第八十六話
「失礼しました」
山崎が椅子に座り直し、居住まいを正す。
「期待して頂いているところ、申し訳ないが俺はそこまで存在ではないと思う」
実際のところ、どうかは分からないが、東雲やヴァルを見ている身としては俺はそこまでの存在ではないように思う。
スキルは確かに強力で様々な状況に対処できるものを持っているが、その使う感覚みたいなものはあまり洗練されていない。
時間がかかる上、それがどこまで通用するのか、今一つ読めないのだ。
「いえ、そんなことはないかと…ここ最近、異常なペースで進歩しているのは私の方でも確認済みです」
「仲間のおかげですよ」
実際、彼女たちの力がなければ、ここまでのハイペースで強くなることにはならなかっただろう。
「砂毒猿相手に苦戦しないなんて、無理な人間には一生無理ですよ」
低めの声で山崎が言う。
「かく言う私も元探索者でして、明星の支援もありBランクまではいけました」
山崎が少し暗い表情で言う。
「しかし、Aランクの壁は途方もなく高く、私程度がいくら練習しても、スキルを多少身に着けてもそこにはいけませんでした」
「それは…」
苦しいこともさぞ多かっただろう。
結局自身は天才たちの領域に足を踏み入れられなかったのだから。
「ですが、私は人を見る目だけありました。その長所を活かして、今では東京支部長です。本拠地の北海道を除いて、世界の支部では一番大きい場所を任されていますから」
この東京支部長というのが、山崎が勝ち取った場所なのだろう。
ただ、それがどうしたというのだ。
俺が才能を持っていることの証明にはならない。
「山崎支部長は凄いんですよ!」
ここまでほとんど黙っていた佐野が意を決した表情で言う。
寡黙そうな子に見えたが、しっかりと意見は言うようだ。
「私、学生の頃は東京探索者科高等学校に通ってて、成績は全然だったんですけど、山崎支部長にスカウトされて、同学年の誰よりも早くBランクになったんです!」
ふんすと、鼻息荒く言い切る佐野。
少女のような見た目も相まって、恐らく成人はしているのだろうが、本当に子どものように見える。
「おっおう、そうか」
てか、この子もやっぱりエリートなんだな。
探索科高校って、東京にも一校しかないし、全国だと十校しかないじゃなかったっけ。
入るにはかなり厳しい基準と、実技試験をクリアしないといけないとか。
(俺なんか、そんなの目指せる立場にすらなかったからな)
「伊藤様、少しお金の話をしましょう」
俺が先程からネガティブな感情になっているのに気が付いたのか、話題を変えてくる。
「伊藤様、明星は年俸一億を出すことができます」
「一億?」
凄まじい額だな。
今までの言葉の裏付けとしては確かに納得がいく。
(額が大きすぎてパッと理解できないが)
最近になって探索者として安定し始めたが、元々は一庶民だからな。
今も別に多少羽振りが良くなっただけで、装備とかであっさりと金はなくなるし。
「装備の方も私どもが用意いたしますし、探索についても週二回程度で問題ありません。もし、怪我等がありましても、こちら側が医療の方も準備させていただきます」
至れり尽くせりの内容だな。
本気ということなんだろう。
「佐野についてですが、彼女は伊藤様の新しいパーティーメンバーにする予定です。他にも何人か有望な子を見繕う予定です」
それも、彼なりの‘本気’なのだろう。
ただ、俺としては看過できない部分がある。
「もしかして、今のパーティーのままで明星に移るのはダメということなのか?」
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