第五十一話
東雲さんがミノタウロスを蹂躙した後、俺たちはミノタウロスをちょくちょく倒してレベルアップをしながら、第十一層へと足を踏み入れていた。
「なあ、東雲」
「何ですか、伊藤さん」
ただの美少女にしか見えない東雲だが、腰には刀を引っ提げてるし、ミノタウロスを瞬殺できるんだよな。
「いや、東雲ってどれくらい強いんだ?」
ミノタウロスを瞬殺できる探索者は割といるんだろうが、東雲がただのCランク探索者ってことはないような気がしてきた。
「そうですねえ、日本で大体五十番目ぐらいには強いんじゃないですか?」
「おそらくですけど」と言った彼女の瞳に嘘は見られない。
というか、こんなことにいちいち嘘を吐く必要もない。
「それってAランク探索者並みには強いってことなのか?」
分かりやすい指標として、Aランク探索者を上げてみる。
Aランクに至った探索者は確実に一般から逸脱しており、戦車なんかよりも普通に強いとされている存在だ。
俺にとっては雲の上の存在、正真正銘の怪物たちである。
「だいたいですけど、Aランクの最上位くらいですかね」
「マジか」
いや、強すぎだろ。
「一応、世界征服狙ってるみたいな組織の一般構成員ですから」
なんだそれ、というか。
「それって言っていいのか?」
そんなの大掛かりな組織の情報を俺が知っていると知られれば消されそうなんだが。
「大丈夫ですよ、この程度なら・・・・・・あんまり知りすぎたら、伊藤さんでも消される可能性はありますが」
(こっわ)
「心配しなくても、伊藤さんは重要人物なのでそうそう消されませんから、安心してください。どちらかというと消されるのは私ですし」
東雲は満面の笑みで言うが、俺としてはそちらの方が恐怖心を煽られる。
「そっそれにしても、東雲は滅茶苦茶強いんだな」
「まあ、日本にも強者はたくさんいますからね。Aランク以外にも探索者協会所属の特殊部隊、政府の猟犬、裏稼業のスペシャリスト、元探索者の凶悪テロリストなどなど、いっぱいいます」
「そうなのか」
俺はそこまで知らないが、世の中にはたくさんの強い人間がいるんだな。
「はい、日本だけに限定してもかなりの数の強者がいますね」
なんてことないように語っているが、話しぶりからして彼女もその一人なのだろう。
それは真実なのだろうが、俺は今一つ受け入れられない。
こんな可愛らしい女性が化け物並みの強者であることを、俺の頭が正しく認識できないのだ。
「そんなことは置いといて、そろそろモンスターが来ますよ」
俺が少し頭を抱えていると、彼女の言葉通りに前の通路から、のそりのそりとやって来るモンスターが視界に映った。
(今は探索に集中しなくては)
いろいろ気になることはあるが、その辺りはおいおい知っていき、理解していけばいいだろう。
俺は眼前のモンスターを倒すべく、意識を戦いのモノへと切り換えた。
♦♦♦
第十一層のモンスターは緑の鱗を纏った一メートルほどの、ミニドラゴンと呼ばれるモンスターだ。
第六層に出てくるミズデッポウ・オオトカゲとサイズは変わらないが、ミニドラゴンには羽が付いており、少し飛ぶことができる。
更に火を吹くこともでき、まさにドラゴンを小さくしたようなモンスターである。
「じゃあ、俺が倒すわ」
俺は肉体を魔術で強化すると、腰に下げている刀を抜き放ち、一気にミニドラゴンの前に躍り出る。
「グワアアアア―――!!!」
ミニドラゴンはオレ目掛けて炎の塊を撃ってくるが、それを躱して、刀を首筋に刺し入れようとする。
しかし、ミニドラゴンは宙に浮いて避けてしまった。
(めんどくさいな)
俺はファイヤーボールをミニドラゴン目掛けて撃ち、わざと躱させる。
「グエエエエェエ!?」
その躱した場所に刀を振るい、ミニドラゴンを袈裟懸けに斬った。
完璧に攻撃が決まり、ミニドラゴンはあっさりと地に落ちる。
「基礎はある程度できていますね。あとは実戦経験をもっと積めば、なかなかの領域に足を踏み入れることができると思いますよ」
「・・・」
東雲さんが笑顔で称賛を口にし、ヴァルは彼女の横で何度も頷いている。
(うちの女性陣は気楽なものだな)
二人共俺より強いから仕方がないが。
俺は二人に呆れの視線を送りながら、ミニドラゴンの解体の準備を始めるのであった。
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