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白銀の剣と黄金の世界  作者: カブヤン
第二章 黄金の世界
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第23話 王

 玉座の彼は、全身に管を付け、王座に座る。


 流れ込むのは黄金の血、出ていくのも黄金の血。黄金の血は身体に流れる。


 王の肌は艶を取り戻し、王の胸は上下する。


 それは王だった入れ物。入れ物を無理やり動かす最悪の光景。四肢は開かれ、管に繋がれ、全身を無理やり動かされる。その光景は異様で、異形で、異常で。


「生き、返らす、気など、なかった? あれじゃ、もう身体を動かすことなど……うっ」


 シエラは声をひねり出し、その光景を受け入れようとした。吐き気を催す光景に、思わず口を押える。


「な、何これ。周りに倒れてるやつは何? あの、腕も足も切られてびくびく動いてるのは、何なの? あ、あたしは、こ……んな、ひどい……」


 レイスが嘆く、周囲に倒れているのは鎧を着た兵士たち、全ての管は兵士たちの身体へとつながっている。


「血を、循環させておるのか? 仲間の身体と心臓を直接使って。あやつ……何をしてるんじゃランディルト……」


「うっ……ち、長老様、これは何の、何なんでしょう」


「……ワシにもわからん。こんなことをして何の意味があるんじゃ。これでは……ただの人形ぞ。操りの糸が切れれば成すすべなく崩れる。そんな儚い人形ぞ」


「……すべての管、外しましょう。死者にこそ、尊厳を。レイス手伝ってくれ」


「わかった……あたしもこれは、ひどいと思うから……」


 シエラとレイスは王から生える管に手を掛ける。その管は王の肉体から伸び、倒れているロンディアナ騎士団の兵と繋がっている。


 二人は管の根を探した。しかし根本は見つからない。引っ張っても腕から抜ける気配もなかった。


「切るしかないか。でも……」


「シエラ、どうするんだぁ?」


「……長老様、これ、切ったら」


「血が噴水のように出るだろうの。兵は皆死ぬ。王は全身から血を流して無残なことになろう。王には悪いが……このまま魂結晶起動してしまうがよかろう」


「……わかりました。では私が」


 シエラは王の胸に手を伸ばした。そこには黄金の石が輝いている。胸から生えた黄金の石。これこそが、黄金の月を創った彼の魂結晶。境界の属性を持つ魂結晶。


「王、すみません」


『王、すみません』


「えっ!?」


 シエラが王の胸に手をあてつぶやいた言葉は、王の口から王の声となって発せられた。


 その声は深く響く。彼らの心をその一言で釘付けにする。


「今しゃべったこいつ! シエラ何したの!?」


「な、何もしてないぞ! 長老様!?」


「うーん。これはぁ……」


 四枚の翼はローブのように折りたたまれ、マーディ・ロナは王の身体をみる。


 彼女が王の石に優しく触れると、マーディ・ロナは顔をこわばらせた。


「これは、もう一つ入っとる魂結晶。何じゃろう、風か? 振動を……そうか、ランディルト。そういうことか」


「長老様?」


「それで、どうする? うーむ、ワシなら、いや……」


「長老様!」


「む? ああ、すまぬすまぬ。憶測を抜きにするとじゃなぁ。とりあえずこやつに触れて喋ったことはこやつの体内の石に反応し、喉を震わせて同じ声を発せさせる。魂結晶のちょーっとした応用じゃの」


