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白銀の剣と黄金の世界  作者: カブヤン
第三章 極光の夢
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第2話 精霊会議

 人の世界においての最高戦力は、世界が繋がった今でも最高戦力。


 それは精霊の世界において最強の軍勢であるロンディアナ騎士団と言えども、集団としては及ばない。


 彼らは揃う。ルクメリア城内のある部屋に、大きな円卓を囲むその部屋に。


 彼らは服の一部に紋章を着ける。それは精霊騎士の紋章。人数は7人。


「ライアノック卿よ、今回は少ないな。他の皆は新世界の探索か?」


「はい国王陛下」


「新年祭も関係なしか。家族もおる者もおるだろうに、不便であるな」


「今は致し方ありません。ではこの人数で始めましょう。国王陛下御言葉を」


「うむ」


 円卓を囲む騎士たちは全員立ち、王に向かって敬礼をする。王は彼らの前で手を掲げる。


 ルクメリア王国国王、ラズグレイズ・ルクメリアは騎士たちを見回し、そして号令を発する。


「各々、新年を迎えられたのは皆の働きあってのものである。昨年は闘技大会に精霊の世界への遠征とご苦労であった。ではこれより精霊会議を始める」


 王は腕を下し椅子に腰かける。それを見て、ルクメリア王国の大臣であるシグルス・ライアノックは騎士たちに着席を促す。


 円卓に着くは7人の騎士。順位は下から、精霊騎士第13位ジョシュア・ユリウス・セブティリアン。人の世界と精霊の世界を繋げた男。


「休暇中にすまんなジョシュア卿。疲れはどうか?」


「問題ありません」


「そうか、身体を大事にいたせ。貴公の功績はまさに英雄と呼ぶに値する」


「ありがとうございます」


 精霊騎士第12位ゼッシュレイド・セブティリアン。ジョシュアとユークリッドの父であり、ここ20年程常に第12位を維持している者。その無精ひげをこすりながら彼は座っていた。


