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ネイビージャイアント  作者: 水里勝雪
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51-2 真実

 蒼真が目を覚ましたとき、そこは暗い部屋だった。周囲には何もなく、倉庫のように広い空間が広がっている。天井近くに小さな窓がひとつあるだけだった。


「ここはどこだ?」

 蒼真は目を凝らす。暗闇の中で徐々に視界が慣れてくる。明かりらしいものはなく、窓から差し込む月明かりだけが頼りだった。外は夜なのだろう。そうだとすれば、どれほど眠っていたのか。


 蒼真はゆっくりと起き上がる。体に痛みはない。黒衣の男が自分に銃を向けた後の記憶は途切れている。あの銃は眠らせるためのものだったのか。敵であるはずの自分に、なぜ危害を加えなかったのか。


 蒼真は立ち上がる。扉らしきものは見当たらない。どうやってここから脱出すればいいのか。もう一度周囲に目を向けると、闇の中で何かが動いた。それは闇に溶け込むように立つ男の姿だった。


「お目覚めですか?」

 蒼真はさらに目を凝らす。その男は、間違いなく黒衣の男だった。


「ここはどこだ?」

「街はずれの倉庫です」


「どうして僕をここに?」

 黒衣の男が蒼真に近づいてくる。蒼真は身構える。


「どうして僕を殺さない?」

 黒衣の男は立ち止まる。


「私は同胞を殺したくない。それだけです」

「同胞?」

 蒼真には予期しない言葉だった。


「それはどういう意味だ!」

「あなたの父と母は、私の星で生まれたのです」

「!」


 蒼真は黒衣の男の言葉をすぐには飲み込めなかった。自分はこの男と同じ星の人間? 今まで人を怪獣化させ、幾多の街を破壊し、数えきれない命を奪ってきた。芦名も、彩も、美波までも、その手にかけた男と、同じ人間?そんなこと、受け入れられるはずがない。


「ふざけるな、僕はあなたとは違う!」

「そんなことはないですよ。私はあなたのお父上とは懇意でした」


「父を知っているのか」

「もちろんです」

 蒼真は黒衣の男を凝視する。


「ならば教えてくれ。どうして僕はネイビージャイアントにならなければいけなかったのか」

 黒衣の男は、いつものように不敵な笑みを浮かべる。


「分かりました。あなたのことを教えましょう」

 男は笑みを控え、ゆっくりと語り始めた。


「我々の星は、かつて平和な星でした。しかしラソンという星から突然攻撃を受けたのです。ラソンは凶悪な星で、我々の星は危機に陥りました。そのとき、我々の星、ハス星で科学技術を担当していたオテウ、つまりあなたの父親に私は出会いました」


「父の専門は…… もしかして生命科学?」

「その通りです。あなたの父に課せられた使命は、生物兵器を作ることでした」


「生物兵器……」

 蒼真の声が弱くなる。母の手紙を思い出す。


『あなたには酷なお願いをします。怪獣による人類滅亡を防ぐため、怪獣殲滅の兵器として戦ってください』

 蒼真は頭を振る。


「そう、あなたの父親は生き物を兵器に変える研究をしていた。それはラソン星から自らの星を守るために」

「それがフレロビウムの研究につながったと?」


「そうです。だが、最初は誰にも信じてもらえなかった。そのことで彼は学会から迫害を受けました。その後、その研究は私に引き継がれたのです」

「どうして父の研究は信じてもらえなかったんだ」


「それは、あなたの父が優しかったからです。彼はフレロビウムが新たな生物を生むことは発表しましたが、それがどんなエネルギーで兵器化するかは明かさなかった。彼に直接聞いたわけではありませんが、おそらく、憎悪によって生物兵器が生まれるなら、人々は憎悪を求めるようになり、兵器化する者が増えることを恐れたのでしょう。だから彼はその部分を隠したのだと私は思っています」


「父はフレロビウムが憎悪のエネルギーで怪獣化することを知っていたと?」

「恐らく。そのことは、君が持っていたノートではっきりしました」


「あのノートで?」

 蒼真は赤いペンでバツが書かれたノートを思い出す。


「あのノートには、そんなことは書かれていなかった」

「いや、それはあなたが父の残したメッセージを読み解けなかったからです」


「?」

 蒼真は手元のタブレットでノートのコピーを確認していた。


「三冊目のノート。そこにはバツ印が書かれているページと、そうでないページがあります。バツがあるページの最初の言葉に母音を、ないページはそのまま読むと、“憎悪”という単語が読み解けます。ただし、それはハス星の言語なので、地球で育ったあなたには読めないのは当然ですが」


 蒼真はタブレットをめくっていく。確かに最後の四ページにバツ印があるページとないページが混在していた。その印のつけ方は、それ以前のページとは明らかに雰囲気が異なっている。蒼真はそれに気づかなかった自分を心の中で責めた。


「彼には美しい伴侶がいた。名前はアンネ。彼女は身ごもっていました。お腹にいたのは、言わずと知れた阿久津蒼真、あなただ」

 蒼真は以前柏崎から聞いた母の話を思い出した。


「父はあなたの星の学会から迫害を受けたんだろう。なぜ殺されたんだ!」

「それは……」

 黒衣の男が一瞬、言葉を止めた。


「それはフレロビウムを活性化する研究が実は成功していたことが学会に知られてしまったからです」

「知られて?」


「そうです。学会に匿名で、オテウが生物兵器を完成させたという密告があったのです」

「誰から?」


「それは分かりません。彼は拘束され、研究内容のすべてを提出するよう命じられました」

「それで父はどうしたんだ」


「言わなかった」

「言わない?」


「ええ。彼は研究成果を明かさぬまま、命を落としました」

「死んだ? なぜだ?」


「彼が留置されていた施設が、ラソン星の攻撃を受けて破壊されたのです」

「ラソン星の攻撃?」


「そうです。あなたの父は、我々の星を侵略しようとしたラソン星によって殺されたのです」

 蒼真の脳裏に、母の手紙の文面がよみがえる。


『しかし、お父さんは殺されてしまいました。怪獣を使って地球侵略を狙う宇宙人に』


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