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第八十八話

〔半年足らず→三か月足らず〕に修正いたしました(2023年10月22日)。

 

 現在、俺と東雲、ヴァルはトレーニングルームを借り、そこで練習に励んでいた。


(体もだいぶ強くなったな)


 ダンジョンを探索する以外の日は、疲労が溜まっていなければ、こうしてトレーニングルームで技術練習をするか、ジムでウエイトをするルーティーンができている。


「伊藤さんの目標は二百レベルなんですか」


 俺が軽くストレッチをしていると、東雲がこちらに寄ってきた。


「二百レベルはBランクの最低レベルだからな。俺としてはそれぐらいにはなりたい」


 百レベルでCランクになれるのだが、Bランクになるにはその倍のレベル二百にまで到達する必要がある。


 通常の探索者はこの百レベルからレベル二百の壁にぶち当たり、超えることができない。


 だが、スキルが強力なこともあり、Bランクになら成れると俺は踏んでいる。


「難しくはないと思いますよ。今のペースを見ても普通の探索者に比べてだいぶ早いペースで伸びていると思いますし」


 まだ三カ月足らずだが、たぶん、俺のレベルは百を超えている。


 順調にレベルが上がったとしても、一年ぐらいはかかるとされているので、かなり早いペースではあった。


「じゃあ、質問なんだが、Aランクになるのはどれくらい大変なんだ」


 Aランクがどのような世界なのか、俺は理解できていない。


 明星の東京支部長にもなる男ですら、その壁を越えることはできなかった。


「ん~」


 東雲が考え込むようなそぶりを見せたかと思うと、姿が消える。


「大体この動きができるようになればですかね?大変さがどのくらいかは分からないです。私も気づけばこうなっていたので」


 いつの間にか、背後に東雲がいた。


 目で追うことすら叶わない、圧倒的なスピード。


(遠いな)


 理解ができない世界だ。


 多少強くなっても、先が見えない。


「あんまり深く考えなくてもいいと思いますよ。レベルが上がることによる身体能力の向上、それに合った戦闘スタイル、純粋なセンス、優秀なスキルを持っていれば誰でも行きつくことができます」


「それはほとんどの探索者が行けないってことだろ」


「それはそうですが、伊藤さんなら大丈夫でしょう」


 楽観的な言葉であるが、実際そうかもしれない。


 俺が魔術師というスキルを得たように、未来はどうなるのか誰にも分からないのだから。


「とりあえずレベル二百にいかないと何とも言えないな」


 レベル二百。


 まだ辿り着けていない領域に足を踏み入れれば、何かわかるかもしれない。


(気合入れてやるか)


 俺は木刀を振りながら、ダンジョンの空気を思い出す。


 独特の緊張感と、高揚感を思い出した。


「軽く模擬戦でもしましょうか」


「技術も伸ばせるだけ、伸ばさないといけないしな」


 東雲の誘いに乗り、俺は構えを取る。


「いくぞ!」


 ちなみに結果は上手いことコントロールされながら、適度にボコボコにされて負けた。


 ♦♢♦♢♦


「少しダンジョンを変えてみましょうか」


 俺の前を歩いている東雲が振り返りながら言う。


 トレーニングを終え、三人で帰る途中だった。


「どこかおすすめでもあるのか?」


(俺としては立地面を考えても、佐々木ダンジョンか東京第二ダンジョンがベストな気がするのだが、他に何かいいダンジョンがあっただろうか?)


「遠出してみるのもいいかと思いまして」


「あ~そういうことか」


 確かに、ここ最近は同じようなことの繰り返しだった気がする。


 レベルを上げるごとに難易度を変えていったり、トレーニングの内容は発展させてきたが、同じようなことを繰り返していたので、刺激は薄かったかもしれない。


(命のやり取りをしているので、そういう刺激はあったが)


 気分転換も含め、いつもとは違うダンジョンに向かうのはいいかもしれないな。


「どんな感じでやるんだ?」


「全く違う環境で、刺激を与えるのがメインなので、普段攻略するダンジョンよりも緩めで、傾向の違うダンジョンで探索しながら、リフレッシュもできたらと」


「いいな」


 旅行自体はしたかったし、探索も自分の目標に繋がるので嫌ではない。


 別に連日探索をする必要はないので、その辺りはおいおい決めるだろう。


「候補はあるのか?」


「候補はいくつかありますね…ただ、この辺りは全員の意見を出した方ががいいでしょう」


 俺と東雲はヴァルの方を見る。


 ヴァルは理解しているのかしていないのか分からない表情で、コクリと頷いた。


「そうだな。全員の意見を聞いて、やった方がいいな」


 ヴァルも俺たちの話す内容をある程度理解しているだろうし。


(最近、ホワイトボードを使って話始めたしな)


 部屋の中では平仮名を使いながら、文字での簡単な会話を行っている。


 もともとボディーランゲージでそこそこ会話は成立していたが、最近はそれ以外でも意思疎通ができるようになっていた。


「はい、数日から数週間は現状維持でもいいでしょう。ゆっくり予定を決めてから、探索するということで」


『 うん 』


 東雲の言葉に対して、ヴァルが早速ホワイトボードに書き込んで返事をする。


(じゃあ、金を稼がないとな)


「了解、明日も頑張るか」


「はい」「…」


 俺がそう言うと二人共、笑顔を浮かべて頷くのであった。




読んでいただき、ありがとうございます。

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