第五十三話
あれから十数分ほど第十一層を彷徨った後、俺とヴァルはようやく見つけたミニドラゴン三体と戦闘を行っていた。
「ヴァル!」
ミニドラゴン二体が俺に向かって突っ込んできたので、大盾を持っていたヴァルに防いでもらう。
ヴァルは一体目のミニドラゴンを容易く大盾で押し返し、もう一体は凄まじい剣圧を恐れたのか、一回剣を振るうだけで引き下がらせることに成功していた。
『雷撃』
もう一体のミニドラゴンはこちらの様子を窺っていたので、俺は試しに雷撃を浴びせてみる。
一筋の雷があっという間にミニドラゴンのいた場所へと到達するが、その場所にミニドラゴンはおらず、ただ地面を焦がすだけであった。
俺はその現状になんとなくではあるのだが、違和感を感じ取っていた。
(これ、読まれてないか?)
ミニドラゴンが飛べる上に身軽ということもあるのだろうが、簡単に避けられ過ぎのような気がしてならない。
「東雲、俺の魔法が読まれていないか?」
実際には魔術であるが、東雲にとってはこれは魔法らしいので、魔法という言葉を使わせてもらう。
「そうですね、ミニドラゴンは魔法の予兆のようなものを感じ取っているのかもしれません」
だろうな。
東雲の言葉で確信する。
初めて戦った時もそうだが、やけに魔術に対してアクションを起こすのが早いのだ
ファイヤーボールを躱すのは分かるが、雷撃を躱せるのは流石におかしい。
まるで魔術が既にどんなものなのか、分かっているような対応の仕方である。
(もしかして、魔力が見えているのか?)
俺は一つの仮説を立てた。
ミニドラゴンが魔力の流れを認識しているのという仮説だ。
もしも、魔力の流れを認識して、俺の身体から出ていく魔力を事前に感じ取っているのならば、回避行動を取ることは簡単に行えるだろう。
(ヤバいな)
この仮説が真実ならば、厄介どころの騒ぎじゃない。
俺のメインの攻撃手段は魔術であるため、ミニドラゴンに対して攻撃手段がほぼないことに等しいのだ。
もし俺が剣術のスペシャリストで、剣一本で楽々ミニドラゴンを倒せるならば、問題はないのだが。
(そうもいかないしな・・・さて、どうしたものか)
俺は頭の中にある魔術の知識を思い出し、有効なものはないかと考える。
(毒霧を発生させる魔術は効果範囲が広すぎて危険、辺り一帯を消滅させる魔術は魔力の都合と、それに類似した魔法やスキルを知らないから却下)
あまり有効な魔術が思い浮かばない中、ミノタウロスにも効果的だったある魔術を思い出した。
(バインドか)
これは確かに遠距離に向かって放つものだが、効果は今までの魔術とは違う。
バインドは発動してから、拘束が解かれるまで効果を発揮し続ける魔術であり、多少機動力がある程度のミニドラゴンであれば有効なはずであった。
更にバインドによって作られる魔力の蔦は半透明で他者からは見えづらい。
(よし)
「ヴァル、下がれ」
ヴァルを俺の傍に下がらせると、ミニドラゴンたち目掛けて直ぐ様バインドを放つ。
魔力によって作られた半透明の蔦がミニドラゴンたちに絡みつき、その動きを無理やり止めた。
(上手くいったな)
俺はバインドが解かれる前にダメージを与えるため、次の魔術を準備する。
『雷撃』
ミニドラゴンたちは拘束を解きかけていたが、一体出遅れたミニドラゴンがいたので、そいつに向かって雷撃を放つ。
見事に狙ったミニドラゴンへと雷撃が直撃したが、そのミニドラゴンは煙を上げながらビクビクと痙攣をしていて、まだ息があるように見える。
(魔術に対する耐性でもあるのか?)
ミノタウロスと同様、このミニドラゴンも魔術などの魔力を使った攻撃に耐性があるのかもしれない。
「よし、ヴァル。二人で一体ずつ倒して行くぞ」
二体であれば倒すのは容易いと判断した俺は一気に勝負を決めることを選択する。
俺の言葉にヴァルは頷くと、先行して僅かに手前にいるミニドラゴンへと突撃していった。
ヴァルは膂力にものを言わせて、その巨大な盾を豪快に振るい、俺は後ろから刀を使って突きをし、ミニドラゴンに攻撃する。
ヴァルが放った盾による攻撃は躱されたが、俺の刀はミニドラゴンの首筋に突き刺さった。
完璧な連携に思わず声が出そうになるが、
「あぶ」
ラスト一体のミニドラゴンの方を見ると、そのミニドラゴンが俺に向かって炎を吐きだす準備をしていた。
ヴァルは既に盾を振り切っており、次の動作には時間がかかる。
そして、俺はミニドラゴンに刀を突き刺したままであり、力を込め過ぎたのか動きが遅れてしまい、避けるための動作が行えない。
「危ないですね」
絶体絶命かと思われたが、東雲さんがミニドラゴンの前に躍り出ると、吐いた炎をその身体ごと真っ二つにした。
綺麗に真っ二つに分かれたミニドラゴンが、ボトリと音を立てて地面に落ちる。
「ありがとう」
俺はしっかりと刺さった刀を抜き、鞘に収めると、頭を下げて東雲に礼を述べた。
「いえ、危ない時は助けるのが当たり前です」
「そう言ってもらえるのは嬉しいが、今回のは本当に危なかった」
あの炎が直撃していれば俺の顔は大やけどを負っていた可能性がある。
そうなってしまえば、今後探索者として続けていくことができただろうか怪しい。
「そう思っているんだったら、大丈夫ですよ」
東雲さんは刀の血ぶりを済ませると、自然な所作で鞘に収める。
(見事だな)
東雲さんの達人がおこなった演武のような軽やかな動作に、俺はしばし見惚れているのであった。
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