第三十三話
あの後もヴァルが打突兎を蹴散らしながら第七層の奥へと進んでいき、ものの十数分で第八層へと辿り着いた。
(第八層はちょっと楽しみなんだよな)
佐々木ダンジョン第八層のモンスターはゴーレムである。
昔のゲームにもよく登場するあのモンスター、ゴーレムだ。
岩だけで構成された肉体を持った巨人。
(おお、デカい)
ダンジョン内を探索していると遠目にゴーレムがいるのを見つけた。
図体がかなり大きいため、割と簡単に見つけられる。
(実際に見てみると本当にデカいな)
ネットで見た情報には体高2.5メートル程と書いてあったのだが、実際に見てみると兎に角デカい。
身長が10センチ違うだけでかなりデカく見えるのだから、170センチ程度しかない俺が見れば、とてつもなく大きく見えるのも、当然の話ではあるのだが。
それじゃあ、試しに。
『雷撃』
雷が宙を奔り、ゴーレムの頭に当たる。
ゴーレムの頭の部分の岩を木端微塵に砕き、ゴーレムは首から下だけの状態で仁王立ちしていた。
(雷撃はやっぱり強力だな)
ヴァルに突撃させて穴だらけにして倒しても良かったのだが、打突兎の時は俺が碌な活躍をしなかったので、今回は俺に譲ってもらい魔術で倒させてもらった。
第八層に来る前にヴァルからは許可をもらっている。
ちゃんと後で魔力をいっぱいあげると言ったら、快く譲ってくれたのだ。
いい奴である。
(よし、今回はたくさん狩るとしよう)
ゴーレムには第六層で出てきたミズデッポウ・オオトカゲのものよりも更に大きいサイズの魔核がある。
これは一個3000円で売れるので、たくさん狩ればそれなりの金になる。
(魔術のコントロールもできてるっぽいし、順調順調)
魔核は心臓部にあるので、頭を粉砕してしまえば、魔核を砕くことなく倒すことができる。
前回のように全身を焼いてしまって魔核まで粉砕してしまうようなことにはならない。
(せっかくだから稼ぎまくるか)
俺は意気込むと、再びゴーレム狩りを始めるのであった。
♦♦♦
「これで20匹目っと」
俺は魔術によって強化した足を使った蹴りによって倒したゴーレムの頭を更に足で踏み抜き、心臓部分から魔核を引き抜く。
かれこれ二時間ほどゴーレムの討伐を行っていた。
現在はかなりレベルが上がったのか身体能力にも補正が付き、魔術無しでも昔の人類を超えた速さとパワーを獲得した。
(流石にまだ、素の状態でゴーレムを倒すことはできないが)
刀を使えば魔術の強化無しでもゴーレムの首を無理やり飛ばすことはできるが、強化無しの状態で素手で頭を砕いたりはできない。
(ヴァルはすごいよなあ)
盾でぶん殴ったり、剣で首を抉り取ったり、素の蹴りで腹をぶち抜く。
正に鬼神のような戦いっぷりだった。
(それでいて愛嬌もあるんだよな)
ヴァルが、とことことゴーレムの魔核を両手いっぱいに持ちながらやって来る。
俺は魔核を受け取ると頭を撫でながら少しだけ魔力供給を行う。
(そういえば、東雲さんとヴァルが戦ったらどっちが強いのだろうか)
ふと、そんなことを考え、撫でる手を止めた。
ヴァルが俺が撫でるのを止めたのを不思議がってか、上目遣いをして見てくる。
(どっちも強いが勝つのは東雲さんだろうかな、いやでもヴァルも滅茶苦茶強いしな)
東雲さんの動きが目で追えるか追えないかってレベルで速かったが、ヴァルの強さもなかなかなものだ。
だが、俺は東雲さんのことをあまりにも知らない。
(もし、あれで手加減とかしてたら、どれだけ化け物なんだって話だけど)
この世界には一騎当千の化け物が割とゴロゴロいる。
Aランク探索者がテロに巻き込まれて、テロを起こした犯人を皆殺しにしたなんてこともニュースでやってたしな。
(当時は英雄ってもてはやされてたよな)
町中が監視されている中、軽犯罪は減り起きる犯罪はどれも凶悪なものばかり、個の強さが跳ね上がったこの世界では、凶悪なテロリストを殺しても感謝しかされない。
その凶悪なテロリストに殺されるのはもしかしたら自分かもしれないと思っているため、国民は自分を脅かすかもしれなかった存在を殺してくれた化け物に称賛を浴びせるのだ。
(俺たちには関係のないことだけどな)
もしもテロリスト認定されるなら、とっくにされてるだろうし、こんな風に探索はできないだろう。
そもそも、俺は既にこの世にいないかもしれないのだから。
俺は魔力供給を終えたと判断すると、ヴァルの頭から手を放し軽く息を吐く。
(そんなことより探索だな)
俺は下らない妄想を頭の片隅に追いやり、ヴァルが持ってきた魔核とさっき倒したゴーレムの魔核をリュックに詰めると、第九層へと続く階段目指して、ダンジョンの探索を進めるのであった。
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