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097:龍穴

「その神託の儀が行われている場所こそが、当時怪の国と日国を繋いでた通り道で、今で言うダンジョンなのです」



 その言葉に美優さんは固まってしまった。

 龍穴は黒衣よりも数世代前の陰陽師の起源となった人たちが発見したようだ。最初こそは普通の洞窟という認識だったらしい。

 その者たちは洞窟だと思って探索していたのだが、6階層目から突然魔獣が現れるようになった。そこにいたのは地上に現れる魔獣よりも遥かに強い力を持っていたのだ。そのため、魔獣が現れない5階層目に拠点を作ることにした。

 5階層目には、広く美しい地底湖があったため、拠点として申し分がなかったとのことだった。その地底湖の中心部には小さな島があり、そこに神秘性を感じた当時の者たちが祠を建てて神域とした。

 しかし、月日が経っても6階層目を突破することが出来なかったらしい。自分たちの力の無さを嘆いた一人が、その祠に『力を与えたまえ』と願うと、その翌日から6階層目の魔獣を簡単に倒せるようになったのだ。それに驚いた仲間たちは、その者に何故急に力を得たのか尋ねると、祠で願ったら力を得たと言うのでそれに倣って全員で祈りを捧げると、その内の半数以上が力を得ることが出来たのだった。


 彼らは龍穴を進むよりも先に、その力を把握することに努めた。その結果、体の周りにある様々な色をした靄が、強さの原因だと分かったのだ。それを証明するように、靄がない人間には以前と変わらぬ力しかなかった。


 そして、この力の有用性は怪と戦ったときに真価を発揮することになる。当時の日国は怪の国と繋がっていたため魔素の量が多く、現在の日国と違って神魂が発動していなくても肉眼で怪の姿を確認することが出来ていたらしい。これは、隠世で普通の人間が怪のことを視認できるのと同じ理由だということだった。

 当時の人たちは、人間とは思えない異形のことを妖怪などと呼んでいたが、これらと戦うスペシャリストが陰陽師だったらしい。彼らは神魂が発動する前から、怪と戦っていたのだ。

 だが、今の滅怪のように組織化されていたわけではなく、陰陽師を名乗る各一族が自らの流派を持ち、それぞれが個別に戦っていたのが実際のところらしい。それでも横の繋がりは少なからずあったらしく、龍穴を探索していたのは3つの一族が合同で行っていたものだった。


 この3つの一族はこの力を秘匿した。あまりにも強力だったために、良からぬことを考える者に渡るとこの世の中が悪き方向へ進んでいくことを恐れたからだ。しかし、自分たちだけで力を得ても、怪や魔獣を全て討伐することはできない。そのため、徐々に他の陰陽師を名乗る一族も吸収し、国とは違う大きな組織を作り上げていったとのことだった。



「それが滅怪の前身ってことか?」


「そうなります」


「黒衣も元々は陰陽師だったんだよな? ひょっとして、俺以外にも滅怪に子孫とかいるのか?」


「それは、ございません……」そう言って俺のことを見つめる黒衣の瞳は、哀愁を帯びているように見えた。その瞳の理由も気になったが、話が脱線してしまうため今は当時の日国の話を聞くことを優先した。



「その頃の日国には、今みたいにたくさんのダンジョンがあったのか?」


「いえ、怪の国と繋がるような洞窟は、龍穴以外にはございませんでした」そう言うと黒衣は、「仮説がございます」と言い、俺たちにその説明を始めた。



 黒衣たちの時代に、怪が自由に日国へ行き来できる状態にしておくと、いずれ日国が滅んでしまうと考えた陰陽師がいたらしい。当時の怪の国では、4体の怪がその覇権を握るために戦争をしていた。その戦争が終結したら、次に標的になるのは日国だと考え、龍穴に封印を施して怪の国から魔素が流れ込まないようにしたのだという。

 この封印が功を奏して、日国に現れる怪は激減したし、稀に現れる怪も低等級のみになったので怪による危機は免れたのだった。しかし、その封印が解けて来ているのではないかと、黒衣はいう。

 龍穴の封印が弱まったことで、魔素が地中に漏れ出てしまい、それが影響してダンジョンが生まれたのではないかということだった。



「確かに可能性はありそうだな。ところで龍穴ってどこにあるんだ?」俺は美優さんの方を向いて尋ねる。


「――滅怪本部の地下だ」美優さんは思うことがあるのだろう。少し目を伏せながらそう言った。



 滅怪本部の地下?

 そんな爆弾がこの杜京にあるとは思いもしなかった。

 しかし、それは黒衣の仮説に信憑性を持たせる内容でもある。

 今まで高ランクのダンジョンは杜京付近に多く、地方に行くほど低ランクしかないことに疑問は持っていた。だが、龍穴から漏れ出た魔素の影響でダンジョンが作られているのであれば、龍穴に近いダンジョンほど魔素濃度が高いのは必然と言えるだろう。



「あっ、芽姫が話したいことがあるみたいだ。少しいいか?」そう言うと、俺たちの了承を得る前に「やっほぉ、みんな元気?」とシリアスを吹き飛ばすような能天気な声が聞こえてきた。ベースは凛々しい表情の美優さんからなので、相変わらず違和感が半端ない。


