第六十三話
素材の売却を終え、何とか家に帰ることができた俺はそのままだらけるのではなく、ある素材の調理を行っていた。
「鮮度抜群のワイバーンの肉はどんなものなんだろうな」
そう、俺が大好きなワイバーンのステーキを作っていたのだ。
(いやあ、まさか『アイテムバッグ』を持っていたとはな)
東雲は探索用にダンジョンから採れるアイテム、アイテムバッグを持っていた。
アイテムバッグには拡張機能の付いたもの、自動的に中を乾燥した状態にさせるものなど、様々な効果が付与されている。
その効果はランダムで、全く有用でない効果が一つだけついているものから、効果が複数ついているものまである。
東雲が持っていたのは中が冷蔵庫のように冷たくなっている上、拡張機能の付いたもので、あまり見ないレアなタイプのアイテムバッグだ。
(他にも持っているらしいからな・・・恐ろしい)
アイテムバッグはそこそこな頻度でダンジョン内から見つけられるが、使えるモノはかなりの値段がする。
俺が貸してもらっているタイプは一千万ぐらいするんじゃなかったか。
そんなものをホイホイと貸せるのだから、相当な財力があるのだろう。
(俺も金持ちには成れそうだけどな)
このまま探索を続けていけば、いつかは大金持ちにも成れるだろう。
「っと、焼けたな」
ワイバーンの肉にいい感じに火が通ったのを確認すると、皿に付け合わせと一緒に盛り付ける。
飲み物は洒落て赤ワインにすることにした。
食べる準備を終えると、俺は座って両手を合わせる。
「いただきます」
しっかりと感謝の念を込めた後、ワイバーンのステーキをナイフとフォークを使って切り分ける。
(いつもより若干硬さがあるな)
天然ものだからか、肉に少々硬さがある。
切り分けたステーキを口に運ぶと、そのうまさに卒倒しそうになった。
(これは・・・凄いな)
普段食べていた肉も美味かったが、このワイバーンの肉はまた格別だ。
肉としての旨味が普段のものよりも数段上だ。
程よい硬さも肉自体の旨味を味わうにはいいアクセントになっている。
俺はグラスについだワインに一口、口をつける。
(これもいいな)
魔力量を上げていた時にたまに外に出ていろいろ買っていたのだが、その時に高めワインに手を出していた。
鼻を抜ける香りもよく、味もいい。
ワイバーンのステーキにあっていた。
(最高だな)
探索は大変だが、このように日常に帰った時の心地よさは格別だ。
「ヴァル、魔力をあげるからこっちへ来い」
俺の言葉を聞くと、ヴァルは直ぐに隣にやってきて、魔力をねだる。
俺は手のひらをヴァルの肌に当て、魔力をその身体に送り込んだ。
(肌が柔らかくなっているな)
おそらくヴァルはレベルが上がり、より高次の存在になっていくほどに人に近づいていくのだろう。
よく見れば顔も少しづつ人間のそれに近くなってきている。
(人程度の存在で終わるかどうかは分からないが)
モンスターは未だに謎が多い。
彼女がどのような姿へと至るのかは、俺程度の人間には予想すらできない。
「本当に生きていてよかった」
死んでしまえばお終いだ。
全てが無に帰してしまうから。
(少し緩い気もするが、このぐらいの調子がいいのだろう)
いざという時にしっかりと動けなければ、どこまで神経をとがらせていても意味を成さない。
そんな風になるぐらいなら、ほどよい緊張を持つぐらいがちょうどいいのだと、今の俺は感じていた。
(これからどうなっていくのか俺には分からないが、とりあえずは頑張っていくかな)
俺は急激に変化したこの一か月を懐古しながら、のんびりとした時間の流れを楽しむのだった。
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