034:採取場
無垢砂鉄の採取場には、3日目の夜に到着した。
怪に見つかった時のことを考えて、すでに黒衣は黒天へと姿を変えている。
ここまで来るのに、奴隷を移動させる竜車を中心とした怪たちと遭遇していた。
もちろん採取場に行くことが最優先ではあるのだが、助けることができる可能性が高い奴隷の人間を見つけてしまったら、俺には解放するという選択肢以外なくなってしまう。
結果として3組から人間を解放することができたのだ。
それにしても、怪の国にはどれくらいの人間が奴隷として集められているんだろうか。
悔しいけど、俺一人では全員を救うことはできないだろう。
だから目の前にいる人たちだけは絶対に助けたいと思っているのだ。
多少のトラブルはあったが、無事に目的地に着いた俺たちは、採取場を見渡せる高台に登って身を潜めている。
『ここが採取場か……』
眼下には10人くらいの人が砂鉄を採ったり、どこかに運んだりしている。
そして、2体の怪が作業する人を見張っていた。
『砂鉄をどこに運んでいるのか調べるために、あの人の後をついていこう』
大きな布袋を担いでいる男性に俺たちは目をつけて、霊装断絶を使用した状態で後をついていく。
『怪って自分の霊装で武器を発現してたと思うんだけど、なんで無垢砂鉄なんて採ってるんだろうな?』
『等級が高い怪は、我々と同様に武器を使用して戦うからです』
『あいつらも神器や霊器を持ってるってことか?』
『いえ、今でも怪には武器に魂を封じ込める技はないと思われるので、神器や霊器などではなく普通の武器になります』
『だったら武器を持つことで強くなるってことはないって感じか』
『それも誤りでございます。怪は自身が抱えている霊装の絶対数は固定となります。そのため、霊装で武器を作ってしまうことで、自身を形成している霊装を武器を具現化させる方に使用するため、本体の霊装が若干弱くなってしまうのです。ですが、武器を持つことで霊装を纏わせるだけでよくなるので自身の弱体化を防ぐことができるのです』
なるほどな。
10の霊装を持っているとしたら、武器を作って維持するのに3の霊装を使用してしまうと、残りの7で本体を維持したり攻撃や防御をしなくてはいけなくなるということか。
だけど、武器を持つことでほぼ10のリソースを自分に使えるってことね。
だったら、確かに怪でも武器を持つことにメリットがあるってことか。
『ここにはたたら場はなさそうだから、どこかに移動させてるんだろうな』
『この採取場以外にも無垢砂鉄を採れる場所はあるので、ちょうど中間くらいにたたら場があるのかと思います』
『あとは、ここにいる怪の数と等級だよな。それ次第ではここにいる人たちも解放しよう』
俺は瀬那の仇であった2等級の怪を倒した時に、レベル8から12に上がっていた。
そして、前回2等級の怪を倒せたことが、俺にとっての自信にも繋がっていたのだ。
『はい! 今のところこの周辺には強い怪はいなそうですので大丈夫かと』
俺たちが会話をしていると、無垢砂鉄を担いだ男性が比較的大きな建物の中に入たので、俺たちも後を追うように中に忍び込む。
建物の中は伽藍堂だったが、その中に大量の砂鉄の山が聳え立っていた。
目の前にある無垢砂鉄は恐らく10トンくらいはあるのではないだろうか。
貞治さんが言うには、刀を一振り打つのに約10kgの玉鋼が必要で、この玉鋼を作るのに約1トンもの砂鉄を使用するとのことだった。
そして、俺は瀬那の器となる刀以外とは別に2本の刀を打って欲しいとお願いをしていた。
なので最低でも3トンの無垢砂鉄を用意する必要がある。
問題はこの砂鉄をどうやって気付かれないように持ち運ぶかなんだよな……。
10kgの麻袋があるって言ってたから、それに入れて何往復もするしかないか。
無垢砂鉄の場所を確認した俺たちは、村の規模感や怪の数を調べるためにまた高台に戻って身を潜めた。
―
「ただいま〜」
