第四十九話
「結局、どうしてヴァルが弱いと思ったんだ?」
二人を宥めた後、俺は東雲さんに疑問を呈していた。
確かに東雲さんの方が強いのは事実であり、それは先程の戦いでよくわかった。
それでもヴァルの強さは揺るぎないし、俺としては弱さという言葉が彼女に合うようには感じない。
ただただ二人共強い。
そうとしか思えないのだ。
「気づきませんでしたか?」
東雲さんとヴァルが俺のことをじっと見るが、はっきり言って何も分からない。
「いや、東雲がギリギリの間合いで避けてたぐらいしか分からなかった」
「そうですか。伊藤さんも私が指導した方がよさそうですね」
絶対ヤバい奴だろ、それ。
俺の嫌そうな顔をスルーし、東雲さんは話を続ける。
「私はそこまで速い動きをしていませんでした。それは分かりますか?」
「まあ、何となくは」
俺はそうだったような気がしたので、とりあえず頷く。
「実はヴァルさんよりもだいぶ遅い動きで、彼女の攻撃を全て躱していたんですよ」
えっそうなのか。
(全然気づかなかった)
「ヴァルさんの大体半分くらいの出力で戦っていましたね。それでも問題なく私は戦えていました」
「では問題です」と東雲さんは言う。
「ヴァルさんには何が足りないか、分かりますか?」
俺の方はよく分からなかったが、ヴァルはなんとなく予想ができているのだろうか。
じっと東雲さんを見つめている。
「圧倒的に技量が足りません」
「マジか」
思わず言葉が喉から出てしまう。
それほどにその台詞は受け入れがたい台詞だったのだ。
「彼女は決定的に弱いわけではありません」
それはそうだ。
だけどヴァルって、前に戦った時には常人とは思えない凄い動きをしてたから、その辺りもかなりのレベルだと思っていたんだが。
「速さもありますし、攻撃自体に無駄はあまりありません」
「最短、最速の攻撃なのでしょう」と言った東雲さん。
「それの何がいけないんだ?」
「相手をしているのは人間だから、いや知性のある生き物だからです」
はあ。
「知性がある分、相手はイメージするんですよ。こうきたら、こうする。ああきたら、ああすると自分の中で勝手にイメージして型に嵌めてしまう」
そりゃそうだな。
大体のことはそうやって予測を立てて行動するだろう。
「最短最速の攻撃が悪いわけではありません。そういった手段があった上で、間合いの取り方、打ち方、捌き方のバリエーションを持っていれば、問題ないのです。しかし彼女にはそれがありません」
俺がヴァルの方を見ると、彼女は深く頷いていた。
ヴァルは初めから理解していたのだろうか?
いや、東雲さんとの戦いで理解したのだろう。
なんとなくそう思う。
「人には様々な強さと弱さがあります。その弱さの部分を極力なくしていき、強さを形成していくのです。一つの強みがあればいいのは、安全な社会の中にいる時だけなんです。ダンジョンでは様々なモンスターがいて、それら全てに対処しなくてはなりません」
「そうなんだな。それを見越してヴァルを試合に誘ったのか」
俺は感心するように頷いていたのだが、東雲さんは首を横に振る。
「いえ、私がヴァルさんと戦ったのは、単純に彼女が伊藤さんと二人っきりでダンジョン探索をしていたのが腹立たしかったからです。有り体に言えば、嫉妬ですね」
(それが理由かよ!)
俺は心の中で叫びながら、今までの戦いに関する話はなんだったのかと、頭をがっくりと下げるのだった。
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