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今日も魔導士は幼女に耐える  作者: 虎山タヌキ
二章:魔女を狙いし者たち
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11 魔導士に忍び寄る不穏な影。

本日は、11話、12話の連続更新となります。

 木々が生い茂る深い森の中で、ロクは小さく息を吐き出した。


 傍らに停められた荷台には、膨大な量の採取物が積まれている。


 明日はアビスの誕生パーティーなので、本来ならば今頃はその準備に追われている筈であった。


 ロクは、大きな麻袋を荷台に積みながら、ふと思う。


 早く彼女の喜ぶ顔が見たい。


 そんな彼が、普段通り採取に来ているのは理由がある。


 今朝早くに職人たちが慌てた様子で駆け込んできて、採取依頼をしに来たからだ。


 何でも、急ぎの仕事が大口で入ったとかで、材料が間に合わないらしい。


 初めは断ろうとしたのだが、普段から世話になっている職人連中に泣き付かれた事もあり、承諾せざるを得なかった。


 北区の商人と職人は、持ちつ持たれつである。


 リコベルが冒険者業を休んで、代わりにパーティーの準備を進めておくと言うので、しぶしぶ東の山へやってきていた。


 朝早くに店を出てから、どのくらい経ったか、ようやく依頼品の全てを手に入れていた。


 それは、並の材料屋ではとても真似できない速さであり、ロクの並外れた採取技術が成せる業である。


 ロクは、今一度、依頼一覧の紙を広げて、荷台に積まれた採取物と見比べる。


 すべての物が、間違いなくある事を確認したロクは、荷車を押す手にぐっと力を込めた。


 近くの山には無い薬草なども依頼書にあったせいで、少し遠くまで来てしまっている。


 なるべく、アビスから遠く離れたくないという想いもあってか、街へ戻る速度がぐんぐん上がっていく。


 ガラガラと音を立てて、山道を進んでいくと、ロクは何者かの視線を感じて、警戒を強めた。


 見られている。


 じっとりと纏わりつくような、まるで野生の狼にでも狙われているような感覚だ。


 だが、自分に向けられているそれは、どこか人の意志が介在しているような気がする。


 居場所を特定させない気配の絶ち方から、相当な手練である事が窺えるが、その何者かたちからは、一切の魔力の反応がない。


 盗賊の類だとしても、こんな明るいうちからなんて考えにくい。


 ロクは怪訝に思い、荷台を進めながら、油断なく周囲に気を配る。


 そうして、背の高い木々を切り開いて作られた、視界の悪い道に入った瞬間だった。


 剣閃。


「っ!?」


 ロクは、ほとんど反射的に、荷台から飛び退いて、その一撃を躱した。


「おおっ、すげえ反応だなっ!」


 そう言って、一人の大剣を担いだ男が姿を見せるのを皮切りに、どこに潜んでいたのか、木の影や背後から、ぞろぞろと数人の武器を持った者たちが現れた。


 ロクは、無言でその者たちを見据えながら、未だに魔力の波長が感じられない事に、眉根にしわを寄せる。 


「どうやら、元冒険者の商人ってのは本当らしいな。殺るにしても、ちっとは手応えがねえと面白くねえからなっ」


 そうして、大柄な男が構えた大剣を振り下ろし、五対一の戦闘が始まった。


 やはり、賊たちからは一切の魔力を感じられない。ロクは、応戦しながら思考を巡らせる。


 無数に降り注いでくる魔法攻撃や、武器を持った男たちの身のこなし。どれをとっても、とてもじゃないが、十把一絡げの盗賊とは思えない。


 下手をすれば、一国の護衛騎士団に召し抱えられていもおかしくはない、実力者たちだ。


 ロクは、瞬時に生け捕りから、討伐へ頭を切り替えた。


 その刹那、辺りに張り詰めるような禍々しい波動が放たれる。


 ロクが、全魔力を解放したからだ。


「っ!?」


 嗜虐的な笑みを浮かべていた賊たちから、即座に余裕が消える。


 ロクは、襲いかかる魔法攻撃を魔力を込めた回し蹴りで打ち消すと、次の瞬間には大剣を振り上げて距離を詰めていた男の懐に入っていた。


 閃光。


 その拳に貫かれ、大剣を持った男が、瞬時に戦闘不能へと陥る。


 最強の魔導士の速さは、容易く賊たちを凌駕した。


 賊たちは、次から次へと繰り出される、ロクの攻撃に為す術なく、地に伏していく。


 そうして残りの賊たちも、自身の頭によぎる想像通りの末路を迎えた。


 気が付けば、辺りには森の静寂だけが残っていた。


 だが、極限にまで研ぎ澄まされた魔導士の感覚は、それを見逃さなかった。


「ルート・ゼロ」


 ロクは、何もない背の高い木々の梢に向かって、術式魔法を発動させる。


「っ!?」


 すると、少し遠くの方で、何かが地に落ちる音が聞こえた。


 ロクは、音のした方へゆっくりと進んで行く。


「っ! ばっ、化物めっ」


 そこには、黒装束の何者かの姿があった。


 恐らくは、自分に賊をけしかけた誰かの密偵。


「誰に頼まれた? 目的は何だ?」


 ロクは、地に倒れたまま身動きの取れない密偵に、温度の無い目を向ける。


「……っ!」


 黒装束の男は、押し黙ったまま、その言葉を躱す。


「洗いざらい、吐いてもらうぞ」


 ロクは、ありったけの殺気と魔力を拳に込めて、密偵を見下ろす。


「ひっ!」


 密偵の男が小さく悲鳴を漏らしたその時、背後から見知った気配を感じた。


「先輩っ!」


 突如目の前に現れたのは、金髪碧眼の可憐な少女だった。


「フレア。お前、どうしてここに?」

「教会が、エスタディアに邪教改めの騎士団を送りました。報せに行く途中で、先輩の魔力を感じましたので」

「邪教改めだとっ?」

「教会は公式な発令なしで、レギオンにも国王にも、無断で行っています。今、総帥が事実関係を確認していますが、エスタディアからなんて、どう考えても不自然です」


 ロクの中で、容易にアビスの事と結びついていく。


「そうか。あとは、こいつに訊く」


 ロクは、怯える密偵に向けて、感情剥き出しの魔力を放つ。


「ああっ、いけませんわ先輩。心中お察ししますが、拷問というのは少しずつ、指先から、ですわ」


 フレアの掌に、刃のような風魔法が出現し、射殺すような冷たい瞳が密偵に向けられた。


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