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白銀の剣と黄金の世界  作者: カブヤン
第二章 黄金の世界
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第27話 災厄の日 絶望

 白銀の剣は闇に飲まれることはない。それは世界最高の剣。きっと誰にも折ることはできない。それは不死身の剣。


 だがその担い手は、彼は、不死身ではないのだ。


 黒い獣たちは彼に襲い掛かる。仲間が何体殺されようが、一瞥することもなく、彼に襲い掛かる。


 剣の間合いに入った者から斬り捨てる。ジョシュアがその白銀の大剣を振ると、獣の身体は分かれ死んでいく。


 続けること数時間、もはや思考すら薄まるほどの時間を、白銀の騎士は暴れ続けていた。


「しゅぅぅ……はぁぁ……」


 口を細めてその白銀の面越しに息を押し出す。圧倒的な体力を誇るジョシュアと言えども、数時間剣を振り続けるのはかなり疲れる行為である。鎧の隙間から汗が流れ出てくるほどに、彼の全身から汗が噴き出していた。


「……さすがに、疲れてきたな」


 獣の中心でジョシュアは剣を握り、そして呟く。周囲に味方がいないという状況が、彼に弱気を吐かせる。


 空ではヌル・ディン・ヴィングが空を舞う獣を引き裂き、噛み殺していた。空から降り注ぐ獣の身体と血に、ジョシュアは少し、嫌悪感を感じていた。


 そして、空間を裂き、光り輝く白い剣士が現れる。白い剣士の周りには石が二つ浮いている。


「待たせたな。石の補給してきたぜ。大丈夫かジョシュアよ?」


「ああ大丈夫だランド」


「石が割れるたびに離れてるせいかな。何つーか、戻ってくるたびに敵が強くなってるような、増えてるような、そんな気がしてきたぜ」


「そうだな……」


「よっしゃ、どんどんいこうぜ。王まであと少し、だろたぶん」


「そう思いたいな」


 ランディルトは手をジョシュアに向かって振ると、光を放って飛び出した。


 圧倒的速度、まさに一閃。ランディルトが走ったあとは細切れになった獣が転がるのみ。


「うらぁ! いい加減殲滅されろやぁ!」


 ランディルトの動きは眼にも止まらない。彼の剣は光の線となって敵を静める。ランディルトの白い鎧は一瞬で返り血で金色に染まる。


 獣たちは、ランディルトの方へを意識を集中する。巨大な野獣は牙を剥き、ランディルトを威嚇する。そして飛び掛かろうと野獣は屈む。


 野獣が飛び上がろうと足に力を入れた瞬間に、身体の中心に線が走った。勢いに任せて身体を両断されながらも飛び上がる獣。空中で二つになってそれは左右に分かれ落ちる。


「後ろを向くな。学べ」


 白銀の騎士は気を緩めない。たとえ疲労が蓄積し、今にも膝をつきそうであっても。


 獣たちはジョシュアとランディルトの二人によって次々と斬り裂かれていく。


 しかし、しかしながら


「……ランド、おいランド」


「何だ? 今いいところなんだけどな」


「気のせいじゃない。増えている、倒した数以上に、増えている」


「……だよな」


 ジョシュアたちは空を見上げる。黒い塊から落ちてくる獣たち。それはまるで滝のように。押し出されたように。


 二人は剣を握る。白銀の騎士と白い騎士は、互いの眼を見て、頷く。タイミングを合わせて黒い獣たちに飛び掛かろうと、二人は足に力を込める。


「ランド遅れるなよ」


「俺は時間にはきっちりしてる方だ。任せ、なっ、ちょっと待てジョシュア! 上じゃねぇ城だ! 城を見ろ!」


「何?」


 ランドの言葉に促されるように、ジョシュアは空に浮かぶ城を見た。そこには黄金の城が、そして黄金の兵士が――


 黄金の兵士たちが翼を広げ、ゆっくりと降りて来ていた。それは獣ではなく、翼を持つ精霊の姿ながら、肌も眼も髪もすべて黄金に輝いていた。黄金に輝く兵は数は12人。


 兵たちは地に着く、それぞれ異なる武器を持っている。一人は剣、一人は大剣、一人は槍、一人は双剣、一人は鎖、一人は短剣――


 兵たちは歩く、一歩、一歩、獣たちは一歩下がり、兵たちの通る道を作る。


 それは黄金の騎士、12人の黄金の騎士。全てが黄金色。


 一歩、一歩、一歩、歩を合わせ兵たちは歩く。


「何だ? 獣ではないぞ。ランド何だあれは」


「生きてるようにも見えないなぁ……敵か? 俺もわからねぇ」


 騎士たちは歩き、ついには獣たちの先頭に立った。ジョシュアとランディルトの前に彼らは立った。


 そして騎士たちは足を踏み鳴らす。両足を揃え、武器を胸の前で構え、そして腕を降ろす。


 それは、宣戦を示す騎士の仕草。


「我ら、守護騎士が12名、王の命により、人に宣戦布告する! 精霊に仇なす者は全て排除する! いざ!」


