第九十五話
三又蛇を弱体化しました。
「【アイス・アロー】」
冷気を纏った氷の矢が、森の中では一際目立つ青い鱗を持った三又蛇の眉間を貫く。
その作業を手早く三度行い、俺単独で三又蛇を倒すことに成功した。
「素材回収は俺がするわ」
素材を回収するのは後衛である俺がする手筈となっている。
そうしておけば、奇襲があってもヴァルと東雲が俺を守れるように動けるため、いざという時に最も対応がしやすい。
俺はぐったりとした三又蛇の尾を切り離し、袋に入れる。
「当たり前ですが、この階層は苦にもしませんね」
砂毒猿相手に後れを取らないのだから、ちょっと大きいだけの蛇は苦にしないだろう。
三つも頭があるせいで俊敏性はそこまでなく、対応することが困難ではない。
(ヴァルが盾を持っている以上、速かろうが影響は少なそうだが)
ヴァルの反射神経は凄まじい。
東雲との模擬戦など、俺ではどうして反応できるのか分からない部分が多々あった。
「そろそろかな」
既に長野第五ダンジョンに入り、四十分以上は経過している。
このダンジョンは内部に森林が構築されており、洞窟に比べて進行方向が指定されていないので、進みにくいが、高難易度のダンジョンでもないので、そろそろ次の階層へ行けるはずだ。
「見つけた」
時折三又蛇を倒しながら進んでいくと、森が開け、陸地が見えないほどに大きな湖を発見する。
「この湖に触れたら次の階層に行けるんだよな」
長野第五ダンジョンはこの湖の水に触れることをトリガーに次の階層に転移する仕様になっている。
次の階層へ行く方法はダンジョンによって様々であり、ボスのモンスターを倒さなければ次の階層に行けないようになっているダンジョンも存在している。
「いくぞ」
俺が触れたことで景色が移り変わり、湖は姿を消すと元の森林に戻る。
「ここが第二階層か」
第一階層と全く変わらない風景だ。
辺り一面、木と草に覆われている。
「さっきと変わらないな」
「まあ、ダンジョンですし、景色は意外と変わらないかと」
「それもそうか」
ダンジョンによってまちまちだ。
このダンジョンは環境に一貫性があり、気候の変化とかがないので、探索者としては助かるので、特に問題はない。
(進むか)
森の中を警戒しつつ、足を踏み出した。
落ち葉を踏みしめながら、一定のペースを保ったまま、進めていく。
「ここのモンスターは地中から攻撃を仕掛けてくるんだっけか」
(確か名前は、土食いモグラ)
第二階層に生息するのは、土食いモグラという巨大なモグラだ。
主食は文字通り土で、地中でほとんどの時間を過ごしているが、縄張りに人間が入ってくると、地中から足を狙って攻撃を仕掛けてくる。
土食いモグラの体長は一・五メートルもあり、体重は百キロを超えており、噛みつく力の強さもさることながら、前足は土を掘るために鋭い爪が生えており、人間の肉など、簡単に切断してしまえるため、奇襲には警戒しなければならない。
「いますね」
だが、このモンスターが脅威となるのは、事前に土食いモグラの位置を把握できない時に限る。
東雲が探知のスキルを持っているので、簡単に土食いモグラの居場所を特定してしまった。
「ヴァルさん、そっちに少し進んで下さい」
東雲が指を指した方向に、ヴァルが盾を構えた状態で進んでいく。
そうして土食いモグラの縄張りに近づくと、もこもこと土が盛り返されていき、土食いモグラがその姿を晒した。
(でけぇ)
まだ上体しか見えていないが、だいぶデカいことが分かる。
その上、前足の爪はナイフのように鋭いため、近接で戦うのは面倒な相手かもしれないが、あいにく、俺には魔術があった。
「【アイス・ランス】」
氷でできた一メートル強の槍が空中に形成され、瞬時に射出される。
「————!?」
土食いモグラが飛んできた氷の槍に反応するも、防ぐことは叶わない。
氷の槍は冷気を纏いながら、土食いモグラを貫き、あっさりとその命を終わらせた。
「素材回収をしようか」
土食いモグラから取れる素材は前足の鋭い爪。
これは様々な鉱石でできており、これを基に作られた武器は、高い耐久性と切断能力を持つ。
(どんなに耐久力や攻撃性に優れていても、使わせなきゃ意味ないが)
俊敏さがそこまでないので、魔術一つで何とでもなる。
砂毒猿のような相手であればこうは簡単に決まらないが。
「時折狩りながら、第三階層に行くための湖探しをしましょうか」
「そうだな、今かさばっても困る」
第三階層に行くのが優先だからな。
変にここで欲を見せて、狩りまくる必要もない。
(腕の見せ所だな)
先程のような魔術は最近使ってこなかったが、そんなことは関係ない。
使い方は既に頭の中に、全て入っているのだから。
読んでいただき、ありがとうございます。




