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第七十三話 

お久しぶりです。

 


 俺と砂毒猿の戦闘は熾烈を極めていた。


「シッ」


 俺は砂毒猿との距離を数歩で詰め、基本を意識して斬りかかる。


 模範的な動作で真っ直ぐ振りぬかれた刀は、命中することなく空を切った。


 砂毒猿は俺の一撃をバク転することで回避していたのである。


(次)


 俺は砂毒猿の動きに追随するようにして踏み出し、追いつく。


 砂毒猿のトリッキーな動きに翻弄される者は多いだろう。


 従来の武術や武道の動きを理解するだけでは、砂毒猿の動きは捉えどころのない動きに見えるのではないだろうか。


(俺は違う)


 東雲レベルの対応力、才能を持っていればトリッキーな動きも自身を高めていく血肉に換えられるが、俺レベルではそんなことはできない。


 だが、訓練で苦しめられた予測困難な動きの数々によって、常人に比べてトリッキーな動きに対応する能力は高くなっている。


 無知ではなく既知に過ぎない砂毒猿の動きは、凡人の俺であっても攻略不可能なものではないのだ。


 ヴァルは人間がおよそ行わない動きを簡単に行い、それでいてその行動が合理的な行動になるため、砂毒猿よりも遥かに厄介である。


(訓練する相手が強いと、モンスターが弱く見えるな)


 倒すことが難しい、そんなモンスターも優に超える強さを体感しているのだ。


 砂毒猿は厳しい相手ではあっても、決して敵わない相手ではない。


 俺は砂毒猿の動きからおおよその間合いを予測し、その距離を一気に詰めていく。


「キィッ」


 再び距離が縮まることで刀の間合いに入ると、俺は袈裟懸けに刀を振るおうとした。


 俺は咄嗟に後ろに跳び、尾の攻撃を回避する。


 結界も万能ではない。


 身体能力の強化にもリソースを割いている今、下手に近づいてしまうと痛い一撃をお見舞いされるかもしれない。


(気を付けないと、な)


 そう考えている間に、今度は砂毒猿が攻勢に出始める。


 手足を地面に着けたかと思うと、凄まじい瞬発力で跳躍し、こちらに飛び掛かってくる。


「フッ!」


 短く息を吐き出しながら、刀を上手く使い、砂毒猿をいなす。


「キィイイイイィッ!!」


 いなした後も今度はブレイクダンスのように縦横無尽な動きで、予測困難な蹴りをこちらに向かって放ってくる中、俺はギリギリ刀で蹴りを捌きつつ後退った。


 こちらが後手に回り始めてから、砂毒猿の攻撃に一気に弾みがついている。


 暴力的なパワーと機動力を活かした野性的な攻撃には、レベルアップによる身体能力の増強と魔術による底上げ程度では敵わない。


 武器を持っている分、こちらの一撃も砂毒猿を倒すのに不足はないが、調子に乗った砂毒猿を相手にするには使い手の技量が足りない。


「はぁっ!」


 近づくことのリスクを感じながらも、今までよりも少し前に出ていき刀を振るう。


 ただ、今回は今までよりもコンパクトで速い攻撃を意識して行う。


「キッ」


 速く無駄なく刀を振るっていくと、砂毒猿は今まで比べ大きく体を動かし、より距離を取るようにして躱したのである。


(これは)


 速くコンパクトにすることで砂毒猿の攻撃を捌きやすくするためだったのだが、それが思わぬほうに転がりそうだ。


 俺は今まで以上に距離を詰めると、振りの速さとコンパクトさを残しながら、次の動きへの間をできる限り無くしていくように攻撃を仕掛けていく。


 絶え間ない攻撃はこちらもスタミナを削るのだが、このモンスターを攻略するためであれば、選択することに抗いはない。


「キイィ」


 狙う場所はどこでもいい。


 腕でも足でも首でも腹でも、どこでもいいから兎に角手数を増やすことが目的だ。


 俺は砂毒猿に攻撃の隙を与えないように、短く速い攻撃を重ねていく。


 そうすると、最初こそ対応に問題はなかったが、徐々に砂毒猿の動きから雑さが出始め、俺が攻撃し砂毒猿が躱し時折こちらに攻撃するという均衡が崩れ始める。


『魔弾』


「キイッ!?」


 そうして均衡が崩れかけていく中、魔弾のような予想しづらい攻撃を与えていくことで、とうとう砂毒猿はぼろを出した。


 俺が放った魔弾を躱すことができず、完璧に貰ったのである。


(速く間のない攻撃が苦手だったのか)


 俺たち人間が動物の動きに慣れていないように、砂毒猿も人間の術理に慣れていない。


 そこが砂毒猿のウィークポイントだったようである。


「キイイイイィイ————!!!」


 砂毒猿が強引にこちらへと詰め寄りながら、大振りの攻撃を仕掛けてきた。


 強引な距離の潰し方で攻撃も大振りとなると、こちらから狙ってくださいと言っているようなものである。


 チャンスが来るのを待っていた俺としては、これを逃す手はない。


 俺は砂毒猿の攻撃を刀でいなし、続けて最短の動作で首に向かって突き出す。


 砂毒猿は無理にこちらに攻撃を仕掛けた結果、当然今までのように躱すことはできなかった。


「キッ!?」


 俺が放った突きが見事に決まり、刃が砂毒猿の喉を突き破った。


 さらに刀をねじるようにして引き抜き、


『魔弾』


 至近距離で砂毒猿の顔へと、魔弾を放つ。


 既に満身創痍の砂毒猿の顔に、魔弾はあっさりと命中した。


「キィ」


 くずおれるようにして倒れる砂毒猿。


「ふう」


 俺は少し溜まっていた空気を吐き出し、倒れた砂毒猿に視線を向ける。


 砂毒猿のこと切れた顔を見て、俺は砂毒猿に打ち勝ったことを確認するのであった。。




読んでいただき、ありがとうございます。

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