 騎士たちは声を合わせ、告げた。それは王の意志、王の命、王の目的。


「守護騎士? そりゃ、千年前に全滅した王を守護する……」


「ランド、何だあいつらは」


「……いや、俺にもわからねぇ。マーディ・ロナは知ってるだろうが。まぁ城からでてきたってだけで、敵だと思ってもいいだろうな」


「そうか、なら、覚悟を決めてもらうか」


 守護騎士たちは足を鳴らす。黄金の光を放ってそれぞれが黄金の鎧を纏う。


「我ら守護騎士12名、これより」


 そして、ジョシュアは飛んだ。白銀の大剣を構え、大上段で守護騎士の一人に向かって飛び掛かる。


 一刀両断、白銀の剣は如何な金属であれども断つ。黄金の兵士は1人、細い剣を持った騎士は二つに分かれた。


 身体が真っ二つになった守護騎士の1人は、黄金の血を飛び散らせ、消えていった。まるで最初からいなかったかのように。死した騎士は消えていった。


「これで……何だと」


「我ら守護騎士12名」


 白銀の騎士が、ジョシュアが顔を上げると、依然として守護騎士たちは並んで宣戦の構えをとっていた。黄金の鎧を着て。


 その数は12、ジョシュアが斬った騎士は消え、そして数は元に戻る。


 守護騎士は12名、常に12名。


 ジョシュアは剣を振り上げた。白銀の剣に巻き込まれて2人の騎士が身体を四散させて消えた。


「我ら守護騎士12名」


 ジョシュアは剣を横に払う。黄金の守護騎士がまた2人砕け散る。


「我ら守護騎士12名」


 守護騎士は12名、四散しようとも、砕け散ろうとも、12名。


 王は1人、守護する騎士は12人。それは、変わらない。精霊の世であっても、人の世であっても。


「何だ? 何だこいつらは」


「ジョシュア! あっちを見てみろ!」


「何?」


 ランドの指す指の先、その先には――


「何だ……!? 何が起こってるんだ!?」


「分からねぇ!」


 黄金の騎士たちが舞い降りていた。その数12人。彼らが地に足を着け、そして歩く。歩く。歩く。


 12人の黄金の騎士たちは次々とジョシュアの周りに、遠くに、世界中に、舞い降りていく、そして世界にヒビが広がる。空が割れる。黄金の光が走る。


 まさに黄金の世界。世界は今、光で覆われていた。


「光、まずい、すさまじい勢いで光が広がっていく。ランド大丈夫か!?」


「くそっ俺の石も二個目砕けちまった! 何なんだいきなり! 災厄は、獣だけのはずだ! それ以外は聞いたことがない!」


「……どこまで、光が広がってるんだ? まさか」


「いや、この空、地平線、これは……なんてこった……」


「世界中に、広がったのか?」


 ジョシュアたちのいる大陸、隣の島、世界中。光は広がっていく。そして騎士たちは世界中に舞い降りる。


 災厄は、王の力を得て、今世界と言う境界に力を及ぼし始めていた。それは黄金の守護騎士を携え、まさに過去最高最大の規模で災厄をもたらす。


 王の意志は失われ、残るは王に向けられた人を滅ぼし世界を救ってほしいという願いのみ。純粋な願いのみ。純粋で、最低な願いのみ。


 願いをかなえんと守護騎士たちは動き出す。その数は12人、数は不変。何度死しても12人。意志は、願いは死ぬことはない、常に前に進む。ジョシュアにも、ランディルトにも眼すら向けない。ただただ彼らは前へ進む。


「ランド! お前は石を補給しに行け!」


「お前は?」


「俺は……王の石を、砕く。もはや一刻の猶予もない」


「わかった。俺は何とかこいつらを止めて見せる。なぁに、精霊が獣化するには相当時間がかかるんだ。きっと、まだ大丈夫さ。きっと」


「……レイス達を見つけたら保護してくれ。レイスは、あいつは、もう十分に苦しんだ。もうこれ以上はいい。いいんだ」


「……そうか、わかった。俺はあいつらを守る」


「それじゃ俺は行くぞ。王の待つ、城へ」


「ああ、結果論だが、獣ほっといていけばよかったよな」


「言うなランド。俺も後悔している。さぁこいヌル・ディン・ヴィング! 俺はここだ!」


 ジョシュアは滑空してきたヌル・ディン・ヴィングに飛び乗ると、そのまま空を飛ぶ獣たちを蹴散らし黄金の城へと向かった。


 王を守る。守護騎士が何よりも優先しなければならない命令。


 12人一塊で大量に湧き出た守護騎士は、城へと向かうジョシュアの背を見ていた。そしてジョシュアに最も近かった12人は消えさった。


 ランディルトは紫の石を握り、その場を後にする。守護騎士も、白い騎士も、白銀の騎士もいなくなった後の獣たちは、皆空に向かって叫び、前へと進む。黄金の光に導かれ、黒い獣たちは前へと進む。


 そして精霊の世界は、黄金の光が充満し、黄金の世界となった。

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