第三十二話
あれから更に奥へと進み、とうとう俺とヴァルは佐々木ダンジョン第七層に足を踏み入れていた。
見慣れてきた遺跡のようなダンジョン内を二人で歩いていく。
「ミズデッポウ・オオトカゲはあっけなかったよな」
俺がそう言うと、隣を歩くヴァルもコクコクと頷く。
(意思疎通がちゃんとできるのもいいよなぁ)
もしも知性のないモンスターだったら、こっちがいろいろ工夫しないと攻撃すら満足にできないだろうし、役割分担なんてまず無理だろう。
強さもさることながら、連携の意味を理解し、限定的ではあるものの会話が成立する。
こんなモンスターそうそういないのではないだろうか。
(てか、いなくて当然か)
恐らくではあるが、ヴァルはユニークモンスターである可能性が高い。
レアにしては些か強すぎるし、話を理解できるモンスターなんて聞いたことがない。
(いたとしても秘匿されてそうだしな)
探索者協会と政府の力はかなり強い。
情報管理の問題提起も探索者が関わっていたからこそ起きたものであり、迅速な行動も恐らくは探索者がらみだからこそだろう。
金も権力も持っているのが今の探索者、機嫌を損ねるのは政府としては得策ではない。
(そろそろモンスターが出てくるかな)
第七層のモンスターは打突兎だ。
おでこの部分の骨が異常に発達しており、はたから見ても分かるぐらいに骨の出っ張りが突き出ている。
この出っ張りも脅威であるが、兎であるためか俊敏性が高く、サイズも小さいため小回りが利く上に、少数の群れで行動している。
連携の取れた素早い攻撃をしてくるため、これまた探索初心者には相手をしづらい性質となっている。
(今回は少しだるそうなんだよな)
ヴァルも素早い動きはできるが、小柄な打突兎には攻撃を当てづらいだろう。
俺の魔術も素早い相手には有効に働きづらい。
(やってみなきゃ、分からないか)
そうこうしていると、打突兎が姿を現し始める。
「ぶーぶー!?」
いきなりヴァルの方へと猛ダッシュし、頭突きをしてきた。
(いや、いきなりだな)
次々とヴァルの元へと駆け寄ってくる打突兎。
兎が駆け寄ってくると聞けば愛らしさもあるが、血走った目で殺気を込めた兎が殺人級の頭突きをしてきているので、そんな愛らしさは全くない。
(どうなるのやら)
俺も魔術の準備をしておく。
ヴァルの元を抜けて、俺に向かってくる可能性もあるからだ。
俺が構えていると、とうとうヴァルの目前まで近づいた打突兎が頭突きをするのだが。
「え?」
バコンッと、ヴァルの盾に弾かれ、鞠のように吹き飛ばされる打突兎。
吹き飛ばされた打突兎はきりもみ回転をしながら、ダンジョンの壁に激突して動きを止めた。
(あっそうか。打突兎の体重が軽いからあんな簡単に吹き飛ばされてしまうのか)
次々に吹き飛ばされ、ダンジョンの壁に叩きつけられる打突兎たち。
本来であればかなりの硬さを持っているはずの骨を活かした頭突きも、丈夫さを売りにした金属の盾とヴァルの膂力の前には及ばなかったようだ。
(ヴァルのパワーも凄いな)
ダンジョンに潜り始めてからヴァルのパワーが上がってきているように感じる。
動きの一つ一つに圧が増してきているというか、一発一発の危険性が上がっているような気がするのだ。
(あんまりヴァルは怒らせないようにしよう)
ヴァルのあまりの蹂躙っぷりに、俺は今日の探索を終えた後、ヴァルにはたっぷり魔力を与えようと決心するのであった。
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