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白銀の剣と黄金の世界  作者: カブヤン
第一章 白銀の剣
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第13話 精霊騎士

 この世界には手を出してはいけない国がただ一つある。最高戦力を持った国。ルクメリア王国。


 王国の人口は3000万人、兵数は1000人程度、多くないどころかかなり少ない。


 隣国は100万以上の歩兵を持っている。しかし建国1000年、ルクメリアは一度も侵略されたことがなかった。


 それを成すのは圧倒的戦力。そしてその戦力を担うのは12人の精霊騎士。精霊騎士が1人いれば1万の兵に匹敵すると言われている。


 彼らは世界最高戦力。12人が揃えばそれはもはや1つの国軍。


 その精霊騎士が今。半数以上が王国の騎士団の一室に揃っていた。


 巨大な円卓を囲む騎士たち。


「さて、全員は揃っていないが……精霊会議を始ようと思います。では国王陛下」


「うむ」


 煌びやかな衣装に身を包んだ男。王冠と杖を持ち、立派な髭を蓄えている。


 彼の名はルクメリア王国第34代国王、ラズグレイズ・ルクメリア。


「各々、よく働いてくれた。感謝する。では精霊会議を始める」


 出席している全員が立ち、国王に礼をする。出席している精霊騎士は8名。そしてジョシュアの席が用意されている。


 出席している騎士は下位から


 精霊騎士第11位ベルドルト・ディランド。槍の名手であり、その整った顔と青い眼を持つ男はグラーフのライバルであった。


「では僕から報告を、今回は南方海域の平定に出ておりましたが、特に苦戦することもなく海賊が降伏いたしました。島々の人たちもこれでしばらくは安心でしょう」


「うむご苦労であった。慣れない海の上で苦労させてすまなかったな」


「ありがとうございます国王」


 精霊騎士第9位ヴィック・ザイノトル。彼は弓の使い手であり、細身の身体をうまく利用した隠密作戦が得意な騎士だった。


「ザイノトル卿。ロンドベリアの様子はどうであったか」


「はい、ロンドべリアの方は戦況が安定いたしましたので、大総統の方も復興へと舵をきったようです。ただ、彼らの兵士の中には報復論が出ています。」


「当然であろうな。引き続きロンドべリアの様子を頼む」


「はい国王」


 精霊騎士第7位ヘクティル・カインネル。彼の剣の腕は精霊騎士上位に並ぶと言われているが、実戦派な面が強く、競技大会ではルールで負けてしまうことが多かった。


「カインネル卿はロンドベリア戦線で遊撃として出ていたな。貴君の活躍は耳に届いていたぞ」


「はい。さらに精進いたします」


 精霊騎士第6位バルガス・エルフレッド。彼はルクメリアでも珍しい二刀流の剣士だった。精霊騎士としてかなりの経験を積んだ彼は、国王にとって最も信頼する男である。


「バルガスすまんな。私の傍にずっと置いてしまって。暴れたかっただろうに」


「いえ、国王を守るのもまた大事な仕事です。」


「うむ、ありがとう」


 精霊騎士第5位シグルス・ライアノック。大剣の使い手であり、さらに精霊騎士にして騎士団団長を務める男である。その軍師としての力は精霊騎士で一番と言われている。


「ライアノック卿。騎士昇格者が年々減っているようだが、どうかしたのかね?」


「はい、最近は騎士の塔から卒業する者も減っておりますし、何よりも実戦が少なかったのです。しかし、我らも日々を無駄にしているわけではございませぬ。ロンドベリア戦線帰りの者たちに期待していてください国王」


「貴公が言うならば間違いなかろうな」


 精霊騎士第3位ミリアンヌ・フェイトナ。彼女は精霊騎士になる前は爵位すらなく、平民の出でありながら精霊騎士となった謎の多い女性であった。闘技大会以外では彼女はほとんど家から出ない。