「ゼッシュ。久しぶりであるな。最近は遠征任務も受け取らんようだが、何かあったか?」


「ええまぁ、孫がいるんで、ちょっと遠出は控えようかと」


「ははは、そうか、そういえば子が生まれた時も国から離れようとしなかったな。精霊騎士が国にいてくれるのは心強い。家族を大事にせよ」


「はい、すみません国王陛下。甘えさせていただきます」


 精霊騎士第10位ベルドルト・ディランド。槍の名手である彼は涼やかな顔をしていた。


「ディランド卿。新年になって改めて、正式に昇格おめでとう。まだまだ貴公は若い、上位に食い込むのも時間の問題と私は思っている。期待しておるぞ」


「ありがとうございます国王陛下。まだまだ未熟者の身、一歩一歩確実に成長したく思っております」


「うむ」


 精霊騎士第8位ヴィック・ザイノトル。どの戦場であっても必ず生還する彼は、斥候としては世界最高の技術を持つ男。


「ザイノトル卿も一つ昇格したのだったな。おめでとうザイノトル卿。昨年の闘技大会、あのベルクード卿に真っ向から勝つとは成長したものだ」


「偶然です。ベルクード卿の体調次第では敗れていました。できれば早めに再戦をいたしたいものです」


「ベルクード卿は身体が弱いからな……最近は屋敷から出ていないと聞く。心配であるな」


「はい」


 精霊騎士第6位バルガス・エルフレッド。若かりし頃から常に王直属の護衛にして、国王相談役の元老院の護衛も兼任する騎士。


「バルガスも良い歳になってきたな。ライアノック卿のようにそろそろ後任を選ぶ時ではないか?」


「まだまだ現役で大丈夫です国王」


「ははは、お前は変わらんな」


 精霊騎士第5位グラーフ・リンドール。若干30歳にして現ルクメリア騎士団団長。稀代の騎士。


「見事に世代交代をしたものよ。リンドール卿の働きはよく聞いておる。最近は家に帰っておらんようだが、妻は何も言わないのか?」


「言われますけど、今は頑張り時です。でもできればライアノック卿を貸していただきたく願います」


「うむ、では早速明日から騎士団の方へ回そう。存分に使ってくれ」


「ありがとうございます」


 精霊騎士第2位ユークリッド・ファム・セブティリアン。闘技大会未だ負けなし。全ての女騎士の憧れ。


「私が生きてるうちはお前の負ける姿を見ることはないかもしれんな。そろそろアイレウスに挑んでみるか? いつでも場を用意いたすぞ」


「是非と言いたいところですが、残念ながら国王陛下が言ったとしてもあの方は戦ってくれません」


「うむ、あやつは必要な時以外は剣を抜かんからな。徹底しておる。仲間同士で切磋琢磨するのも大事だと私が思うのだがな。まぁそれとなく私からも言っておこう」


「はい、お願いします」


 以上7名、これだけの数でも一国を傾かせることのできる者たち、世界最高戦力精霊騎士。


「しかしついにセブティリアン家の騎士は全員精霊騎士となったか。遺伝かのゼッシュ?」


「肝心の父親が万年12位ですが。ははは、自慢の子供たちです」


「よく育てたものよ。さて、ライアノック卿、今日の議題を」


「はい、では皆これを見てくれ」


 シグルス・ライアノックは円卓の中心に大きな地図を広げた。そこには手書きで精霊の村や町が書き込まれており、細かな注釈が細かく書かれていた。


 そして、南の中心に、海の中心に書き込まれている巨大な島。


「噂には聞いておるかと思いますが、南の海に新しい島ができました。急ぎ島へ赴き形状を調べ、この地図へと反映させています」


「ほぅ……島に行った際に同行したのは誰か?」


「ザイノトル卿と、その部下数名です国王陛下」


「なるほど、ではザイノトル卿、この島の様子を話してくれんか」


「はい、と言いたいところですが、申し訳ございませんが上陸はできませんでした」


「なんと? どういうことだ。この地図は?」


「外周から見て作成いたしました。上陸しようにも抵抗にあいまして、強引に行くのは得策ではないと判断しました」


「原住民でもおったか。被害は出たか?」


「ありません」


「うむ……強引にでも探索を行う必要があるのか、それとも、向こうが接触を持ってくるまで置いておくか。どうするか。皆何か意見は無いか」


「よろしいでしょうか陛下」


「リンドール卿か、申してみよ」


「はっ、御言葉ながら、我々が争いの火種になることは本末転倒であると考えます」


「うむ」


「ですが、精霊の世界にもなかった島です。調べる必要はあると思われます。そこで、隠密行動に優れた者を数名送ってみてはいかがでしょうか」


「であるな。して、誰が良いか?」


「当然、まずはザイノトル卿。そして上陸にはミリアンヌ嬢を連れていくと楽にいけるでしょう」


「ミリアンヌか。あやつ動いてくれるであろうかな。精霊騎士は王の命礼にも拒否できうる権限が与えられてるからな……」


「そこはご心配なく。動かす方法ならいくらでもあります」


「そうか、ではその二人を派遣しよう。戦力的に十分か?」


「ジョシュア卿も行ってもらいましょう。彼がいればいざとなれば飛んで逃げれます」


「ジョシュア卿は休暇中だが……よいかジョシュア卿?」


「問題はありません」


「そうか、では貴公に頼もう。すまぬな、戻り次第休暇を取ってくれ」


「ありがとうございます」


「では次の議題に……と、新年祭であるしな。長引かせるのも悪かろう。皆の者、世界は今平和の中にある。今年も一年、活躍を期待する。精霊会議後にジョシュア卿とザイノトル卿は出立の準備に取り掛かってくれ。ではライアノック卿」


「はい、では全員立て! 敬礼せよ!」


 精霊騎士たちは立ち上がり、王へ向かって敬意を表した。王は頷くと、シグルスを連れて王の間へと下がる。


 それを見て解散していく精霊騎士たち、一人、また一人と円卓の間から離れていく。


 最後に立ち上がるのは黄金の眼を持つ男。椅子に立てかけていた白銀の剣を持つと、ジョシュアはゆっくりと立ち上がった。


「おいユリウス」


 ジョシュアに話しかけてくるは壮年の男、ジョシュアの父、ゼッシュレイド。


「父さん、久しぶりだな。ずっと町にいたのなら会いに来ればよかったのに、どこ行ってたんだ?」


「ちょっと沖合の海賊狩り」


「闘技大会棄権したくせに仕事熱心なんだな父さん」


「一回はやったぞ。十分だろ。俺はそんなに闘技っての好きじゃねぇんだ」


「ずっと12位なわけが少しわかった気がするよ」


「まぁな。これで維持できるんだから安いもんだね精霊騎士ってか。でユリウス。ファリーナは家に行ってるのか? 聖堂に行っても全然会えなくてな」


「ああ、シリウスが生まれてからは毎日家に来ている。母さんの部屋ちゃんとあるのに夜は聖堂に帰ってしまうんだが。父さんからも泊まって行けって言ってくれないか」


「夜かぁ……あそこ夜男子禁制になるからなぁ。主に俺のせいなんだが。そっかじゃあ家帰った方が会えるなそれじゃ。じゃあ一緒に帰るか。お前の遠征準備もあるしな」


「遠征と言ってもこの距離。数日でいけるんじゃないか? ミリアンヌ嬢がいるし」


「あんまり言ってやんなよミリアンヌの石の力。あいつあれで隠してるんだからさ。俺たちの前じゃ鎧化一回もしないんだぜ。石ばれても尚な」


「便利に使われるから?」


「そうそう、現に俺とファムには便利に使われてるしな。あいつ着飾ってるけども、家だと日がな一日下着一枚で菓子を食べながら本読んでるようなくらぁいやつだからな。へへへ、家行ってみるか? バインバインが見れるぞ」


「母さんに殺されるぞ父さん」


「そりゃ本望。あいつに殺されるんだったら俺もお前みたいに愛人連れ込んでみようかなぁ。しかしお前嫁さんと似たような顔したのを連れ込むとは、よくみつけたなおい」


「たまたまだ。いや違う。そういうのじゃない。俺は父さんとは違うぞ。さすがに嫁に殺されたくはないんだ」


「そうかぁ? たまには刺されんのもありだぞ? はっはっは」


 二人は肩を並べ、円卓の間を出る。背はジョシュアが頭一つ高いが、ゼッシュレイドの背中はジョシュアとそう差は無い。筋骨隆々の男が二人。微笑み合いながら歩く。


 そして彼らは、自らの家族が待つ家へと向かうのだった。

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