第六十四話
あれから一週間程度の時間が経ち、ミニドラゴン狩りにもマンネリ化が起き始めた頃であった。
「そろそろ、次の層に行ってみませんか?」
東雲が提案してきたのは、狩場を次の層へと移さないかという打診。
それもいいが、俺としては正直賛成しがたい提案だった。
「悪くはないと思うんだが、ここでも十分稼げるしレベルも上げやすいから、このまま十一層でミニドラゴンを狩ってもいい気がするが」
第十一層という環境にもだいぶ慣れてきて、ヴァルとの連携は勿論よくなっている上に、レベルが上がることで個としての強さが上がったため、俺たち二人はミニドラゴンを何もさせることなくほぼ一瞬で仕留めることができるようになっていた。
単純作業のようなものなので飽きてきてはいたが、ここでの稼ぎとレベルアップの効率の良さはかなりのものであり、こういった安全性と効率の観点から、このままでいいように感じていたし、まだ身体がレベルアップしてから慣れていない。
そんな理由もあって、ここでだらだらとだが慣らしながら、稼いでいこうと思っていたのだが、東雲はそうは思っていないらしい。
「確かに楽に稼ぐことはできますが、実力を上げるにはそろそろ次の層に行くべきだと思います」
「実力ねえ・・・レベルアップだけではダメなのか?」
刀の訓練とか、適性があれば他の武器術を練習してもいいのかもしれないが、安全にレベルアップするのが、最善の選択のように思っている。
正直、レベルが高ければ敵が強かろうと何とでもなるからな。
実際レベルアップの効果は凄いと言う他ない。
身体能力は以前とは比べ物にならないほどに上昇し、感覚もより鋭くなっている。
俺が思っていることを伝えると、東雲は顔を顰め口を開いた。
「レベルアップは強くなるのに最も重要な要素です。レベルが高くなければ強いモンスターにも勝てませんから」
「だろ?しかもミニドラゴンを相手取った戦いだって動きは洗練されていくから、問題ない筈だ」
「伊藤さんの言いたいことも分かりますが、それでは癖がついてしまい、いずれ苦労することになります」
「癖?」
「はい、あまりにも格下相手ばかり相手にしていると、戦い方の癖がついてしまって、強敵を相手にした時に上手く戦えなくなってしまうんです」
はあ、そうなのか。
まあ、確かに、そう言われてみれば、そうかもしれない。
慣れてしまえば、その慣れた環境では強いが、慣れ過ぎてその環境が当たり前になると、逆に不慣れな環境では適応しづらくなるのはイメージできる。
「俺の場合、ワイバーン相手にも善戦できてたと思うが」
「伊藤さんはスキルが強力過ぎて色々な過程を省くことができますが、経験がまだ浅すぎるんです」
正直、それに関しては反論の余地がないな。
ダンジョン探策を始めて、まだ一か月程度の新米だのだから。
「最高位の探索者たちはスキルでねじ伏せるなんてことはよくやっているんですが、それは高レベルになってからがほとんどです。技術を磨くことも視野に入れると、そろそろ敵のレベルを上げた方が良い頃合いかと」
う~ん、一理あるし、東雲とは付き合いもあるしな。
色々謎が多いけど。
「分かった。十二層に狩場を移す。それでいいか
飽きてきたのも事実だしな。
というか、むしろそれが本音・・・経験を積むために次の層に行くのは間違いではないだろう。
うん、経験のため、次の層へ進もう!
「ということでこれからは白兵戦をしていきましょう。第十二層はいい練習になると思います」
刀を使うのはあまり得意ではないが、身体能力を魔術で強化すれば何とかなるだろう。
こうして俺たちはミニドラゴンのいる第十一層とは別れを告げ、次の第十二層へと向かうのであった。
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