剣。
折れた剣は青い透明の刃に。
彼女の鎧は、常に同じ、だが浮かぶ刃の数は嘗てよりも多く。
青い騎士は、銀色の騎士の前に現れた。
「義姉さんも少しの間だけ着たこの鎧。あの日から少しだけ、義姉さんの匂いがする」
「いくぞファム、俺の仕置きは少し痛いぞ」
「兄さん私は、己惚れた男が嫌いだ。調子に乗るな」
空気が冷える。二人はヘルム越しに互いの眼を見る。
そして、ジョシュアは飛び出した。地面を砕きながら。その動きはさらに速く。ジョシュアの身体に周囲の空気が叩き付けられる。
それを押しつぶして、彼は迫りくる。ユークリッドの眼前に。
振り下ろされる大剣。ユークリッドが飛ばした剣はその剣に叩き落されて、地面に転がる。
ゆらりとユークリッドの身体が揺れる。そして増える。水の鏡、水の像。本物はただの一人。
ジョシュアは大剣を横に払う。三つの像が消える。
何かを感じる。空気の裂く音。咄嗟に彼は剣を背に回した。
「む……っ!?」
背に衝撃が走る。背の剣に何かが叩き付けられた。金属の音が鳴り響く。
「ちっ……後ろに眼があるのか兄さんは……!」
ジョシュアが振り向くと、そこには降り注ぐ無数の剣が見えた。
彼は眼を見開く、一時も閉じてはならない。眼を開け続けて、見続けて、これを切り抜けなければならない。
大剣を斜めに払いあげる。固定化された水の剣は、剣圧でジョシュアの身体に届く前に下へと落ちる。
まだまだ剣は降り注ぐ。ジョシュアは剣を返すと、振り下ろし、飛んでくる水の剣をまた叩き落す。
まだまだ、止まらない。まるで雨のように。
咄嗟にジョシュアは飛んでくる剣を躱しながら、その剣の柄を握った。右手に大剣、左手に水の剣。彼の腕力であれば、片手で振ったとしても降り注ぐ剣を叩き落すほどの威力はある。
左右で交互に剣を振り、ジョシュアは次々と降り注ぐ剣を叩き落す。時には躱して、時には大剣の腹で受け止めて。
「ぬうりゃあああああ!」
降り注ぐ剣を落とす。簡単に彼はパチパチと落としているが、実際にはすさまじい技術。実際には猶予は点でしかない。点で点を落とす。神がかり的技術。
ユークリッドはその動きに一瞬見惚れていたが、すぐに我に返ると、ジョシュアが左手に握っている水の剣を水に戻した。
振り上げたところで水に戻るその左手の剣に、ジョシュアは一瞬動きを止められた。ねじ込むように右手の大剣で目の前に迫る剣は打ち落としたが。
彼は大剣を両手で握り直す。踏み出す足に、力を込め、地面を叩き付ける。舞い上がる土に、宙に浮いていた剣は狙いを外し、ジョシュアの左右に突き刺さった。
彼は飛ぶ、大上段に剣を構えて、盾のように交錯する水の剣を砕きながら、それは青い騎士の頭へと飛んでいく。
数十本を塊にして、その大剣を受け止めるユークリッドは、息を切らせながら叫んだ。
「兄さんは母様を殺したいのか!? 何で、ほっといてくれないんだ!」
「訳も言わずに! カレナを斬っておいてほっといてくれだと! 通るかそんなものは!」
「だって! 母様は巻き込んじゃダメだって言ったんだから! ああしとけば追ってこようなんて思わないだろ!? いいじゃないか死んでないんだから! ちゃんと急所は外したぞ!」
「やっていいことと悪いこともわからないのか! お前は子供の頃から、何かと極端だった!」
「それは兄さんだろう!? あんなに小さい身体だったのに! なんでそんなに鍛えちゃったんだ! 腕とか私の足よりも太いじゃないか! 気持ち悪いって言われなかったのか!?」
「ほっておけ!」
ジョシュアが叫びながら、力を込めると、数十本の水の剣はビキビキと割れていった。
「うっぐっ……何て力ぁ……」
「シリウスを何故連れて行った! 守りたいなら、俺にまずいえばよかっただろう!? そんなに俺は信じられないのかファムっ」