「ミリアンヌよ。今日はよくぞ来てくれたな。久々である」


「はい」


 精霊騎士第2位ユークリッド・ファム・セブティリアン。闘技大会で戦うこと無敗。2位までの全ての精霊騎士の順位を一つ下げた女。


「ユークリッドよ。ロンドベリア戦線での活躍、見事であった。主戦場の兵を全て無力化するとはまた勲章を用意せねばならんな。さすがはゼッシュの娘である」


「ありがとうございます」


 そして、世界最強の騎士。精霊騎士第1位アイレウス・ゼン・ルクメリア。最高の騎士と呼ばれ、その生涯でただの一度も敗北はない。そして彼は国王の弟である。強すぎる彼は闘技大会には出場しなかったが、その強さを疑問視する人は誰もいなかった。


「アイレウス。すまんな。私がもっと強ければこのような場にいてもらう必要もなかろうに」


「よいことです兄上。私はここで戦い続けれるだけでも幸せです」


 以上8名。ここにいる騎士だけでも世界の半分は取れるであろう世界最高戦力。


 彼らと共に、ジョシュアは席についていた。


「で、彼は誰ですか大臣?」


 顔の整った男、精霊騎士第11位ベルドルドがジョシュアを指して言った。国王の横に立っていた小太りの大臣が口を開く。


「彼はユークリッド殿の兄で、ジョシュアという。ルード神国から帰還した男の一人だ」


「リンドール卿が行方不明となったあの……それはいい情報を持っていそうですね。以前帰ってきた人たちは逃げかえってきたということしか言ってなかったし」


 騎士たち全員の眼がジョシュアに集まる。彼はこういう場は苦手だった。話すことは沢山あるが、話せることは少なかった。


「すまないディランド卿、兄はあまり話が得意な方ではないのだ。質問を重ねてほしい」


「ユークリッド殿。わかりました。すまないジョシュア殿。では……そうだな、黒い鎧の兵士と、謎の男がいたということは聞いております。ただ、どういう状況なのかがよくわからない。あの国にしばらくいた君の口から、状況を聞かせてもらえますか?」


「はい、まずは謎の男のことですが……」


 ジョシュアは話した。黒い鎧の兵士のことを、ロンドにやられた夜のことを。ロンドが黒い兵士を指揮しているようであったということを。口が得意な方ではないが、懸命に話した。


 兵を派遣してもらわないと、あの国は滅んでしまうということを懸命に話した。


「……以上です。私は精霊騎士の派遣が必要と思います」


「なるほどそうですね……ライアノック卿どう思います?」


「鎧化した兵士か。それではこちらも鎧化のできる騎士以上が必要であろうなぁ。うーむ……ロンドという男が気になるな。君は手も足もでなかったのかね?」


「はい、もう一度負ける気はありませんが」


「君も騎士だ。その君が手も足も出なかったとなると……そうだな。リンドール卿が帰ってこれないのもまたわかる気がするな。殺されたとは思いたくはないが、潜伏するにしても連絡がなさすぎる。捕まっているのかもしれんな」


