第26話 審判の刻
――夢をみよう。皆がきっと、幸せになれる。そんな夢を。
「ダンフィル、ミラルダさん。皆を助けてやってくれ。特にリンドール卿が心配だ。あの出血、傷を縫合しなければ死ぬかもしれない」
「応。任せろよ」
「ちょっと待ちなさいジョシュア君。あなた、まさか一人でやるつもり? 精霊騎士三人かがりでも無理なのよ? 今は皆で何とかして逃げるべきよ」
「駄目だ。手負いの今しかない。それに」
「それに?」
「俺の剣を、拾わないと」
「……勝手にしなさい! すぐに手助けしてあげるわ! ダンフィル君はディランド卿を!」
「わかってるぜ。ジョシュアおい、俺の分も残しておけよ?」
「残るさ。たぶんな」
――夢は叶う。それで、それで何だったんだろう。何だったんだろう。
白銀の剣マリア、その白く銀に輝く剣は夜の闇であっても美しく輝いている。
「ああ…! 何と、何という! 君はもう誰にも抱かれたくないといなくなったではないか! マリア! ああ素晴らしい! その強情さ、その意志、素晴らしい!」
ロンドは、眼の前に突き刺さった白銀の剣に手をかけた。その剣はロンドには抜けない。そう、抜けない。彼はそれを知っている。
白銀の剣は抜けない。ある男以外には抜けない。
剣に手が伸びる。それは吸い付くように、その手に収まり、そして、抜ける。地面に刺さったその剣は、いとも簡単に抜ける。
ロンドの目の前に、文字通り目の前に、白銀の担い手は立つ。
「貴様が、マリアを抱くか。素晴らしい! くくく! 愉快である!」
白銀の担い手は、ジョシュア・ユリウス・セブティリアンは、ロンドの目の前に立つ。彼の眼に映るのは笑みを浮かべた男のみ。
「よくも俺の妹をやってくれたな。貴様はここで倒す。ここで、今ここで、倒す。前も言ったが、もう一度あえて同じことを言おう。お前を、斬り伏せる」
「くくく……なれば再び答えよう! やってみせよと! 貴様の手で、我を斬り伏せてみせよと!」
ロンドは、剣を抜いた。禍々しい鞘から抜き放たれる漆黒の刃を持つ剣。ロンドは漆黒の剣を握りしめる。
ジョシュアは白銀の剣を握りしめる。お互いの息が届くほどの距離で、彼らはにらみ合う。
表情は対照的、怒りの表情のジョシュア、満面の笑みを浮かべるロンド。彼らは今、対峙する。
ルード解放のための最後の戦いが今、始まった。
ジョシュアとロンドは互いに超近距離で剣を振り下ろす。互いの肩に相手の剣が当たる。鍔迫り合い、力強く、剣を互いに押し合う。
表情は対照的、歯を食いしばるジョシュア、余裕の表情を見せるロンド。
「ぬうううう!」
「むぅぅ! 素晴らしい膂力だ! 今までの者たちの中でも最も貴様が力が強いぞ!」
ゆっくりと、じりじりと、ロンドは下がる。ジョシュアに押された剣ごと、踏ん張っている地面ごと、ゆっくりと押されて下がる。
「くくく、いい腕だ。力、単純だが効果的だ。前の時よりも、強くなったと我は感じるぞ!」
「その笑み気に入らない!」
ジョシュアは鍔迫り合いの体制から剣を押しあげた。互いに剣が上に弾かれる。
そして剣を振り下ろす。二人はほぼ同じ動きで剣を振り下ろした。
一合、振り下ろされた剣同士がぶつかる。
二合、右から、左から、振り上げられる剣同士がぶつかる。
三合、左右を入れ替えて、剣同士がぶつかる。
剣の打ち合いが続く。何時しかのように防戦一方だったジョシュアの姿はそこにはない。互いの剣は全て互いの急所を狙っていた。受けそこなえば、打ちそこなえば、待ってるのは死。
互いの剣は光を描く、二人は共に死のダンスを踊る。
