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白銀の剣と黄金の世界  作者: カブヤン
第二章 黄金の世界
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第25話 災厄の日 破滅

 ――力は形を成す。純粋な力は野生。ここでは誰もが獣になる。




「レイス、包帯を。ここから巻いてくれ」


「あーこう?」


「そうだ、うまいじゃないかレイス。何でも飲み込みがいいなお前は」


「シエラは最初っからできるんだろ? だったらそっちのがすごいんじゃないかぁ?」


「私はこればかりしてきたからな。すごくはないさ。さぁ父上、動けますか? 父上?」


「……んあ? ああすまねぇ、寝てた」


「麻酔薬無しで縫合してるのによく寝れますね父上」


「まぁ慣れだな。よっし……」


 岩陰からランディルトは身体を起こす。治療をしていたシエラとレイスもそれに続いて立ち上がる。


 彼らが眼に入ったのは、まずは黄金の四枚の翼。次に浮かんでいる黄金の城、そして黒い塊が爆ぜていく光景。


 シエラとレイスは固まる。彼女たちの頭では処理できないような光景が目の前に広がっていたから。


 ランディルトは脱いでいた上着を着ると、剣を握り腕を組んでいた精霊の長老マーディ・ロナの隣に立った。


「マーディ・ロナ。これは何だ? 随分派手になってるじゃねぇの」


「ランディルト、起きたか。主も話には聞いておろう。災厄が起こったのじゃ。王を核としてな」


「ああん? 千年前に起こったっていう? 父とその仲間が何とかしたっていう?」


「うむ」


「何でまた、一万年以上周期はあるはずだろ?」


「そう思うておったがな、ワシが生きとる間に二度目に会うとは思いもよらんかったぞ」


「昔過ぎて実感がわかねぇが……」


「父上!? こ、これはなんですか!?」


「ばあちゃん何なんだよこれ!」


「俺もよく知らねぇが……なぁシエラよ。不思議に思わないか? 精霊は歳を取らない、だが千歳を超えてる精霊は一握りしかいない」


「は? はぁ、言われてみれば、100を超えれば不摂生からか病気で死ぬ者も多いですが、それにしても長生きしてない気がしますね。長老様ぐらいです私が会った千歳以上の精霊は」


「で、俺達の目の前で起こってる災厄、あの黒いのは獣の海っていうんだが、あれが千年前にも起こったんだよ」


「はぁ……なるほど、そ、それであれはなんですか?」


「あれが何か、というよりもこの二つを繋げてみろ。千歳以上が極端に少ない今、そして千年前に起こった災厄」


「……えっと、レイスわかるか?」


「しらねぇよぉ」


「あー……じれってぇ。いいかシエラ、これと同じ現象が千年前に起こってな、精霊は片っ端から死んだんだ。もちろん人もだぜ? 生物の数は災害前の数万分の一になったらしい。あーこええよな」


