第七十九話
俺は明星のことを一旦棚に上げ、今日は休暇を取っていた。
最近は探索、トレーニング、探索みたいなスケジュールだったので、久々の完全な休暇である。
(さて、どうしようかな)
ヴァルと東雲の二人はショッピングに出かけているので、俺一人で外に出る。
(ショッピングか…何を買っているのやら)
俺は一人気楽に、街をのんびりと歩いていく。
今日は休日だったこともあり、往来には人も多い。
(やっぱり、みんな薄着だよな)
現在の日本はかつてとは違い、年中まではいかないが気温は高めなので、道行く人も薄着であることが多い。
実際、俺もTシャツを着て外に出ており、長袖シャツで外を歩き回っていたら、汗だくになっていただろう。
(探索中は長袖が多いから、逆に新鮮だな)
モンスターからの攻撃を防ぐため、ダンジョン内では全身を覆うような服装が多い。
機動性を重視するために肌を露出させるような服装をする探索者もいるが、それは上位の探索者に限った話であり、一般的な探索者は皆長袖長ズボンである。
(コンビニでも寄るか)
俺は人を避けながら、ふらふらと吸い寄せられるようにしてコンビニの中へ入っていく。
昔からコンビニはよく使っているので、こうして目的がない時にはふらっと寄ってしまうのである。
(収入が変わっても、昔ながらの習慣は変わらないか)
探索者として励みながら、自己研鑽を行うようになっても、元の人間は俺に過ぎないことの表れだろう。
収入が大きく増加しても変わらないのだから、習慣というものは恐ろしい。
(何を買おうかな)
コンビニに入り、かごを取るとおにぎりやゼリー類のコーナーへと足を進める。
前は仕事終わりにいつも、こういった炭水化物が多く摂取できるものを買っていた。
(でも、おにぎりだけってのもな)
しかし、おにぎりを二個ほどかごに入れた後、俺は物足りなさを感じ、ドリンクのあるコーナーでパックに入ったプロテインを手に取る。
(前だったらまず選ばないな)
プロテインのパックをまじまじと見ながら思う。
探索者として活動をする前であれば、プロテインなどはまず選ばない。
東雲やヴァルとの剣術の鍛錬や、ウエイトトレーニングを始めるようになったことで、自然と意識するようになっているのだろう。
変わらないこともあれば変わることもあるということなのだろうか。
(あとはゆで卵とホットスナックでも買うか)
レベルが上昇したおかげで代謝が向上しているので、ホットスナックのような脂っこいものであっても平然と食べることができる。
体をそこまで動かしていない日でも、肉体は栄養を欲しているのもあり、こういった物を買うのに躊躇がない。
(ホットスナックはワイバーン焼きにするか)
俺はレジの前に行くと、かごをセンサーの付いた台の上に置き、追加でポピュラーなホットスナックであるワイバーン焼きを注文することにした。
(ワイバーン焼き三本っと)
こうしたホットスナックの注文の際には、備え付けのタブレット端末に欲しい品を入力する。
後はカードで支払を済ませたら、袋を取って、注文した品を入れるだけだ。
(折角だし、公園で食べるか)
袋を揺らしながらコンビニを出ると、しばしそばの影で思案したのち、公園の木陰で食べることを決定する。
(自然に囲まれて食べるのも久々だな)
昔にコンビニを使っていた頃は、仕事帰りにとりあえずエネルギーを摂取できるものを買って、家で黙々と食べていた。
サラリーマン時代であれば、公園のそれも木の下で買った物を食べるなんて、全く考えになかったことだろう。
(これも変化なのかもな)
自身が元のままのようで微妙に変化したのを感じながら、俺は日差しの強い中、公園を目指してアスファルトの道を歩いていくのであった。
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