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第九十一話

 

 俺と東雲とヴァルの三人は、裂け目に一人ずつ入っていく。


 長谷部ダンジョンの中は洞窟であり、一定間隔に配置された松明が、洞窟内を明るく照らしていた。


(涼しいな)


 中はダンジョンの外よりも涼しく、半袖半ズボンでは少し寒く感じる。


(それにしても、緊張してしまうな)


 寒さというよりも、ダンジョンを探索しているという事実が、自然と体を強張らせる。


 敵が弱いのは分かっているが、普段からダンジョンに潜っている身としては、緊張するのは自然なことであり、習慣となっていた。


「明日とかは、どうする?」


 変に力み過ぎても良くないので、緊張を緩めるため、俺は東雲とヴァルに話しかける。


「明日はそこそこの難易度のダンジョンに潜ってみたいですね」


『みんな いっしょ いい』


 東雲が返事をしている間に、ヴァルは指を使って、宙に文字を書く。


 探索の際にはこうしたコミュニケーションの手法も用いていた。


「いきなりゆっくりするのは流石にない…か」


 折角長野に来たので、のんびり羽を休めたい欲求が高まっている。


 ただ、東雲は現実的な構想を話し始めた。


「そうですね…最初はハードとは言いませんが、探索を中心に行って、後半はリフレッシュすることをメインにしていく感じがいいと思いますけど」


(完全な観光ってわけでもないし、明日はダンジョン探索が妥当か…)


 後半は疲れているだろうし、ゆっくりして疲れを取って帰った方がいいのは間違いない。


 ダラダラしたい欲求に負けている俺の考えよりも、東雲の意見がベストだろう。


「っと、ゴブリンが来たな」


 やや集中力が欠けた状態で、ダンジョン内を進んでいくと、 小柄で緑色の肌をした二足歩行のモンスター、ゴブリンが姿を現す。


「ゴブ」


 ゴブリンは目が悪いのか、こちらを視認しても首を捻るばかりで、特に何もしてこない。


 俺は緩みかけていた精神を引き締め直し、口を開く。


「じゃあ、俺がいくわ」


 二人に一言断って、足音を抑えながら前に出た。


 俺はゴブリンのいる方に進んでいき、両者の距離が三メートル付近になって、ようやくゴブリンは敵意を露にした。


「ゴブッ」


 こちらに走ってくると、拳を握りしめ殴りかかってくる。


 俺はその攻撃をひょいと上体を反らし気味にして、躱した。


(ホントに弱いな)


 目を瞑っても避けられそうなぐらい、遅くて弱々しい一撃だった。


 東京第二ダンジョンの第一階層にいる自動人形であっても、このゴブリンを十体ぐらい同時に相手どれるのではないだろうか、と思う


「ゴッ、ブッ」


 何度も躱していく内に、ゴブリンの方が肩を上下して息を切らし始めた。


 その様子を見て、俺は“そろそろいいか”と思い、腰に差していた刀を抜いた。


「すまんな」


 一刀のもと、ゴブリンの胴を斬り、完全に仕留める。


「これが換金用の素材か」


 俺はゴブリンに近づくと、汚れる前にゴブリンがつけている首飾りを取った。


 ひもに青緑色の石を付けた簡素なもので、この石が換金素材になる。


「感覚を掴むにはいいかもな」


 実際に戦うことで感覚を掴むというか、戻すにはいいかもしれない。


「もう少し、出現頻度が多ければ、いいかもしれもせんね」


 東雲の言葉に、俺とヴァルが頷く。


 どのみちそこまでの頻度で出会うことはないので、訓練に使うには不適格だろう。


「さて、行くか」


 ゴブリンの首飾りを収納用の袋に入れると、俺たちは長谷部ダンジョンの奥へと進むのであった。




読んでいただき、ありがとうございます。


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