「な、なるほど」


「とにかく魂結晶を起動させよ。話はそれからじゃ」


「はい……世界の境界を解けばいいんですね。レイスすまない力を貸してくれ。私では少し手に余る密度だ。いつも通りお前が起動、私が操作だ」


「あーわかった」


 シエラとレイスは王の胸に手を伸ばす、二人の白い指は重なり、王の魂結晶に触れる。


「それじゃいくぞレイス。集中しろ、これで先生の目的も、達成だ」


「まっかせろシエラぁ」


「世界が繋がるかぁ……さぁて1000年でどこまでかわったかの……」


 二人は力を集中させる。石が光り始める。


 そして――壁が壊れた。


「ぬおおおお!?」


 砕ける壁から伸びるは白銀の大剣、それを受け止めながら壁を貫き倒れ込むは白い鎧の騎士。


「ち、父上と先生!?」


「ジョシュア!?」


 すぐさま立ち上がる白い騎士。壁からゆっくりと出てくる白銀の騎士。


 彼ら二人に眼を取られ、シエラとレイスは王の胸から手を離す。


 白銀の騎士、ジョシュアの鎧は細かな傷があれど、一切の破損は無い。だがところどころ赤い血が流れている。


 白い騎士、ランディルトの鎧はところどころが欠け、金色の血が流れている。


「くっそぉっ! 俺の剣でも致命傷にならねぇ、なんつー鎧だ!」


「鎧を貫く剣、どういう仕組みだ……だがこれで終わりだ。覚悟しろランディルト」


 玉座を前にして、二人は剣を交差させる。


「何だこの広場は……王の間か?」


「ぐ……しまった。ここへ来てしまったか」


 二人の騎士は顔を上げる。その姿に、レイスとシエラは眼を奪われる。


 そしてランディルトは王の胸に伸びる二人の手を見る。


「なっ!? 待てシエラ! 待つんだまだ早い!」


「ち、父上!?」


 ランディルトは叫ぶと、光となってシエラたちの元へと飛び込んだ。ジョシュアはそうはさせんと剣を振ったが、すでにランディルトの姿はジョシュアの目の前にはいなかった。


 シエラとレイスは訳も分からず王の傍から離される。蹴り飛ばされた二人はマーディ・ロナの力で一瞬宙に浮き、壁に叩き付けられることはなかった。


「いったいなぁ! 何するんだお前ぇ!」


「父上、まだあなたはっ……何なんですかこれは! 王が、死体とは言え、あんまりです!」


「はぁはぁ、くそっ傷ついた身体で、やっちまったっ……」


 そうランディルトは呟くと白い鎧は解け、傷だらけの彼が現れた。黄金の髪、赤い眼、そして金色の血。全身を汚し、彼は膝を着く。


 その姿に、見限ったはずの父の姿に、シエラは心を痛めた。


「はぁはぁ……畜生め……鎧で少しは止血されてたのか……」


「ランディルト、俺の勝ちだ」


 ジョシュアの鎧は粒子と化し、空へと消える。白銀の鎧が解けたその下には、赤い血がところどころ流れていた。


「さぁ、ここで終わりだランディルト。何をしたかったのか話せ。シエラに話せ」


「ぐ、ぐ……無理だ。言っちまったら俺は……俺たちは……」


「な、何のことですか? 父上? 先生?」


「シエラ、あいつは」


「言うな! くそ……ここまでしたのに、終わりかよ」


 ランディルトは地面を叩く。血まみれの身体で地面に倒れ込み、地面を叩く、二度、三度。


「くそっ……俺は、俺達は、王を創る。王を創るんだよ! シエラを王にするんだよ! 邪魔するんじゃねぇ!」


「――えっ?」


 地面を叩きながら叫んだその言葉で、シエラは固まった。時間が止まったかのように。


 レイスがシエラの背を叩くと、シエラの時間は動き出す。


「あ、な、何言ってるんですか父上? 王は、ここにいて、蘇らせるために……」


「くそっ……」


「……そうか、ランディルト、お主はそう答えを出したか」


 マーディ・ロナは翼を広げ、そして畳む。黄金の四枚の翼はその動きに従って光を残す。


 ランディルトは腰を回して、座りこむ。


「……そーだよ。全部台無しだよ。王は、いないんだ。蘇ることもない。だが身体を活性化させることはできる。こんなえぐい方法だがな」


「表だけ蘇らせ、そして動かす。仲間の肉体と血を使って、か。ようそんな方法見つけたの。ワシも知らんかったぞ」


「何度か実験したんだ。罪人の死体でな。まぁ基本は、俺が考えたんじゃなくて、父が考えたんだが。昔この方法で死にかけた仲間を救ったらしい。まぁ、王は血が固まりまくってたから、こんな風に管だらけにしちまったがな」


「な、何故、何故です父上! それと、私が王になることと、何の関係が」


「俺たちは世界に反旗を翻す。精霊を裁く存在として、精霊を殺しに行く。そしてそれを防ぐために動く者がいる。それはシエラを中心とした、ロンディアナ騎士団から離れた者たち。まぁ、自作自演だがな」


