第六十七話
お久しぶりです。
「伊藤さん、大丈夫ですか?」
東雲が心配した様子でこちらに駆け寄ってくる。
身体にダメージはあるが、大きな異常はない。
俺は片手を上げ、東雲に無事であることを伝えた。
「ああ、なんとかな」
「良かったです」
ほっと胸をなでおろした様子の東雲。
リビングアーマーの剣がダイレクトに当たっていたからな。
俺が東雲の立場だったら、さぞ焦っていただろう。
(いやぁ、でも最後の一撃は危なかった)
最後の一撃はだいぶ危なかったが、リビングアーマーの剣は薄い特殊な布で何重にも重ねられたジャージによって阻まれており、怪我と言っても精々打撲程度だったのが幸いだ。
ジャージも割と切り込まれているし、下手すれば大けがをしていたかもしれない。
(それにしても、疲れた~)
外傷はほとんどないものの、命のやり取りを直でした疲労感はかなりのもので、かなりの怠さが体を覆っている。
俺はもたれかかっていたリビングアーマーの身体をどかし、どかりと地面に腰を下ろした。
(流石に動かないよな)
しっかりと止めが刺されていたのか、リビングアーマーの身体がピクリとも動く様子はない。
だが、相手はモンスターであり、人間とは大きく違う生命体。
急に息を吹き返してもおかしくはないと、俺の中にある恐怖心がそんな妄想を搔き立てる。
(ま、大丈夫か)
ここで生き返りでもされたら、極光を使って確実に倒す。
リスク度外視で倒すことを考えてしまうほど、今の俺は精神的にも肉体的にも疲れていた。
「伊藤さん、今日の戦いはどうでしたか?」
俺がダンジョンの地面でゆっくりと気を落ち着けていると、東雲が隣に座り、今日の戦いの感想を求めてくる。
「見れば分かると思うが、しんどい」
現状ではこのレベルの敵を近い間合いで相手をするのは、厳しい。
レベルが上がって体力がついても、精神的な疲労をひしひしと感じてしまう。
もともと敵の攻撃が届かない範囲でばかり戦っていたし、ヴァルの時もそうだったが、それなりの実力を持ったモンスター相手に攻撃が当たる距離で戦うのは精神的な疲れがとてつもなく大きい。
魔法とかで攻撃されるのも確かに嫌ではあるが、魔術の知識が埋め込まれているため、予想がしやすいが、剣や槍などの近接武器を主体にしたモンスターは予想がしにくくやりづらい。
「最初はそんなものだと思いますが」
東雲の意見は尤もなのだろうが、年だからな。
元からガツガツした方ではなかったが、四十を迎えてそれが更に顕著になった。
俺は身体についた汚れを払うと立ち上がり、斃れたリビングアーマーを見下ろした。
(所詮は俺もこの程度か)
魔術の効果に頼ってもまだまだこの程度の実力しかない。
リビングアーマーはそこそこな強さを持つモンスターだが、もっと強力なモンスターなんて数えるのも馬鹿らしくなるほどにたくさん存在している。
まだ何とも言えないが、剣一本でそんな怪物たちと渡り合えるようなビジョンは浮かんでこない。
「慣れればだいぶ楽にさばけるようになると思いますよ。剣捌きを見る限りポテンシャルはありますから」
「そうかぁ?」
随分と嬉しいことを言ってくれるが、危ない目に遭った直後なので、どうにも信じがたい。
ヴァルも意味を知ってか知らぬかは分からないが、何度も頷いているので、信じたいところではあるが。
(慣れかぁ)
そうなればいいんだけどな。
正直剣の才能はあまりないと思うが、戦うこと自体は男として魅力に感じることも多い。
熱く滾るような戦い自体には、男として憧れる部分はある。
(猛烈にしんどいが)
俺は苦笑交じりにそんなことを思いながら、溜まりに溜まった息を吐きだすのであった。
読んでいただき、ありがとうございます。
数日前まで頭痛でキーボードを打つこともままならず、執筆活動自体が滞り気味でした。
そのため更新の間隔がだいぶ空いてしまったことを、お詫び申し上げます。
かなりの間隔が空いたにもかかわらず、引き続きこの作品に付き合っていただいているに感謝の念が堪えません。
本当にありがとうございます。
これからも投稿を続けていきますので、この作品をよろしくお願いいたします。