実際、二人の実力差はかなりのものである。ジョシュアは決して弱くはないが、ロンドの老練の技に対応するには圧倒的に経験不足だった。
だがジョシュアの持つ剣が、白銀の剣が、それを補っている。彼の剣は、重い、重いのだ。彼自身には小枝のような重さしか感じないが、打ち合っているロンドにとっては超重量の金属の棒に打ち込んでいるようなものである。
白銀の剣は、嘗てのジョシュアが愛用していた大剣よりも、彼の持つ腕力を最大限に発揮できる武器である。
剣劇は続く。ジョシュアの剣をロンドは捌けない。ロンドの剣をジョシュアは捌けない。
それにしびれを切らしたのか、はたまた本能か。ジョシュアは打ち込んだ剣をそのまま離した。
剣は勢いを増し、ロンドごとなぎ倒さんと超重量で漆黒の剣を抑え込んだ。ロンドはその重さに耐えきれず、剣を離す。
地面に刺さる二本の剣、伸びる手、ジョシュアの逞しい腕が伸びる。ロンドも腕を伸ばす。右手と左手、左手と右手。手四つ。
力比べ。
「ぬぅりぃあああああ!」
「ぬ、ぬうううううう!」
身長の差はほとんどない。大柄なジョシュアとロンドはほぼ同じ身長である。その二人が力の限り手を組み合い、押し合った。
「うおおおおおおお!」
「ぬ、ぬぅうう! なんという力! ここまで、鍛えたか!」
力はジョシュアの方が強かったのだろう、ロンドは徐々に抑え込まれていった。
「ずぁぁぁあ! 貰ったぁ!」
ジョシュアはそのままロンドを持ち上げると、背筋を使って後方へと投げた。派手に土埃を上げて地面に叩き付けられるロンドの顔は、一瞬笑みを忘れた。
「う、ぬぅ!」
ジョシュアは地面に刺さっている白銀の剣を抜く。振り返りざまに剣をロンドに突き出す。
ロンドは身を反転させ、その突きを躱した。反転させた勢いを利用してロンドは立ち上がる。
無防備、剣のないロンドは今、無防備。
ジョシュアは力強く、白銀の剣を横に払う。
その白銀の剣はロンドの髪の数本を攫い、空を斬った。
ロンドは距離を取る。漆黒の剣を地面から引き抜き距離を取る。彼は、ジョシュアの圧倒的腕力と勢いに、距離を取らざるを得なかった。
「ふむぅ……見事。これまでのどの騎士よりも単純な攻撃である。だが、効果的だ。マリアをよくぞそこまで振り回せる、な」
「もう一度いくぞ」
「ふ……楽しくなってきたな。いいぞ。何度でもかかってくるがいい!」
ジョシュアは剣を構え、飛び込む、再び始まる剣劇。すさまじい速さでまた剣がぶつかり合う。
二人が戦う場所から少し離れたところで、ミラルダはグラーフの傷を治療していた。
「リンドール卿……脈が弱い……!」
「はぁはぁ……ミラルダ……」
「ユークリッド様すみませんリンドール卿を先に……」
「私は大丈夫だ……兄さんを助けてあげてくれ。あれでは兄さんは勝てない。真っ直ぐすぎる。私に兄さんの筋力があれば……兄さんに私の技があれば……くっ悪いが頼む」
「しかし……リンドール卿はこのままでは」
「私が治療する……少し回復してきたからな私は。治療用具を置いて行ってくれ。代わりにこれを持っていけ」
「こ、これって……リンドール卿の精霊の石!」
「リンドール卿も持っていけというだろう……属性は火。お前のと同じだが中級と上級、効率がケタ違いだぞ。同じような感覚で使ったらどこまでも飛んで行ってしまうぞ」
「は、はい……ありがとうございますユークリッド様、リンドール卿」
「頼む、兄さんを……助けてくれ」
「……はい、わかりました。手助けさせていただきます」