「浅いが、ロンディアナ騎士団の評判は極端じゃ。素晴らしい集団と言う声もある、やりすぎと言う声もある、民衆は一つのことを大きく捕らえる。ランディルトが一つ街を落とせば、一気にロンディアナ騎士団は悪となる」


「そうだ、そして俺はシエラに殺される。シエラは英雄になる」


「そして王は、生前やり残した最大の仕事をする、かの? お前のシナリオは」


「ああ……王は、シエラお前を次の王に、自らの声で指名するんだ。そのために喉をいじった。それで世界は一つになる。お前の下で一つになる」


「わ、私が、王に……で、でも、それなら、もっとこう、やりやすい方法があったのではないですか!? いや、違います、父上が王になる方法も!」


「俺は騎士団の代表だぞ。騎士団を敵にして、自分が倒したらバレバレだろう。一人でも疑問に思ったら終わりなんだよ。反乱の種になるからな。はぁ全く……この作戦はさ、お前が俺を憎んでなければできないんだよ。お前、もう俺を斬れねぇだろ?」


「……はい」


「ジョシュアに俺がわざと嫌われるようなことをしてたってバレた瞬間に、俺の作戦は半分失敗だ。殺せりゃ続けれたんだが、あー……敵がでねぇかなぁ。シエラが倒せて、しかもそれなりに凶悪な奴。これがむっずかしいんだよなぁ……どうやれば英雄になれるのかなぁ……」


「……父上、いいじゃないですか王などいなくても、ゆっくりと、一人ずつ悪を倒していけばいつか終わりますよ。父上、世界を繋げます。いいですね?」


「……王の魂結晶、使うとなぁ。体内の声の石、割れるんだよ。魂結晶は二つ以上近くで発動すると弱い方が飲み込まれる。まぁこのばあさんが使えば例外だが」


「お姉さんと呼ばんか馬鹿者」


「父上、どいてください」


「血を流し過ぎて動けねぇよ。馬鹿力め、まともに入ったのは一つもないのにこれかよ。お前の師匠はつええなぁ……そりゃ惚れるわ」


「そうでしょう自慢の先生です。仕方ないですね父上。では私が引っ張ります」


「お手柔らかになぁ……」


 シエラは微笑みながら、ランディルトの手を引っ張る。ランディルトも顔を下げ、照れくさそうにしながらそれに引きずられる。


 ジョシュアはそれを見て、剣を鞘へと納めた。


「さぁて、やるかの。レイス、シエラ、世界の壁を取り除け」


「はい、レイス行くぞ」


「よぉし、まっかせろよーと」


 レイスとシエラはまた、二人揃って王の胸に手を当てようとする。


 これで世界は繋がる。ジョシュアはそう思い、帰った後のことを考え始めていた。


 二人の手は王の胸にあたる。




 ――進め。




 二人は慣れた手つきで、集中する。力を込める。




 ――進め、進め。この先に




 これで旅が終わる。そう思った瞬間に――


「っ!? シエラ!」


「な、なんだ!?」


 王は、目覚めた。


 世界に、ヒビが入る。世界に、光が漏れる。


 王は切断された手足から伸びる管を吸収し、繋がっていた兵士を吸収し、四肢を再生させる。


 そして、王は玉座からゆっくりとゆっくりと、立ち上がる。


 レイスとシエラは王から飛び退く。ランディルトは信じられないものを見るかのような顔をする。


「何をしたお前たち!? 精霊の力が逆流しとるぞ!? 王が貯めに貯めた精霊の力が!?」


「な、何もしてない! 何もしてません長老様! レイスお前か!?」


「してないって! あたし何もしてない!」


「俺はこんな仕掛けは……してねぇぞ。マーディ・ロナどういうことだよ?」


「何でもかんでも聞くんじゃない! ワシもわからんことがあるわ! とにかくここから離れろ! ジョシュア、ランディルトを抱えよ! ここにいたら……全員獣になるぞ!」


「わかった」


 ジョシュアはランディルトを抱え、駆ける。レイスもシエラもそれに続く。マーディ・ロナは一瞬王をみて、そして他の者を追う。


 王は、蘇る。黄金の城は光り輝く。




 ――進め、進め、この先に、進め、進め、世界を壊すために

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