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第八話

 



(中学生?いや、高校生か?)


 俺はいつの間にか横にいた小柄なおかっぱの少女を見て、そう思う。


 顔立ちは人形のように端正だが少女特有の幼さがはっきりと表れており、身長も150センチもないぐらいだろう。


 一見するとただの可愛らしい女子高生そのものだ。


 だが、腰には俺と同じく刀を差しており、雰囲気から一般人とは違う闘気のようなものが感じられる。


(ド素人の俺の勝手なイメージだが)


「私は東雲一花(しののめいちか)と言います。一応言っておきますけど、中学生でも高校生でもありません。二十歳です」


(そうなのか、どう見ても十代にしか見えないが)


「外見上、よく間違えられますが、はい」


 そう言って、一枚のカードを見せてくる。


 そこには探索者のランクと年齢、名前が書かれていた。


「Cランク!?・・・・・それにホントに二十歳だ」


「はい、このカードに書かれているのが何よりも証明となるはずです」


 少女、東雲一花が軽い溜息を吐く。


 こうして間違えられることが何度もあったのだろう。


 ここまでの流れは随分手馴れているようだった。


「すみません」


「いえ、よくあることですから」


 どうやらこちらが考えていることは筒抜けだったらしい。


 視線や表情から読み取られたのだろうか?


「それにしても、その年でCランクとは・・凄いな」


 思わず素の口調が出てしまった。


 率直に言って凄いだろう。


 この年でCランク、恐らくは何らかの推薦か、金持ちだったのか、どちらにせよここまでのランクになることは容易ではない筈だ。


「そんなことありませんよ、上には上がいますし」


 どこか遠い目をする東雲さん、何か過去にあったのだろうか。


 瞳の中にはどことなく憂いがある。


 会ったばかりの俺が詮索するべきことではないことは確かだろう。


「さっき言ってた無心一刀流というのは俺が使ってた剣術のことですか?」


「はい、私は無心一刀流で免許皆伝を持っていて、それなりに門下の人は覚えているはずなのですが、おじさまのことは記憶にありませんでしたので」


 おじさまって、俺はどこにでもいる四十代に差し掛かったおっさんだぞ。


 というか、免許皆伝って相当凄くないか?


「お、私は伊藤春彦(いとうはるひこ)と言います。おじさまじゃなくて、伊藤と呼んでください」


「分かりました、伊藤さん。でも伊藤さんも、もっと砕けた喋り方でいいですよ。伊藤さんの方がずっと年上ですし」


 「ずっと」という言葉が心に刺さるが、それもそうか。


 だが、東雲さんは高貴なオーラがあって、話す時は自然と敬語になってしまうんだよな。


 まあ、本人もそう言っているわけだし、敬語で喋るのも逆に失礼か。


「分かった。敬語は止めるよ」


「その方がよろしいかと、それにしても無心一刀流、一体どこで学びましたの?少なくとも本家の道場では習ってはいないのでしょう?」


「ああ、この剣術は会社に勤め始めた時にダンジョンで生き残るための訓練で教官から教わったものだ」


「それで、確かに無心一刀流の門下の中には優秀な探索者も多くいますし、伊藤さんが家の剣術を習っていてもおかしくはないかもしれませんね」


「納得がいきました」と東雲さんは何度も頷く。


「それは良かった。じゃあ、俺はそろそろダンジョンに潜るから」


 東雲さんはまごうことなき美少女(に見える女性)なので、そんな女性が俺みたいな普通の中年と一緒にいたら白い目で見られてしまう。


 実際、二十代くらいの男の探索者グループからガンを飛ばされている。


 特に髪を茶髪で染めた小柄な剣士風の男は殺意でも込めているのではないか、と言えるほどに怒りの視線を向けてくる。


「そうなのですか、じゃあ折角ですし、私と一緒にダンジョンに行きませんか?」


 名案を思い付いたとばかりに両手を合わせながら笑みを浮かべる東雲さん。


「いや、それは流石に「行きたくないですか?」・・いえ、そんなことはありません」


 東雲さんの寂しそうな表情に負けた俺は思わず了承してしまう。


「そうですか。では、早速行きましょう!」


 俺が了承した途端にコロリと表情を変え、ニッコリとした表情を浮かべる東雲さん。


 俺はその表情にしてやられたと思いながら、先を歩く東雲さんの後ろをついていき、ダンジョンへと向かうのであった。





読んでいただき、ありがとうございます。

皆様のおかげで総合評価は1000ptに大きく近づき、日間ジャンル別のランキングでは6位になることができました。

重ねてお礼申し上げます。


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