第五十七話
魔術は威力の面において、魔法よりも劣ってしまう。
それはスキルによって知識を付与された俺にとっての常識だ。
しかしそれは、同じレベルの魔法と魔術を比べた場合の話であり、比較となる魔法より高位の術を使ってしまえば、当然のことながら威力の差異は関係なくなる。
人間の魔力量はそこまで多くないので、余程レベルを上げない限りは魔力量が化け物じみたものになることはない。
そのため、消費魔力のコントロールができない魔法では、そこまで強力なモノを使うことができない。
要するに魔法使いは雑魚ということだ。
ということはだ、魔力を抑えられ、無数の魔術を使いこなせる俺は、魔法使いの比にならないレベルで敵なしだと言えるはずだ。
(それにレベルも上がっているしな)
探索を再開し始めた当初はレベル10だった俺も、レベル30~40の間ぐらいにはなっているだろう。
まだレベル50の壁を越えてはいないが、それでも魔力量はだいぶ上昇していた。
(であるならば、必然的に使える魔術の幅も増える)
極光が今まで最強の魔術であったが、それに新しい魔術を加えられるのだ。
俺はヴァルと戦った時とは桁が違う程に強くなっているだろう。
そう考えるだけで、アドレナリンが大量に分泌される。
「お前を倒すぞ、ワイバーン」
俺には普段、制約が多い。
あまりに強力な魔術も人を寄せ付けかねないし、偽装するにも魔力が必要で、ダンジョン内では不用意には撃てないからだ。
(見せびらかしても意味ないしな)
強いスキルを見せびらかすように使って、人からの羨望の眼差しは気持ちいいのかもしれないが、その対価が自由であれば、全くもって必要ない。
(地位が上がっても、逆にがんじがらめになるだけだ)
地位が上がれば、自由を奪われる。
人の世の常識だ。
(圧倒的なナンバーワンになれば話は別なのだろうが)
探索者としてナンバーワンになるのはそんな簡単な話ではない。
俺が化け物と目している東雲も本人によれば日本で五十番目程度らしい。
じゃあ、アジアでは、世界では、何番目なのか?
(日本での順位よりも下のなのは間違いない)
可憐でありながら、悪鬼羅刹のような強さを秘めた少女。
そんな彼女よりも強い者がごまんといるのだ。
そうそうナンバーワンにはなれまい。
だから俺はまだ臆病でいなくてはならなかった。
自由を維持するためにはな。
(だが、今の状況であれば話は別だ)
今の状況は制約がないに等しい。
この閉鎖された空間では、他人は見ていないからだ。
東雲が見てはいるが、恐らく害は及ぼさないだろう。
(害を及ぼしてくるならとっくにしているだろうしな)
敵に回るなら戦うだけだ。
そうならないよう、願ってはいるがな。
兎に角、今の俺は何も気にしなくていい。
社会も周りも何もかも。
「ヴァル、下がれ」
ヴァルに命令すると、彼女はすぐさま俺の後ろに下がった。
「知ってはいましたが・・・これほどですか」
東雲が何か言っているが、気にならない。
俺は今、最強の魔術師だ。
誰にも負けることはない。
そう、最強。
俺は最強だ。
ワイバーンすら容易く屠る、最強の魔術師だ。
(その片鱗を味あわせてやろう)
俺の身体から溢れ出た魔力が全て手のひらに集まり、球状に圧縮され、濃密なエネルギーへと変化されていく。
それを見たワイバーンは異様な雰囲気と魔力を脅威として感じ取ったのか、ようやく視線を俺の方へと向けた
(既に遅い)
『神ノ雷杭』
圧縮された魔力が一瞬にして一筋の雷となり、ワイバーンのバリアごとその身体を貫いた。
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