第八十九話
ダンジョンでの探索を進めながらレベルを上げ、空いた日はウエイトや筋トレを行いつつ、体の使い方を上達させていく。
その上で技術的な部分を伸ばし、模擬戦などを行うことでより技や対応を洗練させていった。
「じゃあ、長野に決定ってことで」
二週間ほどそんな生活をしながら、候補を絞っていき、遠出先を長野に決めた。
長野県はダンジョンがそこまで多くはないが、ダンジョン内の環境やモンスターの傾向がある程度絞られており、東京のような多種多様なダンジョンが乱立していない。
その分、現地の探索者間でノウハウが共有されやすく、そこそこ盛況な場所として知られていた。
「一週間から二週間ぐらいですかね」
東雲がアイスを食べながら言う。
彼女もここ最近は俺の部屋に居ついており、勝手に食品なんかを買って冷蔵庫に入れていた。
今食べているアイスもそれで、この前勝手に食べてしまった時は怒られてしまった。
「ホテルは前に言ってたやつでいいよな」
長野県に限らず、規模が大きめのダンジョンや複数のダンジョンが固まっている場合には、大抵探索者協会の支部と探索者向けのホテルがセットで存在している。
宿泊代はそこまで高くなく、料理も量が多い割にリーズナブルで、探索者向けのサービスが豊富なホテルだ。
「そうですね。なかなかサービスもいいですし、変に違うホテルや旅館に泊まって失敗なんてなったら台無しですからね。命にもかかわりますし」
「確かにな」
探索は命がけであり、泊まる場所や料理の質が悪くて、パフォーマンスが悪くなったら目も当てられない。
「色々準備して、一週間後辺りに行きますか」
俺も自分で買ったアイスを冷凍庫から取り出し、食べる。
甘さと冷たさが、体に染み渡っていった。
♦♢♦♢♦
一週間後、俺たち三人は長野県にいた。
「涼しいですね」
三人とも列車を降り、同時に空気を吸う。
周辺は木々が多く、自然豊かなため空気も美味しかった。
「ホテルは向こうだな」
駅の近くにホテルがあり、俺たちは歩いて向かう。
「探索者と普通の観光客が半々ですかね」
道行く人を見ると如何にも探索者みたいな服装をした人物もいれば、明らかに観光目的の格好の人もいる。
もっと探索者だらけかと思っていただけに、意外だった。
「着きましたね」
これから宿泊するホテルに到着する。
結構大きなホテルで、見た目も風景を壊さないよう配慮された、良い感じの外観だった。
「チェックインしてくるわ」
受付に向かい、チェックインを済ませて、カードを貰う。
「七階だな」
エレベーターに乗り、早速七階に向かうことにする。
宿泊するのは七〇五号室で、窓から川を眺めることができる部屋だ。
「いいですね」
七〇五号室に入ると、和と洋が上手くマッチした部屋であった。
部屋の中もそれなりに広く、三人で居ても閉塞感がない。
「今日はどうする?」
『どうする?』
俺が東雲に聞くと同時に、ヴァルはオウム返しのような言葉を書き込む。
東雲は一度俺たちに視線を向けた後、視線を外に向かわせてから口を開いた。
「難易度の低いダンジョンの、二、三階層にでも行ってみます?今の私たちなら本当に観光みたいなものになりますし」
実際にCランク程度の探索者に護衛をさせながらダンジョンを観光するようなツアーも存在しており、テレビでも紹介されていた。
「その程度だったら、ダンジョン探索もいいかもな」
どの道、ダンジョンには行く予定だし、肩慣らし程度にはいいかもしれない。
「じゃあ、少しくつろいでから行くか」
俺は荷物を置くと、その場にあったベッドに倒れ込んだ。
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