「だ、だって、あの子は、守らないと、赤ん坊だぞ! 一番安心できるところに連れて行こうって母様が、義姉さんがあんなに抵抗するなんて! 一生会えなくなるって言ったら、しがみ付いて離れなくて! 何度説明してもっ……だから、ちょっと、追ってこないように……最低限で最大限のっ……」
「当たり前だろう! 母親だぞ! 子と離れされて、平然としていられるか!?」
また、水の剣はへし折れた。ジョシュアとユークリッドの間にある水の剣は、これで十数本に。
「あっぐあっ、そ、そうだ……そうだ! 義姉さんに、イラッと来たんだよ! 私と兄さんしかいなかった家に入り込んで、私ができないこといっぱいできて、そうだよ! 嫌いだったんだ義姉さんがぁ! かたくなに、私たちを否定するあの姿見て、死んでもいいと思ったんだ!」
「仲良くしてたじゃないか!? 何故だ!?」
「義姉さんは素晴らしい人だ! でも、でも、何であんなに女なんだ!? あれじゃ私は、一つも、義姉さんに勝てないじゃないか、あんなの、兄さんは私よりも、義姉さんといる方が楽しそうだった! 兄妹なんだぞたった二人の! 楽しくて……楽しくてぇ、子供の頃みたいに、私をかまって! 本を読んでくれ!」
周囲から水の剣が降り注ぐ、ジョシュアはユークリッドを守る十数本の水の剣に大剣を叩き付けると、自分の後ろを払って降り注ぐ剣を弾き飛ばした。
ジョシュアは地面に着地すると、ひねるように大剣を横に払った。ユークリッドを守る数十本の剣とまた、鍔迫り合いとなる。
「大体、毎日毎日、夜に、聞こえてるんだぞ兄さんっ……寝れないだろうあんなの聞こえて来たら! ちょっとは抑えろよ兄さん!」
「それは、いや、俺もさすがにやりすぎだったとは思ってる……すまないそれは謝る」
「謝るなよ! みじめになるだろうっ……ぐぐぐぅ!」
「ファム、そんなにカレナが嫌いだったのか。悪かった。だがな」
「大好きだよ馬鹿! 義姉さん大好きだよ! 後悔、後悔しかしてないんだ……何で、あんなにいい人を、いつも私を気に掛けてくれて、好きな食べ物もすぐに覚えてくれて、真っ直ぐで、眩しくて、ただの嫉妬だ私の……兄さんとられたただの嫉妬だ……わかってるんだ私」
ユークリッドは膝を付く。彼女を守る剣は、彼女の鎧ごと砕け散った。
「……そうか」
ジョシュアの鎧も、線となって消えた。ユークリッドは折れた剣を握りしめ、涙を流しながら上を見ていた。
「何てことしてしまったんだろう、自分に言い訳しなきゃもう、私はもう……」
「もう一度聞く。何故、こうなった?」
「……母様は言ったんだ。シリウスを狙う、敵たちが現れるって。守るためにここへ連れてくるのがいいって」
「何故強引に事を行った?」
「だって、シリウスをここへ連れて来て、それで終わりなんだ。義姉さんは、兄さんに守ってもらおうって頑なに言ってたけど。神域は甘くないんだ。だって、狙われたら、いきなり傍に現れるんだぞ。守れるわけがないじゃないか」
「……ならばカレナも連れていけばよかったんじゃないのか」
「私もそう思ったんだけど、義姉さんは、否定したんだ。子供が逃げ続けなければならないような未来をあげれないって。私の頬を叩いてまで、私を説き伏せようとしたんだ」
「それで、斬ったのか」
「イラッときて、気が付いたら剣が出てたんだ……後で後悔したけど、でも私の心の中に、この人は、きっと、この前向きなところがきっと、兄さんを惹かせたんだって思ったら……ごめん。兄さん」
「そうか……それで、どうしてカレナの魂を奪ったんだ?」
「……え? 私、そんなことできないぞ」
「何だと?」
「……もしかして母様が? いや、でも、そんなことできないはずだけど……」
「……母さんはどこだファム」
「奥でシリウスといる。あっちに真っ直ぐ行ったら会える」
「わかった」
ジョシュアは座り込むユークリッドから離れると、カレナの下へ行き、彼女を抱きかかえた。
「シリウス。行くぞ」
「はい」
そしてカレナを抱いた彼は、ユークリッドが指さす方向へと歩き出すのだった。




