第九十話
俺たち三人が向かっているのは、長谷部ダンジョンと呼ばれる、長野県で有数の低難易度ダンジョンだ。
このダンジョンに出てくるモンスターは弱く、階層は狭い上に、最終階層も第七階層までなので、そこそこの実力を持った探索者が急いで攻略すれば一時間もかからないとされている。
ましてや罠なんてものはあるはずもなく、子供でも攻略できそうなダンジョンだ。
(というか、実際に攻略したんだよな)
このダンジョンを初めて攻略したのが、長谷部くん十歳である。
探索者の両親の元、生まれた長谷部くんは偶然このダンジョンの入り口を発見し、そのまま潜ってしまったのである。
探索に必要な知識や簡単な武器の扱いも両親から学んでいたため、長谷部くんはレベル上げながら、ダンジョンを踏破したというのが公式の記録であった。
(よくダンジョンの中に入ったよな)
ダンジョン探索は国の規定により、十五歳未満は許可されていないため、当初はダンジョンの名称に苗字を使うのは不適切ではないかと審議があったそうだが、当時の探索者協会の重鎮の鶴の一声で許可されたらしい。
そんな長谷部君であるが、ネットで少し調べてみると、現在は二十代半ばでAランクの探索者として、高難易度のダンジョン攻略を行っているとのことだ。
「このダンジョンはゴブリンが出てくるんだよな」
そんな長谷部さんの話は置いておいて、この長谷部ダンジョンであるが、長野のダンジョンではあまり見られないゴブリンが出現する。
「そうですよ」
俺が東雲に聞くと、俺の横を歩いていた彼女は頷いた。
「でも、ここに出てくるゴブリンは、普通のゴブリンよりも弱いですからね」
ここのダンジョンの最初の階層を徘徊するゴブリンは、最弱クラスとされているゴブリンの中でもとてつもなく弱い。
歩いていれば攻撃は当たらないし、成人男性が普通に殴れば一発で倒すことができる。
賢くもないし、とろい動きしかできない上、ほとんどの階層では武器すら使ってこない。
それがこのダンジョンのゴブリンだ。
「五階層でようやく並みのゴブリンの力、七階層でようやく武器を使ってきますからね」
あと、ゴブリンが弱いのもそうだが、出現頻度も少なく、走って進んでいけば、下手をするとモンスターに会わないなんてこともあるそうだ。
(ダンジョンの存在意義ってなんなんだろうな)
高難易度とされる、並みの探索者では立ち入ることもできないダンジョンもあれば、長谷部ダンジョンのように例外ではあると思うが、子供でも踏破できるダンジョンもある。
ダンジョンはどんな目的があって、存在しているのだろうか?
そんなことを考えながら、真新しい道を歩いていく。
「着きましたよ」
東雲の言葉で思考が中断される。
徒歩15分で、着いた長谷部ダンジョンの入り口は岩壁にある人二人がギリギリ通れるぐらいの裂け目であった。
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ニコニコ漫画の方でも本作のコミカライズ版が公開され、そちらの方を読んでいただいた方にもこの場を借りて、お礼申し上げます。