「はぁ……はっ!? な、何ですって!? 父上もう一度!」


「だから、これは精霊全員が死に絶えかねない現象だっつーんだよ」


 ランディルトの言葉に、シエラは口を開け唖然とした。横で聞いていたレイスも同じ顔をした。


「なっ……なっ!? ど、どうしてこんな悠長にしてられるんですか! 早く! 早く止めないと!」


「ちょっと待ってよ! あれ、あれで死ぬの!? 逃げないと! いや違う皆逃がさないと!」


「落ち着けぃ、逃げ場などないわぃ。ちなみに千年前はまだましな方じゃぞ。一万年前の災厄では精霊は数百程度になったからな」


「な、あ……長老様も、父上もっ……はっ先生? 先生はどこですか?」


「ん? あれそういえばいねぇな。マーディ・ロナ、どこいったんだあいつ」


「あっちじゃ。ほれあそこ」


 マーディ・ロナは指を立て、黒い海の一点を指す。そこの一点だけは黒さはなく、黄金の血しぶきと白銀の光、そして暴れまわる竜の姿があった。


 ヒビ割れた空の下で、白銀の騎士は一人、獣たちを屠る。


「……獣の海押しかえしてるのかよ? マジかよあいつ」


「思った以上に強いのあやつ。だがさすがに手が足りんようじゃ。四方に広がる獣の海を抑えるには一人ではきつかろうな」


「そうか、シエラ援護に行くぞ」


「はい父上」


「馬鹿言うな。王の力が逆流しとるんじゃぞ。近づけば獣の仲間入りじゃ。今度の災厄は本気で厄介じゃぞ。厄だけになー」


「こんな時に何言ってるんだよマーディ・ロナ。じゃあどうするよ? っていうか何でジョシュアのやつは大丈夫なんだよ?」


「あやつは人じゃからな。人は精霊の力に耐性があるんじゃ。まぁ、獣化しないってだけじゃがの。長時間ああやってればそのうち頭がやられて廃人になるだろうなぁ」


「そうか……くそ、あいつに全部背負わせなきゃいけねぇのか」


「馬鹿を言うではないわ。そんなことはさせん。そーこーで、これじゃ」


「ああ?」


 マーディ・ロナが空間に手を突っ込むと、何もないところから巨大な木箱を取り出した。


「おわっ!? どこから出したんだばあちゃん!」


「お姉さんじゃ! っていうかこの愛くるしい身体を見てよくばあちゃんとか言えるなレイスぅ!」


「だってがきんちょって言ったら怒るし……」


 箱をドンと地面に置くと、その小さな足で箱を蹴り上げる。蓋が開き、箱の中身が露わになる。


 そこには色とりどりの石、精霊の石、魂結晶。それがしきつまっていた。


「ちょ、長老様!? これほどの石をお持ちだったんですか!?」


「しかも全部密度は最高じゃ。まぁほとんどワシの弟子の石じゃがの。そーれで、ほれランディルト。これ持っておれ。これと、あとこれか」


「あ? ちょっと待て、投げるなよ」


 マーディ・ロナはひょいひょいと箱から石を掴んではランディルトに投げた。ランディルトは片手でそれを器用に受けていく。


 数は三つ、色は赤と紫、そして緑。


「何の石だこれ。属性は?」


「属性なんぞ関係ないわ。よいかランディルト、その石がお前の代わりに精霊の力を受け止めてくれる。それを身に着けておれば少しの間なら光の中でも活動できるはずじゃ」


「本当か? 試したのかよ?」


「光の中に一個投げてみた。しばらくはもつが、いずれ割れる。最後の一個になったらその紫の石を使ってこっち戻ってこい。それは空の属性の石。空間を飛ぶことができる。その属性めったにないんじゃぞ?」


「紫のが割れたら?」


「全力で走ってもどってこい。獣になる前にな。シエラを泣かすんじゃないぞ?」


「んなっ適当な、それじゃもっと山ほど石をくれ。そっちの方が安心だ」


「三つが限界じゃ、それ以上だと反発して同時に割れるぞ」


「……ちっ、しょうがねぇ。それじゃ斬るだけ斬って、やばくなったら戻るを繰り返せばいいんだな? その箱の石、全部で何個あるんだ」


「187個」


「どんだけあるんだよ。それだけあればまぁ、しばらくもつか」


「これだけあれば一日は戦えるはずじゃ。これ以上力が広がらなければ、だがの」


「全く、不安ばかり煽りやがる。よしじゃあ俺もジョシュアのやつの手伝いに行くぞ。で、獣の海斬りまくったあとはどうすりゃいいんだ?」


「王の石を壊せ。それで獣も消える」


「……いいのか? 精霊の力、あふれるんじゃないか?」


「そっちも防ぐ術がある。一時的じゃがの。そっちはシエラとレイスにやってもらおう」


「はい? 私たちが?」


「それランディルト、行け。行って斬って、また戻ってこい。何度も何度も繰り返せ。持久戦ぞ。漏らしたら、世界が終わるぞー?」


「てっめぇ……こんな時まで変わねぇばあちゃんだよしかし。それじゃ行くか。ヌル・ディ・バラン! こい! 俺を乗せろ!」


「ヌアアア! ランディルト様我が背に!」


 ランディルトが天に向かって叫ぶと、一瞬で竜が出現した。その背に飛び乗り、ランディルトは黒い獣たちの海へと突っ込んでいく。


 空中でランディルトは白い騎士へと姿を変える。その姿は白く、黒い獣たちの中で一際輝いていた。


「さぁて、では次はシエラとレイスじゃ、とりあえずシエラに渡そう。ほれ」


 マーディ・ロナは自分の翼に手を入れ、そこから小さな石を取り出す。小さな小さな石、透明の、傾けなければそこにあるのがわからないような石。


「これは何の石ですか長老様?」


「これは無属性の魂結晶。そう、無属性、なーんも入っとらんからっぽの魂結晶。生まれる前の、赤子の身体から取り出したもの」


「あ、赤子の? なんて」


「えっぐいか? そうじゃの否定はせんよ。だがこれができる赤子は滅多におらん。ワシが一万年で、一個しかこれはなかった。無の属性が魂結晶中で最も希少価値の高い属性じゃ」


「……こ、これで、私とレイスは何をしろと?」


「王の石をこれで複製する。境界の属性にしろとはいわん。ただ、集める効果だけでも複製するのだ。月の核にして空に飛ばす」


「はぁ!? 私にはそんな技術など……れ、レイスお前、できるか!?」


「できるわけねーだろぉ……あたし、騎士とか戦士とかじゃないんだぞ?」


「そ、そうだよな。長老様、そんなこと急にいわれても私たちは……」


「慌てるな、ワシが教えてやるわ。よいか? 複製は同じものを作る必要はない。属性を組み合わせるのじゃ。まずは吸収、吸収というよりも吸引だが、この石がそうじゃ。埃とかとるのに便利じゃぞ」


