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白銀の剣と黄金の世界  作者: カブヤン
第二章 黄金の世界
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第11話 北へ

 紅布を纏った剣士は、黄色い道を行く。その歩みは堂々と。


 傍らには白い翼を持つ精霊。露出の多い服に細身の剣と小さな弓を腰にぶら下げ、剣士の隣で悪態をついていた。


「あーだからさぁ。馬借りろっていったんだよなぁ。北の街は遠いんだからぁ」


 紅布の剣士は大きく息をはき、また顔をあげると歩き出した。


「意地になるなよなぁ。子供かぁーお前はぁ。歩いて何日かかると思ってたんだよぉ」


「二十日ぐらいなら歩き続けられる」


「はぁ!? お前の基準で考えるなよ馬鹿! 連れがいるじゃん連れ! っていうかお前どんだけ体力あるんだよ!?」


「レイス……村に戻ってもいいんだぞ。まだ一日も歩いていない」


「あー? お前、字読めないんだろ? またお金無くなったらどうするんだよ」


「何とかするさ」


「じゃない! そうじゃない! そこは感謝しろよ!」


「わかったわかった。それじゃ少し休もう」


 ジョシュアは荷物を持つ手を下すと、道から外れ草原に座った。レイスはその隣に座る。


「はぁやっと休める……なぁーもし馬車が通ったら乗せてもらおうぜぇ」


「運が良ければな」


 ジョシュアは荷物から食料を出すと、レイスに渡した。街で買った黄色い干し肉、味が濃く、干し肉の割に柔らかく食べやすい食糧だった。


「この肉だってあたしが選んだんだからな。感謝しろよぉ?」


「ああ、そうだな」


 村から出て一日たらず、道中街によって旅支度を整えたジョシュアたちは北へ向かって旅を始めた。


 ジョシュアの目的である精霊の長老は北にいたという、今はいないとのことだがまずはその住んでいた場所へ行こうと思い、出発したのだ。


「いやぁーでもまさかライオが村長になるなんてなぁ。わっかんないもんだなぁ。まぁあの二人なら大丈夫かぁ」


 レイスは空を見上げた。日は傾き、さわやかな風が吹く。彼女の翼は風に煽られ、はためく。


「ジョシュアが持ってた弓も貰ったしさぁ。なぁついでにあの鎧出すのやり方教えてくれよぉ」


「やり方と言ってもな。精霊の石が無ければ無理だ」


「石かぁ……あたしのこれじゃ無理なんだろうなぁ」


 自分の胸元を広げ白い石を触るレイス。その姿をジョシュアは横目にみて、そして眼をそらした。


「お前の石とこれ別もんなんだよなぁ? っていうかお前の石何色?」


「さぁな」


「あーお前、あたしの石みるだけみて自分のは見せないって、何かひどくないかぁ?」


「別にみたいとは言ってない」


「なぁんだよ邪険だなぁ」


 肉を口に放り込むと、レイスは背を伸ばした。そして水を飲み、息を吐く。


「あー生き返るぅ。やっぱり旅の醍醐味は食事ね。っと違う違う。食事だなぁと」


「結局それでいくのか」


「まぁ……ただの見栄かもしんないけどさぁ。あたしはこれで生きてきたんだよなぁ。ギルドと村の行ったり来たり、毎日毎日、なめられないように声張って。まぁ未だ慣れないんだけど」


