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ネイビージャイアント  作者: 水里勝雪
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51-1 真実

 さら地となった神山研究所の前に、蒼真は佇んでいた。


 春の訪れを感じさせる陽光と、柔らかな温もりが肌を包む。春霞のせいか、遠くに見える富士山は白く濁っていた。それは、毎年春に見ていた風景だった。去年も、研究所の庭から同じ景色を眺めていた。そのときは隣に美波がいた。だが、今はもう美波はいない。


「終わったよ、美波。僕はもうこれ以上、人を殺さずに済みそうだ」

 かつてここには、青々とした芝生の庭が広がっていた。しかし今は、土がむき出しの新地となり、美波が水を撒いていた花も草も、すべて失われている。


「もう少し早くこの状態になっていれば、美波が空に行くこともなかったのにね。ごめんね、僕のせいだ。僕がもっと早く対策を考えていれば……」

 蒼真の目が潤み、一筋の涙が頬を伝って流れ落ちる。しばらくその場に立ち尽くしていた蒼真の背後に誰かが静かに近づいてくる。


「阿久津蒼真、あなたの戦いは終わりませんよ」

 蒼真が振り返る。そこにはあの黒衣の男が立っていた。


「どういうことだ。もう怪獣は、防衛隊怪獣チームの手で葬り去ることができる。僕が直接戦うことはないはずだ」

 男は不気味な笑みを浮かべる。


「まもなく、我々の星から同胞がやってくる」

「! それは以前、巨大ミサイルを破壊したときと」


「そう、同じだ。あのとき、お前たちによって多くの同胞が死んだ。今回はそうはさせない」

「どういう意味だ」

 蒼真は鋭く黒衣の男を睨み返す。


「今までは、私が地球に先乗りして人類を滅ぼす計画だった。だが阿久津蒼真、お前の妨害でそれは果たせなかった。だから今回は、同胞の中でも軍事関係の者たちがこの地球へやってくる。地球人と我々との全面戦争になる」


「なに!」

 蒼真が空を見上げる。その向こう、宇宙から、宇宙人たちが大挙して攻め込んでくる。そんなことが許されていいはずがない。


「そう、地球は戦場になる。あなたもきっと、戦いに巻き込まれるでしょう」

 黒衣の男が再び、不敵な笑みを浮かべる。


「そんなこと、以前と同じように宇宙で食い止める」

「そうはさせません。なぜなら、あなたをここで拘束するからです」

 そう言うと、いつの間にか黒衣の男の手には銃が握られていた。蒼真が身構えるよりも早く、銃声が響いた。


 ×   ×   ×


 鈴鹿アキがさとみの研究室に足を運んだのは、これが初めてだった。なぜか今までここに来ることを避けていたような気がする。そんなアキが今日ここを訪れたのは、やはり蒼真のことが心配だからだ。


「どうぞ」

 さとみが教授室にアキを通す。


「さとみさん、蒼真君は?」

「ここ三日、研究室には現れていないわ」

 さとみは笑顔を浮かべながらソファに腰を下ろし、アキにも座るよう促す。


「さとみさんは、蒼真君のこと心配じゃないんですか?」

 アキもソファに腰を下ろす。


「当然、心配しているわよ」

 さとみの表情が神妙になる。


「でもね、今は彼、ひとりでいたいと思ってるの」

「それは…… 美波さんのことがあるからですか?」


「それもあるわ」

「それも?」

 アキが首を傾げる。


「彼は今、戦う理由を見失っているの」

 さとみはソファに深く座り直し、足を組んだ。


「蒼真君は優しい。だから今まで戦ってきて、たくさん傷ついてきたの。それはアキさんもご存知でしょ?」

「ええ、それは……」


「彼はもう、限界なのよ。そんな中で、叔父さんが亡くなった」

「その件ですけど…… 蒼真君、何か隠しているような気がして」

 アキの体が前のめりになる。


「それは……」

「さとみさんはご存知なんですね」

 アキはさらに身を乗り出す。さとみは、自分の知らない蒼真のことを知っている。理由はわからないがアキの体が熱くなっていく。


「アキさんだから答えます。でも、これは誰にも言わないでください」

 アキは静かに頷いた。


「蒼真君はね、この星の、地球の人間ではないの」

「?」

 アキはさとみの言葉をすぐには理解できなかった。頭の中が混乱し今さとみが言ったことがこぼれ落ちそうになる。


「さとみさん、それは…… それはどういうこと?」

「彼は、他の星から来た女性が地球で産み落とした子供。その子を育てた兄妹がいて、その兄が、柏崎博士」


「柏崎…… 博士……」

 アキは、さとみから語られる情報の重さに圧倒される。今まで謎だったことが一気に明かされ、彼女の心に洪水のように押し寄せてくる。アキは身震いした。


「そのことは、蒼真君から?」

「ええ、彼から聞いたわ」

 アキの体が再び熱を帯びる。なぜ蒼真は、さとみにだけ秘密を打ち明けたのか。なぜ自分ではなかったのか。


「アキさんは蒼真君が自分になぜ秘密を言わなかったのかって、思ってるわよね」

「えっ」

 アキはさとみに心の内を読まれた気がした。


「なぜ私に話したか、それは、彼の秘密を私が知っているから」

「秘密とは?」


「それは、それこそ、ここだけの話ね」

 アキは大きく頷いた。


「それは、阿久津蒼真君が、ネイビージャイアントだから」

「!」

 アキの頭の中が真っ白になる。蒼真君が、ネイビージャイアント?


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