 そういうとマーディ・ロナは青い石を取り出した。透明度の高い水色の、澄んだ水のような石を。


 それを透明の無属性の石の横に置く。


「は、はぁ……それで、これを?」


「魂の力はレイスが圧倒的じゃ、まずはお主がやれ。両手で二つの石に触れよ」


「わかった……こうかぁ?」


「集中せよ。二個同時に発動させるのだ。ああ、心配するな二つ重なって発動させても無属性の石は砕けん。丈夫じゃからな」


「うん」


 レイスはマーディ・ロナの言う通りに両手を添え、石に集中した。水色が透明の石に移り、二つの石はゆっくりと光る。


「それで、シエラ、レイスの手の上から制御しろ。吸い過ぎると無属性の石が染まりきってしまう。半分ぐらいでいいぞ」


「はい、レイスそれじゃ手を重ねるぞ」


「あー……あっ!」


「あっ? どうしたレイス?」


「…………シエラごめん。われ、ちゃった」


「ん? 手をどけてみろレイス」


 レイスは石から手を離す。その手の下では、無残にも砕け散った石が二つ。


 砕けた石が二つ。


「あああああ、何しとるんじゃあああ!? ワシの無属性の石ぃいいいい!」


「ごーめん、何かぱきっといったとおもったらさぁ」


「一個しかないんじゃぞ一個しかぁぁぁ! ああああ!」


「ご、ごめん、他に方法あるんだろぉ?」


「あるわけなかろうこの乳女めぇぇぇ! いくつじゃ! お主いくつじゃ!」


「は、はぁ? 16だけど……」


「16で魂結晶割れるほど力があるやつなんぞいるものかぁぁぁあ! 天才か! お主天才か! よぉしわかったお主天才だな!」


「お、落ち着いてください長老様」


「あああどうするぅぅぅ!? ワシどうするぅぅぅ!? 何なんじゃお前は! 歳の割になんなんだその身体つきは! 魂の力が強すぎて成長止まったワシに対する当てつけか!? 初潮すら来とらんワシに対する当てつけか!? 無駄に肌だしおって!」


「わ、わるかったって! っていうか落ち着けって長老様よぉ!」


「どぉぉぉぉするぅぅ! どうするぅぅ! ワシどうするぅぅ! お主ら知らんのか無属性の石! 持ってないのか!? っていうかお主らの属性は何じゃ! 見せろ! 無属性だったら取り出す!」


「ちょ、長老様、私は光の属性です」


「乳の無いシエラは光! 乳があるレイスお前は!?」


「あるのは翼だっての……あたしは知らない」


「ええい見せろ! 眼を見せろ! ワシの手を取れワシの手を!」


「わかったって……ほら」


 マーディ・ロナは顔を真っ赤にしてレイスの眼を覗き込む、手を握る。翼をさする。そしてまた眼を見る。


「むむむ……! お主治癒だな属性。空の属性並みにもんのすごく珍しいが今はそれどころじゃない……ど、どうする!? お主知らんか!? 赤子、そうだ、生まれる前に亡くなった赤子、知らんか!? っていうかお前ら子供おらんのか!? っていうか作れ! よし作れ! お前らで作れ! 見てるから!」


「いろいろ鬼畜すぎます長老様、落ち着いてください……」


「ああああ……いかんワシの作戦が、このままじゃジョシュアでもランディルトでも、王の石を壊した瞬間に世界が終わるぅ……壊さないでも終わるぅぅ……すまぬワシがやるやつてきとーに選んだばかりにぃ……でもワシがやると小さい精霊の石は一瞬で壊れてしまうんじゃぁ……」


「赤子……ねぇ、心当たりあるっちゃあるけど、あれは……なぁ」


「む!? レイスお主心当たりあるのか?」


「……ああ、まぁ、ちょっとだけ。でも遠いぞ。ここどこかしらないけど」


「遠さなど関係ないわ! ワシに任せろ空の属性の石がある。これでどこへでも飛べるぞ」


「…………うーん。でも、ね」


「レイス? 気乗りしないのか?」


「シエラ、ごめん、そういうつもりじゃないの。でも、いや、気乗り……しないかな」


「……そうか。長老様」


「うむむ? 何じゃ、何かあるのか? でも無属性の石なければ世界は終わるんじゃぞレイスよ」


「いや、大丈夫。じゃあ行こうぜぇ長老様。あたしの村へ。場所は、えーっとマーカスの町から……」


「うむ、では急ごう。ジョシュアたちが暴れてるが、いつまで持つかわからん。気のせいか黒い獣の海、さっきよりも広がってる気がするしの。ほれワシの肩に触れろ。翼には触れるんじゃないぞ?」


「はい、長老様」


「おーよ」


 そして、石が大量に入った箱を残し、レイス達は姿を消した。


 黒い獣の海の中ではジョシュアとランディルト、そして二頭の竜が獣を殺し続けている。王はそれをみて、ただ呟くのだった。


 進め。と

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