「あぁ、元気だよ。芽姫も元気みたいだな」俺がそう言うと芽姫は「あはは、元気なのは美優ちゃんのお陰だけどね」と笑顔で答える。



 美優さんと芽姫は、今では仲良く会話をするようになっているらしい。今のように体の支配権を芽姫に渡すほどに。

 ここまで仲良くなるのには、美優さんとしてもかなりの葛藤があったのだと思う。そんな内心を俺たちの前では見せることなく、ある日突然「芽姫と友人になったよ」と言って来たので、俺たちは驚いてしまったのだった。それからは、たまに芽姫が顔を覗かせて俺たちと会話をしたりするようになったのである。



「ところで日国に魔素が無くなった理由が、さっき言ってた龍穴の封印が影響してるって本当かな?」


「えぇ、それは間違いありません」


「そうなんだ……」芽姫がそう言うと何かを思案するような表情をしながら、テーブルの上にあるチョコレートを手にする。


「龍穴に何かあるのか?」


「うーん。実はね……」



 芽姫が言うには、怪の国では日国に魔素が消えた理由が未だに不明だということだった。そもそも龍穴という、日国と怪の国を繋ぐダンジョンがあったというのも初耳なのだという。



「私が生まれたのは何百年前って感じだから、当時のことは知らないんだけど、昔からいる怪が以前は日国へは自由に行き来できてたって昔話みたいに語ってるんだよね」


「龍穴の存在すら知らなかったんだな……」


「そもそも日国と怪の国の移動は空間を歪ませたら一瞬だからね。わざわざダンジョンって呼ばれるところから行かないし」


「まぁ、そう言われると身も蓋もないのだがな」あっけらかんと答える芽姫に、俺たちは苦笑いを浮かべる。



 だが、確か黒衣が言うには現在の怪の国は伽沙羅(がしゃら)という統一国家があり、その国は妙庵(みょうあん)という怪が統治しているとのことだった。怪の国がどれほどの広さがあるのかは分からないが、それでも龍穴の存在を知らないなんてことがあるのだろうか?

 芽姫に聞いてみると、等級が上位の怪でもなかなか踏み込めない場所が複数あるらしい。

 その一つに霊獣の森があるらしいのだが、そこには霊獣がいる以外にも小さいながらも強力な武力を誇る国家があるかららしい。怪の国では伽沙羅は統一国家とは名乗っているものの、そのような小さな国家が点在しているとのことだった。その中でも特に危険視されていたのが、先ほどの霊獣の森にある小国だという。

 その国の名前は無名(むみょう)で、その国を統治しているのは名無(ななし)と呼ばれる怪と言うことだ。この怪は1200年前に怪の国の覇権を取るために戦争していた4体の怪のうちの1体らしい。



「戦争をしてたのは黒衣から聞いていたが、その時に敵対してた怪を全員屠ってたわけじゃないんだな」


「そうらしいね。まぁ、私はその時は怪じゃないから良く分からないけどさ。それでも無名にいる怪は本当に強いよ。――あとね、名無をはじめとして、そこにいる怪はある特徴があるんだよね」


「特徴?」


「うん、それはね、人間の魂を喰わないんだよ。――あっ、今メイドちゃんやってるミカたちと一緒だね」



 実際にミカたちのような怪がいるのだから、怪の国に人間の魂を喰わない怪がいてもおかしくはないだろう。しかし、国家を作るほどいるとは思わなかった。ただ人間だってお肉を食べないビーガンの方々もいるんだしおかしくはないのか。それにしても、龍穴のことを知らないのなら、なぜわざわざ美優さんに体を借りてまでこの話をし始めたのだろうか?



「それはねぇ。実は無名では何かを守護してるって噂を聞いたことがあるんだよね」


「――つまり、それが龍穴の入り口だというのか?」


「それは分からないけど、重要なことかなって思ってね。人間の魂を喰わない奴らなんだし、その龍穴ってやつを守っててもおかしくないかなって思うんだよね」



 なるほど。確かに可能性はありそうだ。

 伽沙羅が1200年かけても倒せない程の強国が守り続けているもの。それは確かに重要な何かなのだろう。

 だが、現時点で俺には判断することは出来ないな。俺がどう答えるか悩んでいると、黒衣が再び口を開いた。



「やはり名無はまだ存命なんですね」


「黒衣は名無のことを知っているのか?」



 まさか黒衣が芽姫の言う名無のことを知っていると思わなかった。この発言に驚いたのは俺だけではなく、芽姫を含む全員が黒衣のことを唖然とした表情で見つめている。



「はい。名無とは私がまだ陰陽師だった頃に会ったことがあります」



 黒衣はそう言うと、手元に持っていたコーヒーを口に含んで一息つくと「それでは私が陰陽師だった頃のお話をさせて頂こうと思います」と言った。

ここで第六章は終わりです!

次の章では滅怪や空気になっていた幼馴染がまた登場する予定、、、でしたが、次の章のプロットを作ってたら結構長くなりそうで、中盤から出す予定でしたがひょっとしたら第七章ではなく第八章での登場になるかもです……。


しかも、第七章のストックが今ゼロ状態なんですよね。

途中まで書いてたんですが、全然ダメだってなって改めてプロットを作り直して、イチから書き直しって感じです。

なので、ストックが溜まったら、もしくは一週間に一度の更新に当面はするかもです。

テンポ良くいかず申し訳ありません。涙

次の章では色々なことが分かってくるかと思います!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 今の黒衣もいいけど若いころの黒衣のお話も楽しみです。(今でも十分見た目は若いけど) [一言] 幼馴染が再登場ですか。こちらの作者様は幼馴染のヘイトを稼ぐようなことをせず…
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