第九十四話
次の日の朝、負担にならない程度の朝食を食べた後、装備を整えた俺たちは、長野第五ダンジョンに足を踏み入れていた。
歩いて五分もかからない位置にあり、すぐそばにあるのは、こちらとしては凄く助かる。
(気を引き締めるか)
長野第五ダンジョンの見た目はどこにでもあるような一軒家であるが、中へと続く扉を開けると、そこは広大な森の中であった。
「別世界だな」
ダンジョンの見た目は当てにならないのは分かっているが、あまりにも違う世界に、少々面喰ってしまう。
辺りを見渡し、どこに視線を向かわせても、草木が生い茂っており、俺が知る森そのものであった。
(少しワクワクするな)
普段は洞窟のような暗がりばかりだったので、こうした自然豊かなダンジョンは新鮮であり、こんな気持ちになるのはあまり良くはないのかもしれないが、このダンジョンを探索するのが楽しみだった。
「ここで出てくるのは三又蛇だったっけ」
長野第五ダンジョンに出てくるモンスターは佐々木ダンジョンの第一階層に出てくるゴブバレットのような弱いモンスターではない。
三又蛇は体長二メートル以上の三つの頭を持つ蛇で、危険度としては第五階層の銅鳥よりも少し強いぐらいだ。
鱗の色は周囲に擬態するような茶や緑などの色ではなく、美しい青色の鱗に覆われており、見つけやすいが、三つの口を使った噛みつきが同時に来るので、舐めてかかることはできない。
倒し方であるが、三つの頭を十秒以内に切り離すか、尾の部分だけ、若干水色がかかった鱗をしており、そこと青い鱗の部分を断てば、倒すことができる。
「進む時は、一列で行きましょう」
先頭が盾を持ったヴァル、真ん中に東雲、一番後ろに俺が並び、ダンジョンの中を進んでいく。
もしも、モンスターが突然出てきたときはヴァルが盾で守り、東雲が仕留める。
距離がある場合は、俺が遠距離から魔術で対処するのが基本的な戦い方のパターンとなっている。
「そろそろ来ますね。右斜め前から直進してきます」
ただ、東雲は探知スキルを持っており、大体のモンスターを事前に察知する。
そのため、奇襲の心配はほとんどない。
「三、二、一、今です」
「【アイス・アロー】」
三又蛇が草木を分けて登場した瞬間、事前の取り決め通り即座に魔術を放つ。
今回は威力も高く、物理的にも残るアイス・アローをチョイスした。
「シャ!?」
氷でできた矢が三又蛇の胴を貫き、地面に縫い付ける。
ジタバタと暴れるが、氷の矢は三又蛇をしっかりと地面に固定し、逃がさない。
「ヴァルは伊藤さんの護衛を」
東雲はそれだけ言うと、一瞬で間合いを詰め、三又蛇の首を全て刈り取った。
見事な早業に、全ての頭を無くした三又蛇はだらりと体を地面に投げ出し、ぴくぴくと痙攣する。
「生命力が凄いな」
俺は三又蛇に近づくと、素材にもなる水色の鱗がある尻尾の辺りを刀で切り離し、袋に入れる。
「思っていたよりも上手くいったな」
こういった戦いの組み立て方はここ最近では有り得なかったが、やはり問題がない。
元々ヴァルと東雲の戦闘力は隔絶しており、そこに俺の魔術が加われば、安定感はかなりのものだ。
回復に関しても俺ができるため、パーティーとしては理想形の一つだろう。
「伊藤さんと頻繁に模擬戦をしたのも大きいですよ」
刀を鞘に収めながら、東雲が言う。
「そんなものなのか?」
「呼吸と言いますか、テンポを分かってくれているので、こちらも躊躇なく戦えます。一応、ヴァルには伊藤さんを守ってもらいましたが、伊藤さん自身が戦えることのをこちらも想定できるので、それもやりやすさに近づくんですよ」
(確かにな)
普段から戦っていれば、呼吸なんかも理解できるようになってくるため、呼吸やテンポが分かってくるようになるのは必然だ。
もし、俺が前衛だとしても、ヴァルと東雲が自力でモンスターを倒せることは分かっているので、万が一を考える必要がない。
「もっとレベルが上がって、モンスターも相応に強くなると難しくなってきますが」
「その辺りは追々だな。とりあえず上手くいって良かったよ」
俺の提案のせいで上手くいかないなんてなったら、ショックだったからな。
「では、このままで探索を進めていきましょうか」
東雲の言葉に、俺とヴァルは頷く。
一体感を保ったまま、俺たち三人は枯れた枝や落ち葉を踏みしめながら、森の奥へと進むのであった。
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