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088:嚥獄合同ダイブ②

 14階層に続く階段を見つけると、『青龍』の皆さんが素早く結界石を配置して拠点を作った。あまりの手際の良さに、俺と瀬那は驚いて呆然と見ていると、ハヤトさんが笑顔を浮かべながら「驚いたかい?」話し掛けてくる。



「えぇ。『青龍』の皆さんは本当に凄いですね。戦闘時の連携にも驚きましたが、それ以外のところでもしっかりと統制が取られていて圧倒されてしまいました」


「はは。そう言ってもらえると嬉しいよ。だけど、驚いてるのは俺たちの方だよ。配信を見ていたから知ってはいたけど、こんな速度で嚥獄の13階層目に来れるなんて正直信じられないよ」



 自分で言うものアレだが、客観的に見てもこの進行速度は確かに異常だと言えるだろう。これを実現するためには、俺たちの力と凛音が作った『探るんだ君』があって初めて実現できるものだと思う。しかし、急ぎ目で進んでいる俺たちについて来ているのだから、『青龍』の皆さんはやはりトップクランに所属しているエリート集団ってことなのだろう。



「俺たちの都合で4日間に変更してもらいましたし、これで26階層より奥に行けなかったら目も当てられないですからね。なのでかなり急ピッチで進んだんですが、それに平然とついてくるのだからやはり『青龍』の皆さんは凄いですよ」


「いやいや、俺たちの中でも上位パーティで何とか着いていくので精一杯だったからさ。今回は強い要望があったから中位クラスのパーティも連れて来たんだけど――ほらご覧の通りだよ」と言って指を刺したのは、他のメンバーが拠点設置の準備をしている中、肩で息をしながらへたり込んでいる人が数人いた。――というか、それはよく知っている人たちだった。優吾は俺の視線に気付いたのか、一瞬睨んでから目を逸らした。



 優吾の態度を見たハヤトさんは「あいつ……」と零して、俺に向かって「詩庵くん申し訳ないね。彼らには後で態度を改めるよう伝えておくから」と軽く頭を下げてきた。

 まさか、Sランククランの大先輩でもあるハヤトさんからそんなことをされるとは思ってもおらず、「特に気にしていませんから」と頭を上げるよう慌てて大丈夫だと伝えると、「君は優しいね」と笑顔で言ってくるのであった。

 もし俺が女の子で、ハヤトさんみたいなイケメンにそんな笑顔を見せられたら一瞬で恋すること間違いない。つか、一瞬ドキッとしてしまったのは俺だけの秘密にしておこう……。


 それよりも俺たちも拠点を作らないといけない。と言うのも、『青龍』の拠点にいるとどうしても気を遣うし、緊張しちゃうので拠点は別にして欲しいとお願いしたのだ。食事も別にすることになっていたし、そっちの方がこちらとしては気が楽なのだ。

 すでに出来上がっているコミュニティの中に入るのって、かなり体力使うんだよな。戦闘とは別のところで疲労を溜めて、万が一が発生してしまったら最悪でしかない。


 そうは言っても最低限のコミュニケーションは必要だと考えているので、食事が終わった後のチルタイムには参加させてもらって『青龍』の皆さんと色々なお話をした。主に戦闘に関する話題が多かったのだが、たまに俺と瀬那の関係を聞かれてしまい少し困ることもあった。その話題になると、普段はお姉さんぶってる瀬那が、顔を真っ赤にして途端にポンコツになるので、それを面白がられているのだ。少し揶揄われながらも瀬那が笑って話しているのは、女子メンバーが多かったり、男子メンバーもハヤトさんに似たのか清潔感のある人たちばかりで嫌らしさを感じなかったからだろう。


 チルタイムでは、そんな感じで『青龍』メンバーが俺たちの周りに集まってくれていたのだが、優吾たちが距離を空けてパーティメンバーだけで集まっているのが気になるところだった。あいつらは『青龍』の中でちゃんとやれているのだろうか? ふとそんなことを考えてしまったのだが、正直俺にはもう関係ないので特に気にしないように意識を向けないようにした。

 そして、宴もたけなわってところで、トシロウさんが俺のところに来たので気になることを聞いてみた。



「俺と優吾たちの関係って知ってますよね?」


「ん? 以前あいつらのパーティにいたんだろ? それくらいならみんな知ってるよ。だが、それ以上の何かがあったのはあいつらを見てたら何となく分かるけどな」


「そうですか。ですが、皆さん気にならないんですか?」そう俺が言うと、トシロウさんはクックックと喉の奥を鳴らした。


「別に過去のことなんて聞いたって仕方ないしな。お前と優吾たちと何があったかなんて俺たちにはどうでも良いんだよ。ハンターやってれば色々あるしな。ずっと順風満帆だった奴らなんて、この中でもほとんどいないから」とトシロウさんは何かを思い出したのか、どこか遠い目をしている。恐らくトシロウさんにも何かがあったのだろう。そして、それは他人に触れて欲しくないことなのだと感じた。


「――そうですか。うん、そうですよね。ありがとうございます」と俺が感謝の言葉を伝えると、トシロウさんはニカッと白い歯を輝かせて「さすがに犯罪歴などは調べるけどな。まぁ、それは良いとして、明日からも頼むぜ」と背中を叩いてきたのだった。



 ―




 俺は今まで3つのSランククランやパーティと関わって来たけど、どこもとても良い空気感を纏っていた。『青龍』に関してもハヤトさんはもちろん、トシロウさんや他のメンバーたちもとても良い人たちだ。やはりSランクになる程なのだから、人間としても組織としてもしっかりしないと成り立たないのだろう。最初は警戒していたけど、ハヤトさんたちになら刻印入りの『探るんだ君』を渡しても良いのかもしれない。

 こうしてSランククランと仲良くなることが出来るのは、少人数クランの俺たちにとっては力強いものだった。これからもっと親交を深める事ができたらとても嬉しいなと思う。まぁ、残りのSランククランの『聖天の使者』とはあまり関わりたくないのだが……。


 俺と瀬那は自分たちの拠点に戻り、テントを開けるとそこにはいるはずのない3人がお茶をして待っていた。

 そう。黒衣と凛音、そして美優さんである。俺たちが使用しているテントは遮光性能が優秀で、内側で煌々と灯りを灯したとしても外に漏れることはないのだ。もちろん人の影も同様である。なので、『青龍』のメンバーはもちろん、俺と瀬那も3人がテントの中でゆったりしていたことに気付くことはなかった。



「ちょっ! 何してるの3人とも?」と俺は驚きながらも、何とか声を抑えて2人に尋ねる。



 すると黒衣が「詩庵様と一緒の夜を過ごしたいので来てしまいました」と平然とした顔で言ってくる。それに追従する形で凛音も「私もだよ! 泊まりがけのダイブじゃないと、しぃくんと同じところで寝ることなんてできないしね」と言って、美優さんに関しては、「一人であの洋館にいるのはちょっとな」と言いながらキリッとした表情をしている。


 うん、ツッコミが足りないよ、これ。


 それにしてもどうやってここに忍び込んだのか気になったので聞いてみると、どうやら最初に黒衣が13階層目に来てから拠点の場所を探して、マーキングした後に拠点に戻って凛音を連れて忍び込んだらしい。確かに、『今日は13階層まで行ったぞぉー』と連絡したのだが、こんなことをしてくるとは思ってもみなかった。

 ただ、黒衣と凛音がいてくれるというのは嬉しいことだったので、お互いに今日あったことを報告しあってから一緒に眠りについたのだった。

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