表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

66/149

第六十五話

 


 第十層がミノタウロス、第十一層はミニドラゴン。


 どちらも低レベルの状態では、スキルを持たない人間では碌に戦うこともできずに、やられてしまうだろう。


 勿論、この第十二層のモンスターも例に漏れず、油断はできない危険なモンスターが徘徊している。


(リビングアーマー、かあ)


 第十二層のモンスターはリビングアーマーというモンスターで、その正体は中身のない動く鎧だ。


(ただ動くだけの鎧だったらなんてことはないんだが)


 ある程度レベルが上がり、身体能力もその分上がった今、ただ動くだけの存在ならそこまで苦労することもない。


 しかし、リビングアーマーは第十二層を徘徊するモンスターである。


 この動く鎧は、中級の探索者にも引けを取らない実力を保持したモンスターであった。


 鎧の中は空洞になっているにもかかわらず、膂力は人間のそれを遥かに越えており、盾や剣など武器類の扱いも熟練の領域にいる。


(正直、それでもミノタウロスよりはマシなんだよな)


 ミノタウロスに比べて体のサイズの違いなどもあり、若干ではあるがリビングアーマーの戦闘力は劣る。


 攻略法として遠距離から攻撃を仕掛けることが推奨されており、その手段を取っていれば、比較的容易に倒すことができるモンスターだ。


 ただ、それができれば簡単に倒すことができるが、真っ向から近距離での白兵戦を望めば苦戦は必至のモンスターである。


(そんなモンスターがいい練習相手になるのか)


 昔の訓練で基礎を多少身に着けているが、最近の訓練も含め剣術はまだまだひよっこに過ぎない俺にとって、リビングアーマーは些か荷が重いような気がする。


 さらに、今回の戦いでは遠距離の魔術は使用禁止だと言われてしまった。


(極光とかを使えば、瞬殺だからな)


 流石に魔術が使えなかったら、こんなところには来ていないが、何とかなるだろう。


(リビングアーマーのお出ましか)


 第十二層を歩き回っていると、ガチャガチャと鉄同士のぶつかる音を響かせたリビングアーマーが登場する。


 ここではリビングアーマーに背後を取られることはまずないので、特に気配に気を配らなくていいのは楽でいい。


(本当に鎧だけなんだな)


 リビングアーマーの姿に目を向けると、その姿は黒一色の鎧そのものであり、半身の体勢で剣を突き出しながら盾で体を隠すオーソドックスな構えをしている。


 まさに決闘前の騎士といった風貌だ。


(視覚もあるっぽいな)


 中身がなく目どころか顔すら見受けられないが、俺のことをしっかりと認識しているようである。


 俺が刀に手を添えるとリビングアーマーは武器を構えながら、こちらへとにじり寄ってきた。


「頑張ってください」


「———」


 東雲の声援とヴァルのジェスチャーを背に、俺はゆっくりと前に出る。


(汗が)


 だいたい百八十五センチ程度だろうか。


 リビングアーマーのサイズはミノタウロスよりも小柄だが、俺よりもだいぶ大きく見え、かなりの威圧感がある。


 雰囲気からも只者ではないものを纏っており、俺は服の下でぐっしょりと汗をかいていた。


(ワイバーンに比べればマシだ)


 それでも、今まで出会った中でも圧倒的に最強のモンスターであるワイバーンと比べると、リビングアーマーは大した存在でないと理解できる。


 そうして俺は心を落ち着けると、腰に差している刀を抜き放った。


「ふう」


 軽く息を吐きながら刀を構え、いつでも踏み込める体勢を整える。


 戦意が身体からにじみ出てくるようなイメージで戦いに頭を切り替えると、俺のぎらついた瞳がリビングアーマーに向けられた。


 じりじりと距離を詰めながら、ふと俺とリビングアーマーは互いに刃が届かない間合いで立ち止まった。


 一歩前に出れば、死ぬかもしれない距離。


 死が近くにあるのを漠然とだが、感じる。


 今までの会社勤めをしていた頃の俺であれば脇目も振らずに逃げ出したことだろう。


 相手の方がデカいが、刀のサイズがカバーしてくれているので、俺が当たる距離では相手も当たり、相手が当たる時にはこちらも当てられる。


(距離はフェアだ)


 魔力放出をしていた頃を思い出しながら、意識を研ぎ澄ましリビングアーマーの出方を窺う。


「———」


 リビングアーマーはこちらを確実に認識しながらも、動こうとはしない。


 向こうも間合いについてはある程度理解していそうな感じであった。


(厄介だな)


 技量はおそらく俺よりも高い。


 膠着状態が続いたところで、いずれは倒さなくてはならない。


 俺は意識的に身体を僅かに反らし、大胆な隙を作る。


「———!」


 そして、リビングアーマーはその隙にあっさりと引っかかった。


 じりっと、リビングアーマーが一歩前に出そうになった瞬間、俺は刀を振るうのではなく、魔術を発動する。


『魔弾』と呼ばれる半透明なエネルギーの弾丸をリビングアーマー目掛けて放った。


「!?」


 予期せぬ攻撃にリビングアーマーは対処できず魔弾をもろに受けた。


 俺はその隙を逃すことなく刀を振るい、リビングアーマーを斬りつけにいく。


「—————!!!」


 リビングアーマーがおぞましい叫び声をあげると、切り口から黒い靄のようなものが溢れ出した。


 それはやがて霧散し、見えなくなる。


(あれが、リビングアーマーの靄か)


 リビングアーマーを倒すには首を斬り飛ばすか、あのように出てきた黒い靄を全て空気中に吐き出させる必要がある。


 普通に斬りつけても黒い靄によって鎧を修復されてしまい、直ぐに元の状態に戻されてしまうのだが、その度に黒い靄を消費するらしく、ある程度深い切り傷を付ければ倒すことできるそうだ。


(警戒したか)


 今の攻防で俺がある程度距離を取っても攻撃できることがばれてしまい、リビングアーマーの構え方も盾を突き出すような構えに変化していた。


(やりますか)


 俺はリビングアーマーを睨みつけながら、目の前の敵に視線を合わせるのであった。





読んでいただき、ありがとうございます。

これからも投稿を続けていきますので、この作品をよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