第八十四話
俺は第十階層に到着すると鞘から刀を抜き、精神を整える。
第十階層、今回の探索の節目となる階層だ。
(落ち着くな)
武器を持って落ち着くのはあまり良くないそうなのだが(東雲談)、ダンジョンという命の危険がある空間では許してほしい。
順調に見えても、思わぬところで落とし穴があったりするものなのだから。
(動きも悪くないな)
ナイフを使って既に温まっているのもあり、軽く振ってみるとスムーズに刀を動かせる。
新調してから多少は振っているので、多少は手に馴染んでいるというのもあるが、それでも既に実戦をナイフで行った点が大きいだろう。
(見つけた)
気配を薄くしながら、周りに溶け込ます。
はっきり言って素人に毛が生えた程度だが、こういった技術も東雲から教わっている。
(よし、いくか)
第十階層に来て、初めて戦う自動人形。
緊張はしなくていいはずなのに、無駄に肩ひじが張ってしまう。
(さっきを思い出せ)
俺は先程、精神を整えたことを思い出し、体の力みを取った。
「シッ」
自動人形が認識しにくい角度から、俺は大きく踏み込んで、自動人形の首目掛けて斬りかかる。
「あ」
完全な奇襲が成功し、自動人形の首は宙を舞った。
俺は落下する前に、自動人形の頭部をがっしりとつかみ取る。
(あっさり片付いたな)
やはり、ナイフは実戦で使っていなかった分、今一つ使いこなせていなかったのだろう。
ナイフを使った際の距離感や重心なんかも、上手く掴み切れていなかったのかもしれない。
(俺は天才ではないからな)
東雲も時折、どういう原理で動いているのか分からない動きをしているし、ヴァルも格闘技の動画を見て、直ぐに技を吸収したのか、実戦や東雲と模擬戦をする時に使っていた。
(あと、六個ぐらいは確保するか)
ここは他のダンジョンと比較して簡単にモンスターに出会える。
狩りを終えるまで、そう時間はかからないだろう。
(よし、頑張りますか)
俺は稼ぐためにあらためて気合を入れ直し、先へと進んでいくのであった。
♦♢♦♢♦
「これで七個目」
自動人形の首を一刀のもと、断ち切り、ダンジョンに吸収される前に頭部をキャッチして、リュックに入れる。
予想通り重さもそれなりになり、俺は帰還することにした。
(帰るか)
第十階層にある転移ポータルを見つけ、地上に出る。
ダンジョンの鬱屈とした空間から一転し、新鮮な外の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
(そこまでいい空気でもないな)
外の空気が気持ちよかったので、思いっきり吸い込んでみたのだが、特段美味しい空気というわけでもない。
都市部だし、それも仕方のない話かもしれないが。
(自然の多い場所とかに行ってみるのもいいな)
今は金を稼ぐのに苦慮しないし、旅行に行くぐらいの金は稼げるだろう。
そんなことを思いながら、俺は探索者協会に向かっていったのだが…。
「どうも、伊藤様」
探索者協会に向かう途中、いきなり声を掛けられた。
それはこの前聞いたばかりの声で、
「この声は…」
声のした方を見ると、そこには先日勧誘に来た山崎と身に覚えのない一人の少女が立っていた。
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