25 外伝 オルコスの使い魔と惹かれ合う輪廻02
赤黒い感情が渦巻く広大な広場を取り囲むように、審判の篝火が無数配置されている。それは、群衆の怨嗟の声を乗せ、煌々と天へ向かって燃えていた。
それらを一身に背負い、敵意に満ちた老若男女の視線を受けるのは、火刑台に磔にされた美しい女だった。
黒いローブの胸元へ流れる星屑のような長い銀髪に、透き通るような白い肌は、鮮血に染まってもなお美しい。
しかし、その容貌はこの場において、魔女を魔女たらしめる証拠でしかなかった。
顔に深く皺を刻んだ司教が分厚い羊皮紙の束から視線を女に向けると、厳かに口を開き終わりの見えない罪状を問う。
「では、東の都レイヴェルに疫病を撒き、民を苦しめたのも事実かっ?」
その言葉に、群衆の吐き出す呪詛が空気を振動させる。
「……ああ。私がやった」
女の口元から漏れる白い吐息に反応するかのように、司教の男が松明で火を灯した。もう既に、十を超える篝火が、その偽りの罪を浄めんと、油の染み込んだ薪を炎で荒ぶらせていた。
篝火が一つ増える度に、群衆の罵声と投石は加速し、まるでこの世の終わりであるかのような地鳴りが広場を覆った。
国内のみならず、国外からもその恨みを晴らさんと集まった群衆は、自身らの幸せを奪ったその女を許すまいと、激情に身を任せている。
当然、収集がつかない事態になるのを防ぐため、全世界から選りすぐりのパラディンたちが招集され、この広場に配置されていた。
それは、世界でも初となる魔女に対する裁判であった。
その後も、張り詰める空気の中、女は罪状を読み上げられる度、必死の想いでより自身が邪悪に映るよう、わざと口の端を釣り上げた。
そうして、どれだけその問答が続いたのか、やがてそれは最期の時を迎え、とうとう女の足元に火がくべられる。
同時に、群衆からは狂気にも似た歓喜の声があがった。
女には群衆に対する恨みも怒りもなく、ただただ申し訳無さでいっぱいだった。
皆を笑顔にできなかったのだ。
どうしようもなく、取り返しのつかない失敗をした。
だが、これで終わりではない。
それは、どれだけ残酷でも無責任でも自分勝手な我儘であっても、呪いのように次へと繋がっていくだろう。
女は自分の弱さ故に、そんな終わりのない連鎖を残す方法を選んだ。
耐え難い熱を持って、存在すべてを無に帰す炎をが全身を包んだ時、最後に女の脳裏に浮かんだのは、一人の男の姿だった。
やっぱり、好きだったのかなぁ。
女は、最後の時をもって初めての感情を覚え、人知れず頬に雫を伝わせたのだった。




