表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

99/149

第九十八話

 


 黄昏蜘蛛狩りを終え、ホテルに帰った俺たちは各々自由に行動していた。


(やっぱり大浴場があるのはいいよな)


 このホテルには粗方設備が整っているが、広々とした大浴場もしっかりと完備されている。


 汗を流したかった俺は大浴場で体を洗った後、浴槽に浸かっていた。


(今日は、ウエイトはいいか)


 毎日ほどではないものの、簡単な運動として習慣になりつつあるウエイトトレーニングであるが、あまりやり過ぎても後に響くため、今回は行っていない。


 ホテルにもしっかりと設備は整っている為、休みの日は足を運んでみようとは思っている。


(そろそろ出るか)


 レベルが上がると体のあらゆる部分が強靭になるのか、長湯をしてものぼせにくくなる。


 かれこれ四十分くらい浸かっているが、のぼせた感じはしない。


 寒さにも強くなるし、レベルアップの恩恵は多様だ。


「ふぅ~さっぱりした」


 汗をしっかりと流し、心も体もスッキリした状態で廊下を歩く。


 ふと辺りを見回すと体格が良く、服の上からでも鍛えられていることが分かる人物が多い。


(やっぱり探索者だけあって、良く鍛えられているな)


 有用なスキルを保持していても、ダンジョン探索は命を落とすリスクと隣り合わせだ。


 大抵の探索者はトレーニングをかなりこなしているし、武器術に精通している。


(その辺り、結構すっ飛ばしてるよな)


 俺がウエイトなどで鍛えているのはあくまで補助的なもので、劇的な効果を期待するものではない。


 だいぶ軽くやっているし、彼らは自分とは比べ物にならない負荷でやっているだろう。


 武器術に関しては東雲にかなりしごかれているが、彼らは幼少の頃から経験を積んできているのが大半だろうし、俺とは比べ物にならない経験と鍛錬を積んでいる。


 俺はそんな周りの探索者に敬意を覚えつつ、エレベーターに乗り、奥の方へと進む。


 すると直ぐにエレベーターの扉が閉まり、動き出したタイミングで前を見ると、そこには一人の女性がいた。


(身長、高いな)


 厳しめの顔立ちをしているが美人で、俺よりも少し高いぐらいだろうか。


 長い黒髪を腰元まで降ろしており、身長の高さも相まってクールビューティ―といった言葉が適当な女性だった。


(明らかに探索者だよな)


 立ち姿から明らかに探索者だと分かる。


 当り前であるが、雰囲気から明らかに自分よりも武芸に秀でているし、レベルも高いのだろう。


 密室であることも作用しているのか、どことなく感じる緊張感に洗い流した汗が再び出てきた。


「なにか?」


 じろじろ見ているつもりはなかったが、俺が警戒し過ぎてその雰囲気が伝わったのか、彼女はこちらをちらりと一瞥してから、声を掛けてくる。


 一瞬目が合った時、どことなく心を見透かされたような感じがしたからか、冷汗が出てきた。


「すみません、私、探索者をやっておりまして、同業者かな、と」


「ここにいるのは大抵が探索者ですから、当たり前のことでは?」


 特に表情も変えることなく、平坦な声で言う彼女。


 俺はエレベーターに入った直後よりも、一段重たい緊張感を感じていた。


 その後は特に会話が続くこともなく、重い空気の中、エレベーターが上がっていく。


 やがて彼女の指定した階に着いたのか、扉が開くと彼女は一度、軽く溜息を吐いた。


「すみません、私も少し気が立っていましたので、ダンジョンで会った際はどうぞよしなに」


 それだけ言うと、彼女はエレベーターを出ていく。


 俺はボタンを押してエレベーターの扉が閉まったのを確認すると、深く息を吐き出した。


(あ~緊張した)


 自分よりも身長が高い上に、レベルが高い人物と密閉空間にいると、嫌でも緊張してしまう。


 エレベーターが狭い分、下手にダンジョン探索している時よりも緊張したかもしれない。


(でも、よくよく考えたら、俺が魔術を使えば特に問題ないか)


 こんな狭い密室で魔術を使うのは如何なものかと思うが、狭い場所でも使い勝手の良い魔術もたくさんある。


 俺よりもかなり強い程度のレベルであれば、制圧は容易だろう。


(まあ、いいか…部屋でシャワーでも浴びよう)


 折角、大浴場で汗を流したのが無駄になったなぁ。


 流石に大浴場に戻る気力はなく、俺はそんなことを思いながら、ゆったりと借りている部屋に向かって歩いていくのであった。





読んでいただき、ありがとうございます。


本作品のコミカライズ版の発売が開始いたしました。

本屋に自身の作品が並ぶというのは、本当に感慨深いものです。

読者の皆様方、いつもありがとうございます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