ミラルダは立ち上がり、剣を抜いた。剣を鞘に当て火花を出す。その火花はあっという間に炎となり、彼女を鎧姿にした。
朱色の鎧、兜、そして、赤いマント。
ミラルダは歩き出した。剣劇の響く戦いの場へ。
一方で、ダンフィルはベルドルトを助け起こしていた。
「ディランド卿、大丈夫ですかい? 言っちゃなんですが案外丈夫っすね」
「ふふ……ひどいですねダンフィル君。しかし、すみません頭を強く打ったみたいです。足が、麻痺してまともに動けません」
「そりゃ辛いっすね。そんじゃ手に捕まってくださいや。ここから離れましょう」
「いや、大丈夫です。それよりも、ジョシュア君の手助けを。はっきり言って何故あそこまで戦えてるのか私には疑問でなりません」
「いやぁでも……あいつはさ。ああ見えてやるときゃやるんですよ。今まで一度も大事なところじゃ負けてねぇ。今度もきっと大丈夫ですぜ」
「ダンフィル君。これを持って行ってください」
「これは……精霊の石、まさかディランド卿の?」
「はい、属性は風。たまたまですがあなたと同じですね。そよ風でもあっという間に暴風にできますから試してみてください。便利ですよ。貸してあげます」
「そりゃあ……いいんですかい?」
「はい、私はもう動けません。動けてもまともに戦えませんよ。君ならば十分にやれるでしょう。あと私の槍を持って行ってください。君の持ってる騎士団の槍なんかよりもずっと丈夫でいいですよ」
「いたせりつくせりで……ありがたく貰っときますぜ」
「貸すだけですよ」
「へっ、じゃあちょっくら行ってきますぜ」
「私はあそこで倒れているライアノック卿を引きずって下がります。頼みましたよ」
「応よ、頼まれましたよっと。って引きずってってあんたちょっとひどくないっすか」
「いいんですよ。あの人無駄に丈夫ですから」
ダンフィルは受け取った槍を振り、風を纏い、鎧を創る。青く、緑の鎧。兜、そして赤いマント。
彼は槍を回し風を出すと、それに押し出されるように大きくジャンプした。
そして、ジョシュアとロンドの戦いは続く。
ロンドはジョシュアと距離を取り始めていた。ジョシュアの攻撃は少しずつではあるが、確実に捌かれ始めていた。
打ち込むジョシュアの剣を斜めから抑え、軌道をずらす、超重量の白銀の剣と言えども軸を動かされてはまともに打ち込むことはできない。
ジョシュアは我武者羅に剣を振ったが、ロンドはその剣を巧みに捌き始めていた。真正面から。
「くそっ!」
ジョシュアは、少しイラつきを感じていた。彼の全力の剣を受けていた男は、いつの間にか軽くかわし始めていたのだ。技量の差が出てき始めたのだ。
「まだまだよ。その腕力にマリア、それに加えて精霊騎士並みの技量があれば、きっと一人で我を追い込めたのかもしれんな。今会えて好都合である。成長する前に会えて、その程度の技量で助かった。残念ではあるが幸運である。ハハハハ!」
そして、ついにジョシュアの剣は全く当たらなくなった。ジョシュアは癖があった。両手剣時代の癖が、彼は剣を必ず両手で、身体を使って全力で振るのだ。その剣筋は技量の高い男にとっては、分かりやす過ぎる剣である。
「当たらない! くそっ!」
「くくく、もう見極めたわ。こちらからいくぞ? 今度は逃がさぬ、ぞ」
漆黒の剣を振り上げ、ロンドは笑みを浮かべる。一瞬、その剣は黒い光を放った。
その光はジョシュアに突き出される。ジョシュアが反射的に横にした白銀の剣の腹に、強烈な衝撃が伝わった。
