第三十四話
ゴーレムを蹂躙した後、次層へと続く階段を見つけた俺とヴァルは第九層へと向かった。
第九層には火纏大山椒魚がいる。
(暑いな)
ダンジョン内の温度も今までよりも上がっており、歩くだけでも少し怠く感じる。
(ヴァルは平気そうだな)
ヴァルはモンスターだからか、割と平気そうにしている。
彼女の挙動に変化はなく、いつも通り俺の隣をぴったりとくっついて歩いていた。
(なんかちょっと近い気はするが)
たぶん暑さによって、そう感じるのだろう。
ヴァルだってモンスターと言えど、距離感ぐらいは分かっているはずだ。
(火纏大山椒魚か)
大山椒魚と言えば、両生類であり水辺を好むはずだが、ダンジョンにいるモンスターが同様の生態をしているわけがない。
火纏大山椒魚は自ら生み出した炎によって周囲を燃やすことで、探索者は容易に近づけない。
何かしらのスキルを使うか、レベルをある程度上げた上で、装備を適したものに変えることで近づいても倒せるが、それ以外に方法はない。
(まあ、俺は魔術で倒すんですけどね)
火纏大山椒魚を見つけるには燃えている場所を探せばいいだけなので、簡単に見つけることができる。
(いたな)
どことなく愛嬌が感じられる顔をした大山椒魚が全身に炎を纏いながら、身体を引きずるようにして歩いている。
その身体の周囲には轟々と音を立てながら炎が燃え盛っており、熱気がここまで伝わってくる。
(サクッと倒すか)
こっちには魔術があるからな。
別に大した脅威ではない。
第六層のミズデッポウ・オオトカゲも、第八層のゴーレムも、そしてこの層で徘徊する火纏大山椒魚もだ。
俺は魔力を使い。
現象を引き起こす。
宙に水を発生させ、やがて槍の形を作る。
『ウォーターランス』
長さ1.5メートルほどの水でできた槍が、火纏大山椒魚目掛けて射出された。
空気を切りながら、ウォーターランスが火纏大山椒魚に突き刺さった。
(よし)
別に水でなくても良かった気がするが、効いているので良しとしよう。
串刺しにされた火纏大山椒魚がもがき苦しむが、俺は再びウォーターランスを作り、もがく火纏大山椒魚に撃ち込む。
今度は頭に直撃し脳を貫いたためか、火纏大山椒魚は一度大きく痙攣すると、その動きを完全に止めた。
(もう一発撃っとくか)
俺はウォーターランスをもう一度作り、火纏大山椒魚に撃ち込むが、特に動きはない。
俺は確実に仕留めたことを確認すると、炎が消えつつあった火纏大山椒魚の元へと向かう。
(うお、なかなかグロい)
俺は火纏大山椒魚の死体に水をかけて完全に鎮火させると、リュックに入っていたナイフで、採取を始めた。
火纏大山椒魚の身体に切り込みを入れて、とある石を探す。
(お、あったあった)
ヴァルが俺の様子を見る中、お目当ての物を見つける。
【火炎石】
それが俺が狙っていた素材であった。
(これも高値で売れるんだよな)
火炎石は貴重な鉱物として取引されており、ダンジョン産の特殊な金属の加工に使われる。
(今回はそこまで狩らなくてもいいな)
魔術で使うMPが勿体ない。
ヴァルでも狩れるだろうが、服が燃えるのは困る。
「行くか、ヴァル」
俺はヴァルに声を掛ける。
俺たちはいずれダンジョンに吸収される火纏大山椒魚の死体を放置すると、そのまま第九層の奥へと進んでいくのであった。
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