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白銀の剣と黄金の世界  作者: カブヤン
第二章 黄金の世界
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第14話 再会の人

 家の扉が開く、無精ひげを生やした男が扉の隙間から顔を出す。


 嘗て、ルクメリア騎士団においてベテラン騎士として精霊騎士を支えていた彼は今は昔、ゼインは愛想笑いをし、手で入れと合図をした。


 ジョシュアのマントを羽織っていたレイスはマントを脱ぎ、はたいて埃を出すとくるくると巻いて家に入る。ジョシュアはそれに続きゼインの家に入る。


「いらっしゃい。そこに座れよ。今嫁が飯を持ってくる」


 ジョシュアとレイスは椅子に座り、二人は荷物を降ろした。ジョシュアは鎧を外し、荷物の上に無造作に置く。そして、肩をコリコリと鳴らすと、レイスはジョシュアの肩を片手で揉んだ。


 レイスは周りを見回すと、感歎の声をあげた。


「おーいいところに住んでるなぁ」


「ちょっと昔稼いでな。今日はゆっくりしていってくれよ。ケーナ、まだか?」


「今持っていくからちょっと待ちなさい」


「おう」


 どんどん並べられる料理の数々。色は相変わらず赤みが無いが、豪勢な料理であることはジョシュアの眼からも見て取れた。


 ジョシュアは唾を飲むと、フォークを手に取った。いただこうと腕を広げた。


 だが、誰も食事に手を出そうとしないのでジョシュアはフォークを静かにテーブルに置いた。


「焦ったなばぁか。まだ料理きてるんだぞぉ? かっこ悪いなぁ」


「黙ってろレイス」


 コトコトと、机に料理が並べられていく。その量は三人分どころではなく、机はあっという間に料理で埋め尽くされた。


「大奮発だぁ。へへへ、急な話な割にしっかりできたじゃないかケーナ。それじゃミスティとサリシャを呼んできてくれ」


「はいはい」


 そして、数刻後、ゼインの隣には三人の女性が座った。白い髪の翼無しの女性、短髪の翼無しの女性、桃色の翼を持つ女性。女性たちが皆の食事を小分けしていく。


「おっし、揃ったな。それじゃ、白い髪のやつがケーナ、髪が短い奴がミスティ、髪が半端で翼があるのがサリシャだ。皆俺の妻だ。ほら挨拶」


「よろしくね」


「よろしく」


「よろしくぅ」


「んで、でかいのが俺の後輩のジョシュア君だ。白い翼の方はその連れの……なんだっけ?」


「レイスですゼインさん」


「そうそれそれ。というわけで皆よろしくしてやってくれよ」


 ジョシュアとレイスは無言で頭を下げ、それに応えるようにゼインの三人の妻もそれぞれ頭を下げた。


 ゼインがフォークを手にすると皆それに続きフォークを手にし、料理を食べ始める。ジョシュアはゼインが生きてたということよりも、三人も妻を娶っていたことの方が気になって仕方がなかったが、そういうこともあると言い聞かせ食事に集中していた。


「なぁ、なぁんで嫁三人もいるんだぁ? そりゃ一夫多妻とかお偉いさんは普通にしてるけどさぁ?」


 レイスがジョシュアが気になっていたことを聞いた。ジョシュアは心の中で、少しだけレイスに感謝した。


「そりゃ好きだからだろ! なっ?」


「まぁねぇ」


 ケーナがゼインに答える。その声は少しだけ、先輩騎士のミラルダに似ているとジョシュアは思った。


「こっち来てからちょっと大変でな。行く先々で悪い奴懲らしめてたらいつの間にかこうなってたって感じ。いやぁ精霊の世界はいいなぁ! 向こうじゃ俺全然モテなかったのに! はっはっは!」


 ゼインは高らかに笑う。三人の妻は黙々と食事を進める。


「……ゼインさん。もしかして、知ってるんですか。あなたの奥さんたちは」


「何が?」


「いやその……世界がとかいう話は」


「えっお前隠してたの?」


「いや、そういうわけでは……」


「なぁんだ歯切れわりぃなぁ。でもその反応、無口かと思ったら意外と表情コロコロ変えるところ。変わんねぇなぁ」


 ジョシュアは気まずそうな顔をして、言葉を濁す。いつもいつも前を向いて、キリッとした姿しか知らないレイスは、そんなジョシュアの姿を見て少し顔を緩めた。


「何が可笑しいレイス」


「いーやぁ?」


「ははは、それじゃそろそろ、なぁジョシュア君。俺の事聞きたいんじゃないの? 何が聞きたいよ?」


「はい、何から聞いたらいいものか……とりあえず、えーっと、この一年を」


「一年? ああもう一年ちょっとになるなぁ……俺がリンドール卿と別れた時な。気が付いたら原っぱに寝てたんだ。血だらけでな。んでケーナとミスティに拾ってもらって。そっからはギルドで路銀稼いで世界中周ったんだよ。つっても今思えばそこまで遠くいってねぇけど」


「あの時は大変だったわぁ」


「うんうん」


 ケーナとミスティは、相槌を打ち頷く。レイスはもくもくと食事を口に運ぶ。


「ほらケーナとミスティと俺、いわゆる翼無しだろ? だんだんどこの町行っても相手にされなくなってきたんだよ。困ったぜ金も稼げなくなってきたし。そんな時に、野獣に襲われてるサリシャを助けてさぁ。ちょーっと悪い領主をへこましたんだよ」


