第八十一話
ゆったりとした休日を送った次の日、俺はレベル上げと実力を確かめるために、一度潜ったことのある東京第二ダンジョンへと、一人で足を運んでいた。
(やっぱり、雰囲気が違うよな)
東京第二ダンジョンの付近では他にたくさんのダンジョンがあり、その周囲には大企業のビルが、少し離れた場所には上位探索者や大企業の勤め人などが住んでいる住宅街がある。
当然、周りにいる探索者はある程度レベルの高い者が多く、武器や防具も質が高い。
ただ、前に来た時よりも今の俺は浮いてはないと思う。
(身なりもだいぶ違うしな)
モンスターばかり狩って金がある程度溜まっていたのと、明星に誘われたのを機に装備は新調している。
少しばかりデザインと性能が良くなった上下の服と、より耐久性のある刀、質の高い大振りのナイフを買っただけだが、見た目はだいぶ違う。
(さて、行きますか)
平日にもかかわらず人が多い中、俺は人ごみを躱しながら東京第二ダンジョンへと向かった。
(前に第五階層まで行っておくべきだったかな)
歩きながら、過去を振り返る。
ここに出てくるモンスターは自動人形と呼ばれる人間サイズの人形で、階層を重ねるごとに強さが増す。
このダンジョンには第五階層ごとにチェックポイントと転移ポータルがあり、次回以降到達したチェックポイントに自動で到達できる。
もしも、下の階層のチェックポイントに戻りたい場合は、五階層ごとではあるが、転移ポータルで下の階層に行くことを念じれば、その階層へと行くことができる。
だが、俺は第三階層までしか足を踏み入れていないので、第一階層からの探索となっていた。
(ヴァルとの戦いで消耗していたから仕方ないが)
初めて東京第二ダンジョンに潜ったあの時、俺はヴァルと出会い、戦った。
アドレナリンを大量に分泌していたから、恐怖心は比較的薄かったものの、間違いなく過去一の強敵であり、死を覚悟するほどだった。
ダンジョン探索にも慣れておらず、余裕がなかったので、本当にきつかったことを鮮明に覚えている。
(切り替えるか)
東京第二ダンジョンの前まで来ると、一旦過去の思い出を頭から追い出し、ダンジョン内に足を踏み入れる。
「ふぅ~」
息を吐き出すと、ダンジョン特有の独特な空気感に自然と意識が鋭敏になった。
周囲に視線と意識を向け、モンスターの気配を逃さないようにする。
(今日は二人共いないからな)
いつもよりも数段集中しなくてはならない。
緊張で少し肩が上がりそうになりながら、俺はダンジョンの中を一定のペースで歩いていく。
(いた)
第一階層を歩いている自動人形を見つけたので、魔術で肉体を強化する。
結界は魔力を喰うので、今回は使わないことにした。
「はっ」
地面に足がめり込むのではないかというほどに力を込めて一気に踏み込み、自動人形に近づく。
「しっ」
距離が一気になくなり、自動人形と俺の距離が刀の間合いになったので、居合の要領で刀を抜きざまに振りぬき、その首を刎ねた。
自動人形の胴体が頽れ、頭部が転げそうになるも、俺はすかさず、その頭部を掴み取る。
「あぶねぇ」
一瞬にして、自動人形の首から下がダンジョンに取り込まれた。
「ここは第一階層だし、だいたい五百円ぐらいか?」
この頭部の中にはダンジョン探索に使う装備の素材があるのだが、第一階層で大体五百円。
第十階層で一万円程度になるはずだ。
「かさばるし、ここのはいらないな」
俺が自動人形の頭部を放る。
自動人形の頭部は、地面に触れるとすぐさま吸収された。
(ここで死んだら、俺も一瞬で吸収されるのだろうか?)
ふとそう考えてみると、ゾッとしない。
ここで死ねば、俺は誰かに看取られることもなく、ひっそりと消えていくのだろう。
(気を引き締めなくては)
俺はこの自動人形のようにならぬよう、より一層集中しながらダンジョンの奥へと進んでいくのであった。
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