 精霊騎士第5位シグルス・ライアノックが顎髭を触りながら考え込んだ。彼は軍師としては超一流である。様々なケースが彼の頭の中でシミュレートされているのであろう。


「グラーフが逃げれないとはね……それにルードの民を脅かす黒い兵士。急ぐ必要がありますね」


 国王が口を開く。


「ディランド卿。貴公いけるか?」


「グラーフには借りがありますからね。いいでしょう私が参ります」


「待てディランド卿。申し訳ございません国王。私もいかせてください」


「ほぅユークリッドか。貴公ロンドベリアから戻ったばかりであろう。疲れはないのか?」


「大丈夫です。それよりも私に」


「うむ……ではユークリッドよ。ディランド卿。貴君ら二人を派遣する。ルードを救いたまえ」


「はっ」


 ユークリッドとベルドルトは立ち上がり胸に手を置き敬礼をした。国王はその姿をみてさらに口を開いた。


「ライアノック卿。彼らはどこへ行かせればよいかな?」


「はい国王、やはり思ったのですが、ルードの兵とは何かが違う気がいたします。しかし神殿にいて客将と名乗ったとなれば、法王がかかわっているのは確実かと」


「ふむ……ではルード法王を捕らえる必要があるか」


「はい、ザイノトル卿が掴んだ情報の中に法王の目撃情報がありまする。まずはそこへ行き、法王を確保いたしましょう。いろいろと鮮明になるはずです」


「彼は私とも既知であるので手荒にはしたくないが……致し方あるまい。それで目撃された場所はどこであるか? 神殿か?」


「いえ、そこはザイノトル卿から」


 精霊騎士第9位ヴィック・ザイノトルが立ち上がり、地図を持ち出した。


「国王、目撃地点はここです」


「何? ここは……」


「はい、ロンドべリア首都。ベリアの街です。一か月ほど前にはロンドベリア内の精霊教会にいるとの情報がありますが今まだそこにいるかどうかは……」


「何と、どういうことだ? 戦争中の敵国に総大将が紛れているだと? すまぬザイノトル卿、私に、余にわかるように説明してくれないか」


「はっきりとはしておりませんが、あとでわかったことですがロンドベリア戦線にルードの兵士が来る前にはロンドベリア内にいた可能性があります。憶測で報告するのは諜報としては失格かもしれませんが、あえて言うならば……今のルードを指揮している者は、法王ではない可能性があります」


「なんと……よしわかったすまんがザイノトル卿。貴公は明日よりルード神国に入り情報を得てくれ。優先順位は敵の正体、リンドール卿の行方、そして黒い兵士への対処法だ」


「はい、早速今夜発ちます」


「ライアノック卿、騎士団をまとめておいてくれ。いつでも出陣できるように」


「はい国王」


「ユークリッド、ディランド卿、そしてジョシュアよ。貴公らは数名の兵を連れ、法王を捕らえて参れ。情報を得た後はそのままリンドール卿の救出にあたること。法王の搬送と王国への報告は兵を飛ばすがいい。これは急いだほうが良いかもしれん。他の者はルクメリアに待機。では大臣」


「これにて精霊会議を閉幕とする! 全員起立! 敬礼!」


「はっ!」


 円卓を囲んでいた者たちが全員立ち上がり、胸に手を当て国王に敬礼をする。その姿は堂々たるものであった。


 精霊騎士たちは一人、また一人とこの場から立ち去って行った。


「ジョシュア君……だったかな? すまない、いいかな?」


「あなたは……」


 精霊騎士第1位アイレウス・ゼン・ルクメリア。彼がジョシュアに話しかけた。


「その剣、少し見せてもらってもいいかな?」


「は、はい。どうぞ」


 ジョシュアは急ぎ剣を腰から外すとアイレウスの目の前に差し出した。


「この輝き、そしてこの石……本物だな。君どこでこれを?」


「はい、ルードの錬鉄の森にある村で、そこの村民に貰いました」


「錬鉄の森……そうか戻っていたのか。実にこの世は奇なことよ。おっとすまない。私にはこれは持てないだろう。しまってくれたまえ」


「は、はぁ……」


 ジョシュアは白銀の剣を腰につけ直した。アイレウスは口を開く。


「その剣は銘はマリアという。君は気づいてはいないみたいだが、君以外が持つと持ち上げれないほど重くなる剣だ。注意するといい」


「何故それを知っているのですか?」


「少し物知りなだけさ。呼び止めてすまなかった。ほら妹君が待っているぞ。もういくといい」


「はい……では」


 ジョシュアが眼を出口の方へ向けると、ユークリッドが腕を組んで待っていた。


 兵士があふれる場内で、彼らは次の戦地に向けて準備を行う。


 次の目的地はロンドべリア内の精霊教会。ジョシュアは旅支度を整えた。

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