剣を伝い、手を痺れさせる。ロンドの突きは光と錯覚するほどの鋭さでジョシュアを襲った。片手で剣を突き出し、笑みを浮かべるロンドは、眼で続けていくぞと合図をした。
刹那、連続で繰り出される光の線。ロンドは正確に白銀の剣を狙って突く。明らかに彼は、ロンドは遊んでいた。
ジョシュアは退くことしかできなかった。痺れる手に嘗ての敗北の記憶がよぎる。
「うむ、丈夫な身体だ。さぁ、では次は鎧を出すがいい。マリアの輝きを、もう一度、我に見せてくれ。さぁ……さぁ!」
「嘗めるのも大概にしろ! 後悔……させてやる」
白銀の剣は、ジョシュアの手によって地面に突き刺さる。ジョシュアの右手に逆手の形で握られた白銀の剣は、地面を弾き、土と石を舞い上げる。土は、石は、ジョシュアの身体に張り付き、ジョシュアは石の塊のようになった。
石は崩れる。石の隙間から白銀の光が漏れる。
現れるは白銀の騎士。全身頭の先から足の先まで銀色に輝く鎧に真っ赤なマントを風に靡かせ、彼は立つ。鎧化で巨大な大剣となった白銀の剣を地面から引き抜き、彼は立つ。
その姿にロンドは、眼を輝かせた。
「素晴らしい。何も変わらない。何も……ああ、何という……マリアの意志に、まさか、この世界で会えるとは。かの君は嫉妬するか? ああ……」
「ジョシュア!」
対峙する二人、そこに飛び込んでくる、深い青緑色の鎧姿の男。
ダンフィル・ロードフィル。風を纏い赤きマントを羽織らせた男が白銀の騎士の隣に舞い降りる。
「ダンフィルか。随分男前になったじゃないか」
「だろ? 借りもんだが最高だぜ。親父の石なんざこれに比べたらただの玉だぜ玉」
そしてもう一騎、真っ赤な鎧に身を包んだ女が歩いてくる。
ミラルダ・ラインレイ。彼女の鎧は赤く、ひたすらに赤かった。赤いマントに包まれその赤さはさらに際立つ。
「さぁ、二回戦といきましょう」
「こりゃ偉い美人になってミラルダさんも。まぁ俺は年上あんまり好きじゃねぇけど。ジョシュアはどうよ?」
「俺も年下だな」
「何かひどくない? 私地味にさぁ……まぁいいわ。もうユークリッド様の頼みだし。しっかりやりますよ」
ここに、三騎士が揃う。赤、緑、そして、銀。全員深紅のマントを持つ。
「ほぅ……騎士、今生の騎士は、多いな」
「ジョシュア、どうだあいつ、何か、作戦ねぇか?」
「……無い。あいつの剣技は、はっきり言って敵わない。攻撃も鋭い、一撃でも貰ったらそのまま死にかねないぞ」
「ちょっと聞きたいんだけど、ジョシュア君の鎧って、その剣と強度に差はあるの?」
「いや、たぶん、同じだと思う。この鎧に傷がついた記憶はない」
「じゃあやることは一つね」
「何?」
「へへへ……いいこと考えるねぇミラルダさんも」
「おいどういうことだ。分かるように説明しろ」
「ジョシュア君あなたにっぶいわねぇ……だからぁ……」
ミラルダは鎧越しにジョシュアに作戦を伝える。そしてジョシュアは理解した。自分のもう一つの武器を。
「わかった? じゃあ……やるわ。今ここで、決めるわ」
「ああ、ダンフィルいいな?」
「応よ。なんか……震えてきたぜ」
三人は剣を、槍を持ち、顔を前に向けた。三人は見る。ロンドを見る。
「作戦会議は、終わったか? さぁどう攻める?」
「いくぞ二人とも!」
「応よ!」
「ええ!」
ダンフィルが右に飛んだ。ミラルダが剣を掲げ左に飛んだ。
ジョシュアは、歩き出した。巨大な白銀の剣を両手で持ち、歩き出した。
「斬ってみせろ。俺を斬って見せろ。白銀の鎧を斬って見せろ」
「何……そうか。貴様……ならば試してくれよう!」
漆黒の剣は、ロンドの剣は、光のような速さでジョシュアに襲い掛かった。
