第3話
「……ん、」
目が覚めると、私はいつものようにベッドに寝ていた。
でも、普段と違うことが二つ。
一つはベッドの周りに置かれている医療器具。
昨日意識を取り戻したからと言って、私の体調が良くなったわけではない。
熱だってひいてないし、まだ体が重くて自由に動くことも出来ない。
もう一つは隣に玲音がいないこと。
いつも何があっても隣にいる玲音がいないのはとても違和感がある。
今まで病気にかかったことがないから、こうして私だけ部屋に留まるとかなかったからかな。
けれど、ワガママをいって玲音にいてもらうわけにはいかないからそこは我慢。
そんなことをぼーっと考えていると、ドアを外からノックされた。
「はい。」
「…失礼します。お嬢様、起きていらしっしゃいましたか。お加減は……。」
「だいじょうぶよ、ありがとう。」
「いえ、お医者様をお呼びしますので少しお待ちください。」
「うん、わかったわ。」
今思ったけど、この幼い身体はしゃべりにくい。
使用人が出ていき、少し経つと外が騒がしくなり、こちらへ近づいてくる足音があった。
そして、バーンッとドアが開き、そこに立っていたのは……
「ゆうか!だいじょうぶ!?」
「……れおん、」
双子の兄である玲音だった。
いつもは大人しい玲音は、私のためにこんなに急いでくれていたと思うと胸が暖かくなる。
「玲音様!今は悠華様のお部屋に行かれてはダメですよ!」
「む、ゆうかはだいじょうぶだっていったよ。」
「し、しかし……!」
玲音付きの使用人が遅れて到着し、玲音を部屋から出そうとするも、私の側から離れまいとしている玲音に苦戦している。
するとまたべつの声が部屋の中に入ってきた。
「おや、玲音。ここにいたのかい。」
「おとうさま。」
「お前はここには来てはダメだと言っただろう?」
「……ですが、ゆうかがしんぱいで……。」
開いたままの扉に寄りかかり、こちらを穏やかな顔で見るお父様のお顔には苦笑が浮かんでいた。
優しく諭すように玲音に言われると、しゅんと落ち込んでしまった。
「まぁ心配なのは分かるさ。お医者様の結果を聞いたら戻るんだよ?」
「!は、はい!」
その顔に絆されたのか、お父様は玲音の横に立ち、頭をそっとなでた。
そして私の方を向いて、柔らかく微笑んだ。
「悠華、具合はどうだい?」
「だいじょうぶです、しんぱいをかけてもうしわけありません。」
「いや、いいんだ。気にするな。」
そう言って玲音の頭を撫でたように、私にも優しく撫でてくれた。
少し照れくさくて視線を下に下げると、玲音と視線が絡まった。
最初はきょとん、としていた玲音だけど、私が恥ずかしがっているのに気づいたのか、ニコッと笑ってくれた。
その笑顔のなかに、とても嬉しいそうな気持ちを隠しきれず、出ていたのは玲音も私と同じことを思っているのかもしれない。
そうこうしているとお医者様が到着した。
少しの検査の後、身体に異常なしと診断され、熱が引くまで要安静と仰られ帰られていきました。
それと同時に玲音も渋りながらも部屋を出ていき、お父様もご一緒に部屋を後にされた。
「お嬢様、何かお食べになりますか?」
私の専属の使用人の、そしてその中でも特別な…そうですね、従者というものでしょうか。
従者の三神凛は、私に朝の紅茶を入れつつ、問いかけてきました。
三神は私たち双子が生まれる前からこの五十嵐家に仕えており、私たちが生まれたときから私の専属従者になりました。
ちなみに、さっきいた玲音付きの使用人と紹介したのは、凛の妹の三神蘭といい、同じく玲音の従者である。
「んー……、なにかたべやすいものなら……。あ、卵の雑炊とかがいいな。」
「かしこまりました。」
私にカップを渡し、そのまま部屋を出ていった。
凛にいれてもらった紅茶は今日は薬湯らしく、紅茶じゃないじゃん!という気持ちは抑えつつ、飲む。
少し苦いけど、飲まなきゃいけないのはわかってるから。
少しすると凛が部屋に戻ってきた。
その手にはホカホカの雑炊も一緒に。
レンゲと一緒に渡され、一口食べる。
ふわっとした卵とダシが染み込んだご飯はとても美味しく、気づけばお皿の中は空っぽになっていた。
その後、お薬をのみ再びベッドに寝転ぶ。
凛は掛け布団を直してくれた。
「ではお嬢様。今日も安静にお休み下さいね。」
「うん、わかってるわ。」
「では、失礼いたします。」
凛が去った部屋は静かだった。
それが少し寂しく感じたけど、だんだん来る眠気には勝てず、そのまま眠りについた。




