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第五十話

 


「それで今日は一緒に探索をするのか?」


 佐々木ダンジョンの中へと入った俺たち三人。


 俺はヴァルの頬を魔術で治しながら、東雲さんに問いかけた。


「はい、当たり前じゃないですか」


 さも当然といった風に答える彼女に悪意はない。


(さっきの戦いの後に一緒に探索って、普通はできるものなのか?)


 それなりに激しい戦いをした後に直ぐに一緒に探索をするというのはよく分からない。


 いがみ合ってまともに探索なんてできないんじゃないだろうか?


「伊藤さんが懸念していることはないと思いますよ。ヴァルさんもその辺りは分かっているはずです」


 顔に出ていたのだろうか、東雲さんからそう言われるが、いまいち納得はできない。


「ヴァルさんも分かっていますよね?」


 東雲さんの問いかけにうんうんと頷くヴァルだが、本当に分かっているのだろうか?


「まあ、二人がいいのなら別に良いんだが」


 同じく白兵戦を好む女性同士、気が合うのだろうか。


 気負いなく探索ができるなら問題はない。


「私が威圧でモンスターは散らしますので、サクサク進みましょうか」


 そうか、東雲さんは威圧を持っていたな。


 威圧は自身よりもレベルの低いモンスターを近づかせないようにすることができるスキルだ。


 チームを組んでいるならだれか一人は持っておきたいスキルで、下級スキルであるにもかかわらず中級スキルよりも使い勝手がいいという。


「頼んだ」


 ヴァルも軽く頭を下げる。


(ヴァルはどのくらい言葉を理解しているのだろうか?)


 東雲さんの言葉を普通に理解しているのだから、凄い。


(いつかしゃべれるようになるのかね)


 間違いなく言葉を理解しているのだから、いつかは喋れる日が来るのだろう。


 俺はそんなことを思いながら、黙々とダンジョンの奥へと歩みを進めるのだった。




 ♦♦♦




 あれから四時間程度が過ぎ、俺たちは第十層へと足を運んでいた。


 佐々木ダンジョンの第十層にはチェックポイントがありヴァルと二人であれば一瞬で行くことができるが、東雲はまだ十層まで攻略していなかったため、道中のモンスターを蹴散らしながら、ここまで来ていた。


(あんまり疲れていないな)


 ここまで歩くのに疲れるのかと思ったが、レベルアップの影響かそこまで疲れることなく、第十層まで来れている。


「そういえば、東雲はミノタウロスとはどんな戦い方をするんだ?」


 最初は少し抵抗があった呼び方も慣れてきた頃、俺は気になっていたことを聞いてみた。


 圧倒的強者である東雲がミノタウロス相手にどう立ち回るのか、である。


「ミノタウロスですか?」


 まさかそんな質問をされるとは思ってもみなかったのか、きょとんとした顔をする東雲。


「ミノタウロスって結構強いだろ、だから東雲はどうやって戦うのかなって」


 俺が白兵戦で戦ったとしたら、身体能力を強化してやっと倒せるぐらいだろう。


 ヴァルよりも身体は(やわ)いだろうが、身体の厚みがある分、俺の刀では刃が通りにくい。


 分厚い筋肉に阻まれてしまうので、ヒットアンドアウェイでちまちまと削っていくしかない。


 東雲の武器も刀なので、何か参考になるかと思って聞いてみたのだ。


「そうですね。じゃあ、威圧を切ってみますね。それと・・・」


 東雲そう言って、鈴のようなものを取り出した。


 チリンチリンと二回ほど鳴らし、再びしまい込む。


「それは何なんだ?」


「これは攻魔(こうま)(すず)というアイテムで、ダンジョン内にいるモンスターを呼び寄せることができるんですよ」


「え?」


 ニコニコ顔で言う東雲に唖然としていると、のそりのそりとミノタウロスが三体現れた。


(ヤバい)


「じゃあ、いってきますね」


「危な」


 い、と言おうとした俺であったが、その台詞が間違いであったことに気づく。


「ブモオォオオオ!?」


 東雲が弾丸のような速さでミノタウロスに接近すると、一体目の両腕両足を切断した。


 続けて二体目の首に刀を滑り込ませすぐさま引き抜くと、更に心臓を一突きする。


 流れるような動作で三体目に接近すると、足の腱を切りつけ、ミノタウロスをちょうどいい高さに降ろすと眼球に刀を突き入れた。


 そして三回掻き回し、刀を引き抜く。


 僅か五秒足らずの出来事だった。


「こんな感じです」


 ニッコリと笑みを浮かべる東雲さん。


 俺もできる限りいい笑みを浮かべながら、その強さに内心戦慄するのだった。




読んでいただき、ありがとうございます。

現在、月間総合ランキングで13位となっております。

ありがとうございます。

これからも投稿を続けていきますので、この作品をよろしくお願いいたします。

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