第五十五話
こうしてミニドラゴンを倒しながらアイテム捜索をすることが決定したわけであるが、当然のことながら宝箱のある小部屋がそうそう見つかるはずもない。
(簡単に見つけられるのなら、とっくに見つけているか)
俺はダンジョン探索を再開して五日ほど経っているが、今までに小部屋を見たことは一度もない。
もしかしたら、モンスターを倒すことに夢中で気が付かなかっただけなのかもしれないが、それにしても一切見かけないということは余程出現率が低いのか、はたまた運が悪いだけなのか。
(そういえば、運気を上げる魔術なんてものもあったな)
魔力消費が雷撃よりもだいぶ多い割に、そこまで効果が高くないので、今のレベルで使うつもりはないが。
「またミニドラゴンか」
二体のミニドラゴンが現れる。
この十一層にはミニドラゴンしか出てこないので当然ではあるが、少し憂鬱である。
最初は剥ぎ取れる素材が高額なため、金銀財宝そのものに見えていたが、アイテムのことが頭にあると、見つけても残念な気持ちにしかならない。
「ヴァル行くぞ」
ヴァルと共にミニドラゴンとの戦闘を開始する。
ミニドラゴンを相手にするときは基本的に俺とヴァルで戦うことになっていた。
東雲はいざという時に手助けするぐらいで、基本的には戦闘に参加することはない。
東雲ではオーバーキルになってしまうのもあるが、俺とヴァルの連携も良くなってきているので、そのような戦い方であっても問題ないというのが、一番の理由である。
それに東雲も黙って眺めているだけではない、
「伊藤さん、モンスターとの距離が少し近いです」
時折、俺とヴァルに戦闘の指示を出してくれているので、彼女は彼女でしっかりと仕事をしている。
流石は日本で五十番目に強いと自負するだけあって、俺みたいな戦闘の素人でも取れるレベルでありながら、適切な指示ばかりなので、戦っている身としては非常に助かっていた。
(よし、あと一体)
ヴァルが事もなげに一体のミニドラゴンを倒したため、残り一体となった。
(間違いなく強くなってきているな)
俺の近接戦闘の技術はあまり伸びないが、俺とヴァルもミニドラゴンとの戦闘を繰り返しているためか、かなりレベルが上がっている。
ミニドラゴンは第十一層のモンスターであることもあって、経験値の入りも良いためだ。
「キシャア」
残り一体となったミニドラゴンが形勢が不利と見たのか、逃走を始める。
「は?」
今までにはない行動に、俺とヴァルはワンテンポ行動が遅れてしまう。
「ヴァル、追いかけるぞ!」
あわてて俺たちはミニドラゴンを追いかけるが、流石は第十一層のモンスター、かなりの速さで飛んでいるため、俺と重装備のヴァルではなかなか追いつけない。
東雲も命の危機ではない時は、手助けしないのか、こちらとスピードを合わせてついてきている。
(身体能力を強化する魔術を使えればいいんだが)
本音を言えば、今すぐにでも魔術を使いたいところだが、ミニドラゴンの速さがかなりのものであるのと、俺だけ先行して前のように危なくなっては事なので、おいそれと使うことができない。
それから五分ほどミニドラゴンと追いかけっこをしていると、途中でアイテムがあるとされる小部屋を発見した。
俺は思わぬ発見に足を止めてしまう。
「やっと見つけ「キシャアアアア!」あ」
俺が小部屋の前で立ち止まっているのをチャンスと見たのか、ミニドラゴンは今までよりも更に速いスピードでダンジョンの奥へと逃げ去っていった。
「しまった」
あれほどの速さでは流石に追いつけない。
完璧に取り逃がしてしまった。
「大丈夫ですよ、伊藤さん。ミニドラゴンはたくさん狩れますから、今は小部屋を発見したことを喜びましょう」
「それもそうだな」
東雲の優しさが心に染みる。
「はい、それでは早速中に入ってみましょうか」
俺たちが扉を開け小部屋の中に入って見ると、部屋の中央に灰色の宝箱が置いてあるのが分かった。
おそらくアレが宝箱なんだろう。
(何が入っているんだろうな)
俺は宝箱のもとに行き、中を見るために開けようとしたのだが、宝箱に触れた瞬間にカチッという音が鳴り響くと、扉が閉まってしまう。
「えっ」
それが合図だったのか部屋がどんどん広がっていき、小規模のホール並みの広さになると、部屋の奥の地面が輝きだした。
よく見るとそこには魔法陣があり、それが光を発しているのが分かる。
「これは罠だよな」
「それもモンスターが出現するタイプの罠ですね」
東雲さんが刀を抜き臨戦態勢に入ったのを見ると、俺も直ぐに刀を抜いて構えた。
「・・・」
ヴァルも剣と盾を構えており、全員戦闘準備は整っている。
やがて室内全体を光が覆ったかと思うと、次の瞬間には眩しかった光は消えており、魔方陣のあった場所には体長三メートルほどの体に巨大な翼を生やしたドラゴンがいた
「これはもしかして、ワイバーンか」
出てきたのは、サイズが少し小さいものの、今となっては食肉として親しまれているワイバーンの姿そのものであった。
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