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第五十六話

 


 ワイバーンと相まみえた俺たちであったが、逼迫した空気が部屋を包んでいるものの、互いににらみ合いが続いていた。


(凄いな)


 四十を迎えていた俺が思わず童心に帰ってしまいたくなるほどに、目の前に立つワイバーンの姿はカッコ良く、そして同じ生物として恐ろしいとも感じていた。


 檻越しにその存在を見たことはあったが、その記憶が霞むほどにこのワイバーンは強烈なオーラを纏っていた。


 それもそのはず、モンスターは生きた状態でダンジョンの外に出した場合、体内にある魔核が消滅してしまうのだ。


 モンスターはダンジョンの外に出た後、身体の構造が普通の動物などと近い構造になり別の生物として生命を維持するか、存在そのものが消滅してしまう性質を持っていた。


 例外としてテイムのスキルや俺のように魔術で従属させることで、モンスターとしての機能を維持して使役することができるが、テイムのスキルを持っている者は少なく、俺のような魔術なんてスキルを持っている奴なんてもっといないため、外でその姿を見る機会はほとんどない。


 そのため、外で見ることができるモンスターは、モンスターとしての姿を失った状態が常であり、強さや風格が違ってくる。


 ただデカいだけの蜥蜴と、凶悪な見た目をしたドラゴン、目を惹くのがどちらかなど、考えるべくもない。


「伊藤さん、そろそろ来ます」


 ワイバーンに魅了されていた俺であったが、東雲の固い声が耳に入ると、気を引き締め直し、意識を戦いのモノへと切り替えていく。


(やるか)


「グヴァ」


 それが合図となったのか、ワイバーンがずらりと並んだ牙を見せつけるように巨大な口をがばりと開けると、宙に炎の球が形成される。


 最初はミニドラゴンの放つ炎よりも小さく弱々しいモノだったが、次第に炎は大きくなっていくと、直径一メートルほどの巨大な炎の塊ができあがった。


 轟々と燃える炎の塊に、汗を一筋流す


 炎が生み出すあまりの熱量に俺は危機感を募らせていた。


(これはダメだな)


 この攻撃だけは何としても回避しなくてはならない。


「グワアアッ!」


「避けろ!」


 膨れ上がった巨大な炎の塊が発射されるとともに、皆一斉に回避する行動に出た。


 全員に避けられた炎の球はダンジョンの壁にぶつかり、霧散するかと思われたがその壁を溶かしてた。


(なんていう威力だ)


 あの炎の球が身体に直撃してしまえば、俺は全身火だるまになるどころか、跡形もなくなって死んでしまうだろう。


 絶対受けてはいけない即死級の攻撃だ。


『雷撃』


 今度はこちらの攻撃の番である。


 俺の元から一筋の雷がワイバーンを貫かんと放たれた。


(どうなるか)


 普通に有効なのか、はたまたミノタウロスみたいに効きづらいのか。


 結果はそのどちらでもなく、ワイバーンの身体に届く前にあっさりと霧散してしまうのだった。


 予想だにしなかった光景に俺が唖然としていると、東雲の声が耳に響いた。


「伊藤さん!このワイバーンは一定レベルの魔法を無効化するバリアを張ってます!なので、今までのような低位の魔法は効きません!」


 マジか。


 俺はバリアがどんなものかを把握するため、魔力眼と呼ばれる魔術を発動する。


 魔力眼は、字のごとく魔力を可視化する魔術であり、本来は視認することが難しい魔力を視認することができる。


 魔力眼によって魔力が見えるようになった俺の目には、ワイバーンの周りに薄い膜が張ってあるのがしっかりと映っていた。


(ワイバーン、格が違うな)


 ミノタウロスの比ではない。


 魔術を無効化する手段に、強力な炎による攻撃、近づけば鋭い牙と尻尾による攻撃が飛んでくるのだ。


 どの攻撃も即死級な上、攻撃の有効範囲が広いため、戦いづらい。


 今まで遭ったモンスターの中でも頭一つ分抜けた強さをしていることが理解できた。


「グヴアァアアァ―――!!!!!!!」


 ワイバーンが再び、炎の球を撃ってくる。


 今度は小さいサイズのものを断続的に放ってきており、避けづらい。


 最初のはバズーカ砲、今度のはさしずめマシンガンと言ったところか。


(少しレベルの高い魔術を使いたいが)


 魔術を使って攻撃したためか、ワイバーンの意識は俺に向かっている。


 そのため、俺を狙って炎の塊が放たれており、回避に専念せざるを得ない状況に立たされていた。


(しくじった)


 何度も炎による攻撃を回避したものの、うっかり躱しそこねてしまった俺の目の前に、炎の球が迫ってきていた。


 俺は辛うじて結界を張り、なんとかその炎を防いだが、ワイバーンが放った他の炎の球が再び俺を襲う。


「ヴァル!」


 無数の炎が迫ってきていたが、ヴァルが俺の前に飛び出ると、盾を使って炎から守ってくれていた。


 盾に弾かれた炎が地面に当たり、土を溶かすことなく霧散する。


「グワァ」


 攻撃を防いだためか、ワイバーンのギラついた瞳がヴァルの方へと向けられる。


 ワイバーンの意識が俺の方からヴァルの方へと逸れていったのが分かった。


「伊藤さん、今です」


 俺はチャンスをものにするため、今まで使ったことのなかった、とある魔術を発動するのであった。



読んでいただき、ありがとうございます。

総合評価が40000ptを超えました!

皆様の応援のおかげで、ここまで来ることができました。

ありがとうございます!

これからも投稿を続けていきますので、この作品をよろしくお願いいたします。

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