第五十八話
凄まじい威力の雷撃に、ワイバーンは断末魔を叫ぶことなく地に伏した。
火力は下手すれば『極光』よりも高い『神ノ雷杭』。
魔力量の関係上再現度は低いが、『神ノ雷杭』はワイバーンを倒す分には申し分ない威力を発揮したのである。
(ふう、緊張した)
本気で戦う時はこうして調子に乗らないとやってられない。
自分が弱いと思って全力で戦えるはずがないからな。
心に隙があると、いざという時に尻込みをしてしまうし、そこを見抜かれてしまえばおしまいだろう。
普段の敵であればそれでも魔術という規格外のスキルのおかげで問題ないが、現在のような半端な実力でワイバーンクラスの敵に当たってしまうと、俺一人では負けが確定するだろう。
(それにしても、身体からエネルギーが溢れ出てくるような気がするな)
ワイバーンを倒してレベルが上がったにしても、力が溢れすぎな気がする。
ここまで生物として強くなったという確信を持ったのは初めてで、まるで別人になったような感じがしていた。
(ああ、そうか、レベル50に到達したのか)
元々ハイペースでモンスターを狩っていたのもあるが、ミノタウロスを倒していて、ミニドラゴンは倒した数はかなりのものだ。
その上、ワイバーンという中堅最上位にあたるモンスターを狩れば、低レベルであった俺のレベルは爆発的に上がる。
(これで俺も探索者の仲間入りか)
レベル50になるまでは探索者であって探索者でないと言われている。
これは強さの桁が変わるからであり、レベル50は人間を辞め始める一歩目なのだ。
「カッコ良かったですよ、伊藤さん」
俺が一人探索者として成長している喜びに打ち震えていると、東雲さんが喜色を露にしながら褒めてきた。
その言葉に思わずデレっとしそうになるが、口元をキュッと引き締める。
そうでないと格好がつかないからであった。
(いい年のおっさんが、デレデレとして恥ずかしいが・・・まあ仕方ないか)
俺も四十とはいえ、男だからな。
見惚れる程の美貌を持っている若い女性に、そう言ってもらえるのは男として正直嬉しい。
「そうか?別に強力な魔法を撃っただけだが」
ちょっとカッコつけすぎかとも思ったが、東雲は苦笑いを浮かべるわけでもなく、グイっとこちらに近づいてきて、興奮を露にしながら褒めることを止めなかった。
「いえいえ、戦う時の気持ちの入り方とその闘志がカッコ良かったんですよ。特に魔法を撃つ前の気迫は凄かったです」
少し顔を赤くして、明らかに興奮した様子で喋る東雲。
「そうだったか」
グイグイ来る東雲に思わず一歩下がってしまった。
(流石にここまでグイグイ来られるとこっちもびびってしまうんだが)
想定外の接近に俺も上手く対応ができない。
俺の戸惑っている様子に気づいたのか、東雲は口を閉じ一度咳払いをする。
「すみません。少し興奮してしまって」
「好みは人それぞれだからな、うん」
恐らく、東雲は俺のことを好いていると思っているのだろうが、それは恋心としての好きとは別物で、心の穴を埋めるのに俺があてがわれた。
そんなところだろうか?
(彼女の場合は育てられ方とかも理由っぽいが)
ゴブリンとか無理やり戦わされる環境なんかに身を置けば、色々と擦れてしまうものもあるんだろう。
心が多少、歪んでしまっても仕方あるまい。
「そういえば、アイテムが何だったか、まだ見てなかったよな」
ワイバーンは倒したが、アイテムは確認していなかった。
俺は宝箱のある場所まで歩こうとしたが、エネルギーはあるのだが、疲労感から身体を動かすのが億劫だ。
そんなことを思っているのが伝わったのか、キビキビとした動作でヴァルが宝箱を俺の手元まで持ってきてくれた。
「サンキュー、ヴァル」
「・・・」
俺がヴァルに礼を言うと、彼女は片手を上げてサムズアップした。
俺はその反応に苦笑しながら、宝箱を地面に置いて開け始める。
特に罠などはなく、すんなりと開けられた。
(これは・・・卵?)
俺が宝箱の中には青い殻に覆われた大きめの卵が置いてあった。
「これはモンスターの卵でしょうか?」
東雲も初めて見るのか、興味深そうに卵を見つめている。
「おっ罅が」
俺たちが眺めていると、卵にいきなり罅が入った。
その罅は徐々に卵全体に広がり、殻が割れる。
(ドラゴンか?)
卵の中から出てきたのは、青い鱗を持った可愛らしい赤ちゃんドラゴンであった。
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