「そうか、それもまたお前の選択か」


「そうそう、こっからはあたしは何でも届くんだよなぁ。それって、すごく気持ちいいよね?」


 レイスは翼を広げ、草むらに倒れた。翼は地面に広がり、真っ白な羽が数本抜けて飛んだ。


「一か月以内に村に帰らないとって思わないでいいってのが、こんなに気持ちいいなんて。あー生きてるって感じだなぁ」


 遠くの空、そこに太陽は消えていく。別の世界へ来てジョシュアはこの光景をすでに二度みた。


「ここの夕方は、金色なんだな」


「あー? どこでも同じだろぉ?」


「そうだな」


 どこでも同じではない。ジョシュアの世界では夕日は赤いのだ。この世界には欠けている色がある。


 それは赤色。赤い花はあるが、圧倒的に少ない。レイス達も赤を極力使わない。干し肉も赤さがない。


 赤い色に、ジョシュアは少し飢えていた。妻が選んだ深紅のマントは彼にとって少し、眼の保養になった。


「なぁ、お前さぁ……変なこと聞くけどさぁ。もしかして別の世界から来たとか?」


 レイスは寝転がりながら、ジョシュアに向かって顔を向け、そして真っ直ぐな瞳で彼を見た。


 彼は一瞬息が詰まったが、平然とした顔でレイスに顔を向けた。


 真面目な顔するとカレナそのものだなと、彼は思った。


「……じょーだん。何マジな顔してるんだよ」


「そうか」


 ジョシュアはレイスと同じように、寝転がった。両腕を頭の後ろに抱え、空を見る。


 巨大な月、そしてそれを輝かせるかのような星々。こちらの世界の空は、とても大きい。


「何でついてきた」


「えっ?」


「お前の弟は、お前に村長になれと言ったんだぞ。周囲の村もお前に感謝していた。時間が経てばきっと領主にもなれただろう。ここの領土とかはよく知らんが」


「そんなもんいらねーよ。あたしはさぁ。好きなことして、生きるんだよ」


「ならば俺についてくることはない。お前を好いてくれるやつもきっとでてくる。富を得て、家族を持って平穏に暮らせる」


「ばぁーか、そんなもんどーこー言われたくはないぞ。あたしはあたしの好きなようにして、好きなやつもあたしが決めるのよ。勝手に沸いてくるのを待つなんてできない」


「そうか、少しお前が羨ましいかもしれない」


「はぁ? なんでよ。あんたそれだけ強いんだから、そりゃもう好き勝手してきたでしょ?」


「……強いのは強いなりに、苦労があるんだ」


「まー……誰もが自由になりきれないからこそ、誰もが自由になりたいのかもね」


「レイス」


「何?」


「俺はお前はそっちの言葉遣いの方がいいと思う」


「何よ? っておまっ早く言えよな! あーくっそぉ気ぃ抜いたぁ……」


 ジョシュアは起き上がると、深紅のマントを羽織り直し、荷物を持ち上げた。


「さぁ、行くか。少し進んだら宿があるんだろう?」


「街道の宿があるはず、ここまで来たことはないんだけどさ、話は聞いてたんだよな。何でもすごい大きな宿らしくってさ。劇とかもみれるんだと」


「金はあるのか?」


「じゅーぶんに。お前が領主の馬鹿をただでやってくれたからな。へへへー。半年は遊んで暮らせるぞぉ」


「そうか、俺は金に関しては疎い。お前が管理してくれ」


「ジョシュアは貧乏だからなぁ。へへへ」


 ジョシュアは金銭感覚がない。それは別世界へ来たからだというわけではない。


 彼はお金に困ったことがなかったのだ。家は貴族、しかも騎士の最高位である精霊騎士を二人も有する家柄である。溢れるほどの金があの家にはあるのだ。


 カレナが嫁に来て最初にやったことは、家にあるお金を数えること。一晩以上、使用人たち全員を集めてお金を数えた。


 結論としてカレナは、ジョシュアに対して一切の金銭を持たすことをやめた。遠征一回で得られる給金の倍を彼は使うのだ。主に食費として。


 銀貨を十枚渡されてこれで遠征行ってきてと言われた時、ジョシュアは本気で困った。ちなみに銀貨十枚で一般男性は十日は暮らせる。


 そしてこの世界で金を無くす。それは彼にお金の大事さを学ばすにはいい機会となった。


「貧乏……か。まぁ、ありだな」


「何か言ったかジョシュア?」


「いや」


 ジョシュアたちは歩き出した。道に沿って。周りが暗くなったせいで遠くの明かりがはっきりとわかるようになった。


「あたし早く風呂に入りたいんだよなぁ……べっとべとでさぁ」


「あるのか、浴場」


「とーぜん」


「そうか、久々に身体を休めるな」


「……あーそうだ、ジョシュア。お前は人がいない時に風呂に入った方がいいぞ」


「何故だ?」


「翼無しだろ。察しろぉ」


「そんなに気にするのか?」


「あたしは気にしないけどな。無いなら無いで、いいと思うんだ。自分でなりたくてなったわけじゃないし。でもなぁ……きっついのがいるんだよなぁ。あ、別に、ジョシュアが悪いんじゃないんだ」


「だったら気にせずやらせてもらおう。俺は、そういう細々するのは嫌いだ」


「しぃらねぇぞ?」


 歩く先に、明るい灯があった。彼らは並び、進む。


 紅布を背にする剣士と、白い翼の少女。彼らは今、共に進む。二人の道は今、北へと延びている。その先に待つのは今は誰も知ることはない。




 ――進め、進め、終焉に向かって。

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