剣は閃となり、ジョシュアはその軌道を捕らえることはできなかった。
ジョシュアは受けることもできない。すべての攻撃は白銀の鎧に当たり、火花が散る。
火花だけが散る。ジョシュアは歩く。ロンドの全ての攻撃は命中する。しかし、ジョシュアは退かない。傷もつかない。
威風堂々、一歩も引かないその姿。ロンドは、狂喜した。
「ハ、ハハハハ! そうだ! そうだ! この強さ! 我が届かなかった、この強さ! ああ……ああ……!」
「貰った!」
ロンドの後ろに回ったミラルダは大上段から剣を振り下ろす。剣は爆炎を放ち、無防備なロンドに襲い掛かる。
ミラルダの攻撃は、いともたやすく防がれる。後ろを見ることなく漆黒の剣でミラルダの剣を受ける。
「ダンフィル君!」
「わぁってる!」
ダンフィルの槍は、正確にロンドの身体に向かって飛ぶ。ロンドはミラルダの剣を弾き、身体を滑らし槍を剣で払う。
そして、眼の前、超近距離、ジョシュアの白銀の仮面がロンドの視界に広がる。
ロンドが漆黒の剣を振る、だがジョシュアの左腕に当たり、その剣は弾かれる。
ジョシュアが腰を回し、剣を両手でもち、右から袈裟懸けに、巨大な白銀の剣を振り下ろした。
「ぬうう!?」
飛び散る赤と金の液体、飛ぶ腕。
ロンドの左腕は、今空中へ放物線を描き、飛んだ。
返り血すらも白銀の鎧には付着しない。完璧なる銀色。彼の鎧は一点の汚れもない。
「やった兄さんたち!」
離れた場所で見ていたユークリッドは、叫んだ。敵に、初めてロンドに致命的な一撃を喰らわせたのだ。ユークリッドの胸は感動で一杯だった。
とどめを刺そうとジョシュアは剣を掲げる。闇夜に光る、白銀の大剣。
ロンドは、流れ出る血を見て、叫んだ。
「見事!」
その一瞬、ロンドの剣は黒い光を放った。ジョシュアと、ダンフィル、そしてミラルダは一瞬眼を細めた。
刹那、ただそれだけの間。ロンドは、空中へと飛び上がっていた。
「我が腕、まさか、まさか斯様にたやすく断たれるとは。マリアよ。そしてあの日の鍛冶師よ。素晴らしい物を生み出したものだ」
光は、空へ、黒い光は白い光となり。ロンドは輝く。
「見事! 見事! だが……ああ、だが、負けてられぬ、よ。我が名はロンド。始まりの精霊騎士が第3位ロンディアナ・ベルディック。貴様らの力、まだ、見れるだろうか」
光は広がる。ロンドは登る。空はまるで日が昇るかのように、周囲は明るくなっていった。
「あの日、見た。我らが夢の、跡。人は堕ち、人は登り、ただ、精霊は笑う。見せよう我が人生。見てくれ我が思い。光り輝く夢の跡」
光が形を作る巨大な光がゆっくりと、ゆっくりと、ゆっくりと、形を作る。ジョシュアたちはそれをただ見ている。
「今こそ来たれり。これぞ審判の刻」
ロンドを包む光は、巨大な、巨大な人となった。
それは、山よりも大きく、それは、光り輝き、それは、圧倒的な恐怖を振りまく。
ロンドの鎧化は、人としての限界を軽く超え、巨大な光の人を創り上げた。
「で、けぇ……嘘だろこれ……山よりもでけぇ……足、足だよな……この壁……」
「夜なのにもう昼みたいに明るい……なにこれ……」
ダンフィルとミラルダは、光の巨人を見上げただただ驚いた。
ジョシュアはそれをみて、あることを呟いた。
「これが……切り札か。じゃあこれで、終わりってことだ、な」
光の巨人の頭の中心で、ロンドが笑う。愉悦、自分が全力を出すことへの愉悦。足元の騎士への期待。全てが混じり、彼は笑う。
光の巨人は笑う。審判の刻が来た。




