第七十二話
砂毒猿の体長を1.5メートルに変更いたしました。
内容を変更しています(6/20)
見慣れた光景を目にしながら、ダンジョン内を歩いていくと、視界に異形が映った。
「キキィ」
視線の先には、この階層を徘徊するモンスター、砂毒猿が二匹、悠然と立っている。
体長1.5メートルの猿型モンスターであり、白に若干紫がかった体毛、凶悪な顔立ちに肉を噛み千切る鋭い牙を持っている。
目はギラギラと光っており、距離が離れているにもかかわらず獰猛な息遣いがこちらまで聞こえてきた。
(戦うのか)
地獄のような訓練を経たことで今の俺は、意識して心を冷ますことできるようになっている。
刀を抜き呼吸を整えると、構えを取る。
砂毒猿と俺たちの距離は五メートル以上離れているが、ピリピリとした嫌な感じが体を若干強張らせた。
(何か狙っているな)
格上との訓練のおかげで、戦いに必要な感覚はだいぶ研ぎ澄まされている。
というか、感覚を研ぎ澄ませなければ数秒と持たないので、そうした感覚を半ば強制的に身につけさせられていた。
(技量はまだまだ、だがな!)
「キィイ!」
一匹の砂毒猿が化け物じみた脚力をもって、一瞬のうちに距離を潰してきた。
途端、乱暴な動きで振るわれた尾が、毒をまき散らしてくる。
辛うじて目で追えた砂毒猿の動きに反応しバックステップで避けることに成功した。
砂毒猿にしっかりと視線を合わせたまま、前に出ようとした次の瞬間、横で炸裂音がした。
「・・・」
音のした方に視線を一瞬向ける。
ヴァルの首を簡単にへし折ってしまうかと思われた砂毒猿の尾は、ヴァルの構えた盾によって完璧に受け止められていた。
ヴァルの近接における戦闘能力は俺を大きく引き離した領域にいる。
単純な身体能力も、魔術によって強化を施したところで追いつけないし、その戦闘スキルは最早達人の領域に足を踏み入れていた。
「っ!」
そんなヴァルが剣を振るうが、砂毒猿はその高い俊敏性を遺憾なく発揮すると攻撃を躱した。
「伊藤さん、もう一体の方を」
ヴァルの方から視線をずらし、先ほど攻撃を仕掛けてきた砂毒猿の方へと視線を向ける。
「・・・」
ぎょろりとした二つの赤い目が、俺を見ていた。
突然、砂毒猿の体が大きく膨張する。
「あぶなっ」
ドンッという炸裂音とともに、あっという間に距離を詰めてくると、体に生えている長い尾を振り、触れると麻痺してしまう毒を振りまいてきた。
魔術で身体能力を強化することで、筋力を大きく高めるとバックステップをする。
速く重い一撃をギリギリのタイミングで躱すことに成功する。
(危ない危ない)
動揺を顔に出さないようにしながら、俺は軽く斬りつけようとしたが、距離が離れているため普通に届かなかった。
こちらに突っ込んでくれれば、刀がクリーンヒットしたのだが、そうは上手くいかないようである。
(毒にも警戒しなくちゃな)
砂毒猿を倒す上で、毒はかなり警戒しなければならない。
魔術は人間に使える術が良くも悪くも豊富であるため、解毒する魔術もあるにはあるが、不安がつき纏う。
(前に出過ぎていたかもしれない)
近い間合いで戦い過ぎていたことを反省しながら、刀を再び構えると砂毒猿との間合いを維持する。
身体能力を魔術で上げたまま、今度は結界で全身を覆う。
こうすることで、砂毒猿の毒を防ぐことができるだろう。
『魔弾』
俺は砂毒猿に向かって、半透明の弾丸を撃ち込む。
目にもとまらぬ速さで射出された魔弾は、しかし、砂毒猿には躱されてしまった。
(これを躱すのか)
完全には躱しきれていないようで、砂毒猿の皮膚を掠ってはいるが、ダメージは与えられていない。
リビングアーマー戦に比べ、今回はMPを多めに使い速さを上げたのだが、砂毒猿相手には普通に躱されるようである。
(こりゃあ、本腰入れてやらなきゃダメだな)
想像以上の強敵ぶりに警戒度を一段階引き上げる。
俺は砂毒猿に視線を合わせ、あらためて表情を引き締めるのであった。
読んでいただき、ありがとうございます。




