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白銀の剣と黄金の世界  作者: カブヤン
第二章 黄金の世界
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幕間 精霊の王

 王の眼は皆を導く。王の口は皆を酔わす。王の耳は全てを聞く。彼は絶対的な王。大きな金色の翼を広げ、王は玉座に座る。


 民は王に、夢を見る。王なら、王なら、王なら。


 王は玉座から、世界を指揮する。眼前に迫る絶対的な力に、王は決断を迫られる。


「王! 次はどうしますか!」


 誰かが叫ぶ。


「王! 指示を! 皆死んでしまいます!」


 誰かが叫ぶ。


「王!」


「王!」


 皆は王を呼ぶ。王は一つ一つに丁寧に答え、そして、決断の時を待つ。


 王の妻はすでにいない。


 王の娘はすでにいない。


 だが彼は、玉座から立ち上がろうとはしない。王は玉座に。ただ座る。


 ――王は、迷っていた。


 王は、生まれた時から王であったわけではなかった。彼はとある村で生まれ、成人するまで畑を耕していた。両親と姉の四人で彼は細々と暮らしていた。その暮らしは数百年続いた。


 村から一歩出るとそこは修羅の世界。物を得るのに者を無くす世界。


 嘗ての、精霊と人が共存していた世界は、王がいなかった。力の有るものが無い者を支配し、力が無い者には一切の権利が、生きる権利がなかった。


 そこは暴力が支配する世界。無秩序な世界。


 ある日、同じ村の友人が皆を集めて、叫んだ。


 ――さぁみんな、やろうじゃないか。もう奪うことはない、誰も殺さなくていい、友になればこんなに楽しいんだ。こんなに。教えてあげようじゃないか世界中の人々に! みんな笑って過ごそう!


 叫んだ友人は、精霊の血と人の血を持つ翼のない者。精霊と人は愛し合える。友人になれる。


 彼を入れて12人、小さな村から飛び出した。


 まず彼らが向かったのは村の周辺を支配していた領主の元。3日で制圧し、村を含めた一帯を開放した。


 次に、街道に蔓延っていた蛮族たちを全て排除した。


 その次に、隣の町を支配する者を倒した。


 彼ら12人、世界各所の悪行を行っていたものを次々に排除していく。


 やがて、彼らを世界中の皆はこう呼ぶようになった。


 『精霊騎士』と


 精霊の命の結晶である魂結晶の力を使い、人と精霊を守る者たち。


 騎士としての信念の元、秩序を築く者たち。


 彼らはまさに、精霊騎士だった。


 数十年の時が流れ、彼らは1人、また1人と旅から離れていった。最後に残った者は彼を入れて5人。


 彼らが疲れ、癒しを求めて自らの生まれ故郷である村に戻ると、その村は、なくなっていた。


「仇を討とう!」


 彼は、後の王はそう叫んだ。


 だが彼らの仲間たちは、戦いにもう一度赴くことはなかった。家族の死を乗り越え、壊れた村を修復し、再び平穏な暮らしに戻っていった。


 彼は、耐えきれなかった。家族の死を乗り越えれなかった。


 彼は1人で村を飛び出した。村を壊した賊を全て殺すと、二度と同じようなことが起こらないよう、世界中を再び巡り、悪を全て殺し続け、そして自らの手で征服していった。


 そして彼は、王となった。


 王となって数十年後、人と精霊の争いは再び始まってしまった。


 精霊竜が空を舞い、巨人と化した人がそれを落とし、そして互いに殺し合う。互いの種を絶滅させるまでは終わらない、最終戦争が始まってしまった。


「王!」


 王は、迷っていた。王が考える戦争を終わらせる方法では、人と精霊は二度と出会うことはなくなる。


 自分を導いてくれたあの日の友、彼は皆が笑える世界をつくろうと言った彼を、裏切ってしまう。


 王は無力な自分を嘆いた。王にならなければ、守るべきものがなければ、きっと、自分は、違う方法を選べたはず、そう王は思いそして涙した。


 結局、そう結局は、選択には責任がついてくるのだ。


 王は玉座から立ち上がった。もはや王は誰にも何も言わない。


 そして王は――世界を分けた。


 精霊の王、彼は皆のために自分を犠牲にしたのではない。彼は、犠牲にならざるを得なかったのだ。

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