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今日も魔導士は幼女に耐える  作者: 虎山タヌキ
二章:魔女を狙いし者たち
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14 魔導士を阻む銀の壁。

本日は13~16話の連続投稿になっています。

 陽が傾き始める静かな森の中を、二つの影が突風のように駆け抜けていく。


 全魔力を開放した魔導士の速さは常軌を逸しており、常人であればその姿を視界に収める事すら困難だろう。


 ロクは、荷台を森の中に置き去りにして、全速力でエスタディアへと向かっていた。


「……くそっ!」


 ロクは、自分自身の甘さに自責の念を抱かずにはいられない。ロレントは、初めからアビスが魔女だと気付いて近付いて来た、異世界からの召喚者だった。


 狙いは、魔女の術式を使って勇者へと昇華する事。


 密偵から聞き出した事が確かならば、既に術式の準備は終えていると思って間違いないだろう。


 あとは、アビスが魔法陣の術式を発動させれば、この世界にもう一人の勇者が誕生してしまう。


「先輩。でも、どうしてあの子は、召喚者の指示に従ったのでしょうか?」


 不意にフレアが横並びになり、そんな疑問を投げかけてきた。


「恐らく、精神魔法で……いや」


 ロクは、そこまで言いかけて、その可能性を否定する。


 仮に、ロレントの意のままに操られていたのならば、自分が気付けない筈がない。何か、彼女自身が率先して、術式の手伝いをしてしまうような、ロレントの口車に乗せられたのだろう。


 でも、どうして自分に相談も無しにそんな事を。それが、わからない。わからないからこそ、自分自身に腹が立つ。ちゃんと、見てやれてなかった。守れていなかった。


 その揺るぎない事実だけが、腹の底から指の先まで行き渡っていく。


 もし、既にロレントが勇者になってしまっていたら、アビスはどうなってしまうのか。


 殺されるのか、或いは……。


 全身を巡る焦燥感に突き動かされるように森を抜けると、少し先に人集りができているのに気が付いた。


「先輩っ!」

「……ああ」


 視界の先には、エスタディアの市壁の周りで立ち往生する職人や冒険者たちの姿がある。


「どうしますか?」

「正面から抜ける」


 エスタディア内部へと通じる門の周辺には、数十人体勢での警備が敷かれており、その全てが銀色の鎧を身に纏う、教会の騎士たちだった。


「おいっ!? 何か来るぞっ!」

「止まれっ! エスタディアは、現在邪教改め中であるっ!!」


 ロクたちを認めた騎士たちが、慌てた様子で剣や槍を向けてくる。


「フレアっ」

「了解ですわ」


 フレアは、まっすぐに閉ざされた門へと向かいながら、掌に魔力を集約していく。


「ウィンドウブラストっ」


 ――突風。


「「「っ!?」」」


 フレアが放った、高位の風属性魔法により、侵入を阻む騎士たちが、風に舞う木の葉のように吹き飛ばされる。


 次の瞬間、爆発的な魔力を帯びたロクの拳が、その射程範囲に入っていた。


 ――閃光。


 その一撃により、がら空きになった、街の門を閉ざす鉄格子と市壁に大きな穴が穿たれた。


「きっ、貴様ら、何をしているっ!?」

「賊だっ!! 賊が現れたぞっ!」


 異変に気付いた騎士たちが、どこから湧いてきたのか、わらわらと魔導士たちの侵入を止めに入るが。


 一蹴。


 ロクが放った魔力によって、まるで龍の尾に薙ぎ払われたかのように、壁に叩きつけられ、全ての護衛騎士が卒倒した。


「行くぞっ」


 街の中へと入り、中央区を駆け抜けていくと、すぐにその異様な状況に、フレアは怪訝そうに目を細めた。


 監視役の騎士たちに精気はなく、こちらに気付くと何を言うでもなく、のそのそと追いかけてくる。


 だが、一定距離を引き離すと、それ以上追ってくる事はなく、再び所定の位置へと戻って行くようだった。


「これは……精神操作系の魔法ですわね」

「っ!」


 否応無く、ロクの心拍数が上がっていく。


「先輩っ」

「っ!?」


 北区へと続く細い通りに入ったところで、ある筈の無い壁が、ここから先へ進む事を阻んでいた。


 目の前には銀色に輝く光の壁が、嘲笑うかのように立ち塞がっている。


「やはり、聖域ですわね。これを外側から破るのは……どう、しますか?」


 フレアは、額の汗を拭ってロクの判断を仰ぐ。


「とにかく、やるしかない。頼む」

「……はいっ」


 高位の魔導士二名による、最大の魔力が、聖域結界に向けて放出される。


「っ!」


 だが、聖域が発する銀のカーテンは、そよ風に吹かれたような僅かな揺らぎを見せるだけで、依然としてその強固な守りを保っていた。


 ロクは、フレアに目配せをして、再度その銀色の壁に向けて魔力を放つ。


 鉄壁。


 教会の誇る最高位の堅牢結界である聖域を打ち破る方法は、魔導レギオンの中で確立しているのだが、それは内側からのみに限定される。


「やはり、外側からでは……」

「くそっ。もう一度だっ」


 それでも、この状況で指をくわえて見ているわけにはいかない。


 その後も、何度も何度も、優雅に輝く銀色の壁に向かって、魔導士たちの魔力がぶつけられたのだった。

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