「はぁ、つまり、女性三人連れて旅してたと」


「まぁそうだけど。あっちょっとうらやましいか? はっはっは! 俺マジモテてなかったから最初は苦労したぞ。まぁー結果として最高な目にあったがな? お前らも実はそうなんだろ?」


「そうってなんだよ?」


「いや、それは……レイスは黙って食ってろ。それでゼインさん」


「ああ、んでさぁ……ロンディアナ騎士団に目を付けられてな。まぁ、金もなかったし、俺は入団したんだよ騎士団に。まっそのおかげででかい家に嫁さん三人持てる身分になったさ。それで終わり、炎の剣士ゼインは今ここで身を固めてるってわけさ」


「そのゼインさんが、何故露天商などを?」


「やっぱり気づくよなぁ。ああ、まぁ……俺は騎士団やめたんだ。ちょっと合わなくてな。ケーナたちには悪いとは思ったんだが」


「いいのよ別に。あんなの無理にやる必要はないわ」


「ケーナありがとよ。ミスティとサリシャも何も言わんことが逆に最高だぜ」


 ゼインは水を一気に飲むと、木のコップを机に置いた。


「で、ジョシュア君は何しにここに来たんだ?」


「ああ、そうですね……まぁ……長老に、精霊の長老に会いに来たんです。その、俺達の生まれ故郷が今ちょっとややこしいことになってましてね」


「ややこしいことだと? どういうことだよ」


「いや……はぁ、レイスここからいうことは誰にも言うなよ」


「あー? なんだよ?」


 ジョシュアはこれ以上レイスに自分が別世界から来たということを隠し切れないと思い、そして話し始めた。


 世界が繋がりかけてること、人が狂うこと。


 説明が苦手なジョシュアが一つずつ言葉を繋いでいくと、ゼインの顔はみるみるうちに険しくなり、レイスの顔はみるみるうちに驚きに包まれていった。


 そして話してる途中、ジョシュアは一つのことに気付く。


「ゼインさんは、大丈夫なんですか?」


「えっ何が?」


「いや、精霊竜が言うには、こっちに人が来ると狂うどころじゃすまないような何か、すごいことが起こるって……」


「マジで? いや、別段普通だけどさぁ……まぁちょっと血の色に金色が混ざってきたぐらいで」


「それ凄い影響では?」


「そ、そうか? ケーナたちは血の色金色だから、何か食生活変わったせいかなって思ってたんだが。やばいのかな?」


「俺は知りません。ところでレイスはいつまで口を開けてるんだ」


「い、いやだって! 人って! お前ら人って! そりゃーちょっとちがうなーとか思ってたけどさ!」


「……嫌か?」


「い、嫌じゃない! あたしはむしろ、それでいいと思うわ! うん、なんか不思議でいいじゃない! 人は素晴らしいわ!」


「レイス、口調」


「あ、う。ま、まぁ人だろうが精霊だろうが、子供出来るみてーだし。大丈夫大丈夫。あたしは気にしない!」


「そ、そうか……子供関係なくないか」


 レイスは誰からみても無理に笑った。白い翼を胸の前で交差させ、もじもじとしているレイスを横目に、ジョシュアはゼインに向かって口を開く。


「それで、長老に会いたいんです。知りませんか?」


「長老か……サリシャ。確かお前500年生きてるだろ。知らないか?」


「歳言わないでよぉゼイン。そうねぇ……私が子供の頃は長老はこの町に住んでたわねぇ。幼精と一緒に」


「あのちっちゃいやつと一緒にかぁ。俺もほとんどあったことないんだよなぁ」


「ええ、皆引っ越しちゃったからねぇ。でも確かロンディアナ騎士団の団長なら、知ってるはずよ長老と幼精の居場所。だって彼が引っ越させたんだもの」


「あいつかぁ……うーん、昔のよしみ……合わせてくれねぇよなぁ……」


 ゼインが両手を組み、考え込む。対照的に、ジョシュアはその情報を受け、顔をあげた。


「やっと手がかりが来たか。レイス」


「わかってるよっと」


 ジョシュアとレイスは立ち上がる。ジョシュアは鎧を着直し、レイスは荷物を持ち、旅支度を始める。


「お、おい、ちょっと待てよどこいくんだよ?」


「団長に話を聞きに行きます。ゼインさんありがとうございました。どうかお元気で」


「ちょ、ちょっと待て! そんなほいほい会ってくれるほど楽なもんじゃないぞ!」


「わかっています。ただ、結局行った方が早く済みます」


「ゼインだっけ? ジョシュアの友達ならこいつが回りくどいことしないってことぐらい、知っとけよなぁ」


「あーくそ、そういえばダンフィル君も君をそんな風にいったなぁ……あーわかった。俺のコネを使って何とかしてやるから。頼むからごたごたはやめてくれ。明日朝になったら一緒に行こう」


「明日?」


「そう明日」


「……わかりました。楽できるならさせてもらいます。レイス今夜は泊まるぞ」


「わかった」


 ジョシュアは着かけた鎧をまた脱ぎ、レイスは荷物から手を離した。二人の仕草は長年連れ添った仲間のように、もはや何も言わずとも行動するようになっていた。


「気が早いなぁまったく……ケーナ、二人のベッドを準備してやってくれ。客間にでかいベッドあったろ」


「一つでいいの?」


「いいだろ別に。なっ白い翼のお嬢ちゃん?」


「あー? いやあたしは……全然いいけどさぁー?」


「………へへへ、ジョシュア君もやるなぁ」


「何がですか」


 そして、夜は更けていった。町の空は周り、そして日が昇る。


 彼らを進める、日が昇る。

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