「しぃくんに黒衣ちゃん、今日も遅くまでお疲れ様。予定通り採取場まで行けたのかな?」
「あぁ、無垢砂鉄の保管場所も分かったぞ。だけど、採取場だからなのか、奴隷になってる人が多かったな……」
俺と黒衣は怪の村が寝静まるまで見張っていた。
その結果、怪は13体いて、奴隷が20人くらいいることが分かった。
思ったよりも多かったが、3等級が6体で残りは5等級と6等級で構成されていたので今の俺なら問題ないだろう。
採取場の村を壊滅させたら、貞治さんにお願いをして無垢砂鉄を運ぶのを手伝ってもらおうと思っていたが、魔素の濃度があまりにも濃すぎるので、ひょっとしたら人体に悪影響を与えてしまう可能性があるので断念をした。
やはり、俺が地道に頑張るしかないだろう。
「じゃあ、なんとかなりそうなのかな?」
俺の説明を聞いた凛音は、ホッとしたような表情を浮かべた。
そして、口元をニヤリとさせたと思ったら、「ふっふっふ。実は私にも進展があったんだよ」と腰に手を当ててドヤ顔をしている。
「おっ、どうしたんだ?」
「実は黒天のことが書いてある文献を見つけたんだよ!」
「マジで! 凄いじゃん!」
「まだ全部は読めてないんだけど、黒天がどうして無垢砂鉄で出来ているのかは分かったんだよ」
その文献によると、初代天斬は実は陰陽師で、怪の国を3人の仲間と旅をしていたらしい。
そして、その道中に無垢砂鉄を発見した。
天斬は無垢砂鉄を見たときに、これで玉鋼を錬成したらこの世で一番の刀ができると確信する。
一緒に旅をしていた3人に許可を取って、天斬は日国にいた陰陽師でもあり、たたら場の者でもある人物を連れてきて、一年かけて無垢砂鉄を採取して日国に持ち帰り黒天を打ったとのことだった。
一瞬仲間の一人は黒衣なのかと思ったが、彼女は以前採取場には行ったことがないと言っていたので、また違う陰陽師と一緒に天斬は行動していたのだろう。
それにしても、当時の陰陽師は結構アグレッシブに怪の国に行ってたんだな。
みんなが霊扉を使えてた訳ではないだろうに、どうやって怪の国まで移動していたんだろうか。
「多分あと数日くらいでこの文献を読み終わると思うから、黒天のことで重要そうなことが分かったらすぐに連絡するね」
その言葉を最後に、俺たちは明日に備えて眠りにつくことにした。
作戦は以前奴隷になった人たちを解放するときと一緒で、寝静まったらまず奴隷になった人たちを日国に帰して、その後に怪を一体ずつ倒していくというものだ。
大体日国の時間で深夜一時くらいに眠りについていたので、俺たちは昼までゆっくりと体を休めて、午後からはたたら場へ行って職人の皆さんに改めて玉鋼の錬成についてお願いに行くことになっていた。
たたら場の職人さんたちも、貞治さんがまた刀を打つと分かった時とても嬉しそうにしていた。
やはりたたら場の人たちも貞治さんのことが心配だったのだろう。
貞治さんが「また刀を打つから、玉鋼の錬成をお願いしたい」と頭を下げたとき、みんなが貞治さんを囲んで笑いながら背中をビシビシ叩いてのがとても印象的だった。
―
そしてその日の深夜、俺と黒衣は村へ侵入して、無事奴隷になっていた人たちを解放することに成功していた。
奴隷となった人たちが収監されていた建物の入り口には、見張りの怪が立っていたが俺に気付くこともなく一瞬で屠ることができた。
「あとは、この村にいる怪を倒すだけだな」
「はい。霊装を探っていますが、いずれも動きがないので眠っているのでしょう」
俺は黒衣を黒天にして、霊装断絶をした状態で家に侵入し、怪のことを倒していった。
レベルが上がったせいなのか、以前よりも全てがスムーズに進んで、20分もしないうちに全てを完了させる。
『今日はもう遅いから、明日の朝から無垢砂鉄を日国に運びだそう』
俺たちは思った以上に物事がスムーズに進んで油断していたのか、俺たちのことを遠くから見ていた視線に気付くことが出来なかった。
明けましておめでとうございますー!




