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第三話 ファミレスにて

 


 ひどい空腹感に襲われた俺は、近場のファミレスへと足を運んでいた。


 現代でも変わらずファミレスは存在しており、趣に若干の変化はあるかもしれないが、低価格で料理を提供する場所としての立場は変わっていない。


 ファミレスに入ると、とりあえず席に着く。


(さて、何を注文しようか)


 テーブルの上にあったタブレット端末から、メニューをチェックする。


 和食、洋食、中華、エスニックまで、クオリティはメチャクチャ高いわけではないが、様々な種類の食があった。


(本来なら選ばないんだが・・・)


 俺は普段は絶対に頼まないステーキのライス付きを頼む。


 ステーキは脂っこいしカロリーも高い。


 消化するのにも時間がかかるし、若い時ならいざ知らず、躊躇いもなく注文していたが、今となってはまず注文しない品だ。


(今日は腹が空きすぎなんだよなぁ)


 ここまで腹が減ったのはいつ以来だろう。


 仕事詰めだと、食欲よりもしんどさが勝って、むしろ食欲が沸かない。


 そのため、いつも取る食事は簡素でほどほどに腹が膨れるようなモノばかりだった。


(タブレットで支払いが済ませるなんて、便利だよなぁ)


 昔の勘定は現金決済やカードでの支払いが主流だったそうだが、現在の勘定はタブレット端末に特定のパスワードを入れることで銀行口座から自動引き落としされる。


 注文と同時に済ませてあるため、時間がかからず帰りに財布を使う必要がない。


 財布自体は持ち歩いているが、お札や硬貨を使うことはまずない。


 そもそも、お札や硬貨も今や電子化されているのがほとんどで、現金はあまり好まれていないのが現状だ。。


 日本はキャッシュレス化が遅かったが、今では電子決済は当たり前となっている。


(おっ、来たな)


 五分ほど経つと給仕ロボットがステーキとライスを、ここまで持って来た。


 俺はそれを受け取ると、ロボットはセンサーで判断したのか厨房へと戻っていく。


 既に更に盛り付けられているステーキから、肉の美味しそうな匂いが漂ってくる。


 早速ナイフとフォークを手に取り、ステーキを切り分ける。


(柔らか)


 ステーキが面白いぐらい簡単に切れた。


 俺はそのあまりのスムーズさに感嘆しながらも、切った肉をフォークで突き刺し口の中へと運んでいく。


(旨いな)


 強烈な空腹感もあるのだろうが、この肉自体がかなり旨い。


 学生時代に俺の爺さんが「今のファミレスは本当に旨いものを出すようになった。これもダンジョン様々だ」と言っていた。


 昔のファミレスでは海外産の牛肉を使ったステーキを出していたそうだが、今のファミレスはワイバーンの肉をステーキでは出している。


 何でもワイバーンの肉はかつてのA4ランクだったか?の牛肉と同じくらいの旨さらしいのだが、今では一般的に流通している肉なため、それがどのくらい凄いのかはよく分からない。


 今ではほとんど牛の牧畜は行われていないが、ごく少数のブランド品だけが高値で取引されている。


(いつか食べてみたいものだな)


 個人的には高級品であるドラゴンのステーキを食べてみたいが。


 あまり重たさを感じないスッキリとした脂に旨味が詰まったワイバーン肉を堪能していたが、ガヤガヤとした若者四人組がファミレスに入って来た。


「あ~腹減った」

「マジそれ」


 ドカっと雑な動作で席に着く四人組。


 ダンジョン産のモンスターで作られた強靭な革鎧に、腰には合金製と思われる両刃剣を挿している。


(探索者か)


 現代社会において、若者がバイト代わりに探索者として活動することは、間々ある。


 初期投資に多少金はかかるが、国は若い探索者を欲していて十八歳未満には五級スキルオーブの価格が25%になるよう、探索者協会と政府が共同で支援体制を構築していた。


 更に才能があれば国や探索者協会、それらに関連する企業や組織から装備やスキルオーブの支援が受けられ、万が一期待通りの結果が残せずとも、就職活動では有利になる。


(スキルオーブの価格が四分の一になる支援は十年くらい前からだったから受けられなかったんだよな)


 俺の学生時代でも才能があるものに対しては支援が厚かったが、初期投資はやはり高額であるため、そこまで多くの学生が探索者になることはなかった。


 アルバイトもロボットやAIによる代替で効率化が計られていて、かなりの職がなくなっており、優秀でない人間は経済的な援助なしでは探索者になることも難しい。


(日本では格闘技、武道、武術で優秀な成績を修めたものに支援が行われていたが)


 俺にそんな才能はないため、当然のことながら支援など受けられなかった。


(今が良いから別に不満はないが)


 少し羨ましいとは思ってしまう。


(魔術で強くなれば俺も・・・・)


 探索者としての名声が手に入るわけだが、ただ闇雲に突っ走っていくのでは失敗するだろう。


 名声を得られるかもわからず、自由すらなくなる可能性すらあるのだ。


 魔術のスキルがあれば探索者としてくいっぱぐれる心配はないし、焦りは禁物だ。


 欲自体は持ってもいいが、欲に飲まれるは駄目である。


 (ゆっくりと頭角を現していけばいい)


 力がないものは踏みにじられる。


 俺が会社で上司にあのような態度を取られていたのは力がなかったからだ。


 俺が上司よりも上の立場だったら、俺が上司よりも圧倒的に能力があったら、俺が上司よりも強ければ、あのような態度は取られなかっただろう。


 急いで力をつけようとしても、より力のあるものに目をつけられてしまえば、終わりだ。


(ゆっくりでいい。着実でいい。そうすれば、必ず道は開ける)


 運は回ってきている。


 後はじっくりと力を付けていけばよい。


 俺は決意を固め直すと既に食べ終えた食器類を置くと、そのまま店を出るのであった。






読んでいただき、ありがとうございます。

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