第三十話
佐々木ダンジョン第六層にはミズデッポウ・オオトカゲと呼ばれるモンスターが生息している。
体長は一メートルほどでクビナガトカゲとは違い、群れを作らず基本的に単独で行動している。
性格は獰猛(ダンジョンに生息するモンスターのほとんどは探索者に対して攻撃的だ)、口には鋭い牙を生えそろわせており、野生の生き物特有のしなやかな身体を持っているため、動きもかなり素早く力強い。
攻撃のパターンも豊富で、尻尾を使った攻撃や、鋭い歯を活かした噛みつき、魔法によって宙に生み出した水の塊をぶつけてくるなど、様々な攻撃をしてくるため、レベルの低いチームであれば壊滅に追いやられる危険性がある。
ちなみに水の塊自体に効力はないが、服が濡れると重くなるため、ミズデッポウ・オオトカゲの他の攻撃に対応しづらくなるうえ、その後の探索にも差しさわりが出る可能性がある。
そのため、ミズデッポウ・オオトカゲが撃ってくる水球は避けるのが無難だ。
またミズデッポウ・オオトカゲは銀色の美しい鱗を持っており、皮を剥ぐ技術があれば金になるが、俺のような初心者では碌に剝くことができないため、金にはならない。
肉も食用としてはあまり使われておらず、日本ではまず売れにくいだろう。
ただ、このモンスターには魔核という部位がある。
基本的にどのモンスターにもあるのだが、ミズデッポウ・オオトカゲクラスになると一個あたり、千円程度で売れる。
(出会ったら、即殺だな)
ミズデッポウ・オオトカゲが出てきたら、すぐに倒すことを早々に決める。
結局は魔核以外は金にならないのだから、素材に気遣いながら慎重に殺す必要もないだろう。
魔核は心臓にあるので首を斬り落として倒してしまえば問題はない。
(そうと決まればさっさとミズデッポウ・オオトカゲの討伐だな)
何度か狩ってみて俺たちの強さの把握はしておきたい。
ミズデッポウ・オオトカゲは初心者の登竜門とされるモンスターの一つだからだ。
ちょっとした金にもなるし、レベル上げにも、実力の診断にも使える。
まさに一石二鳥、三鳥にもなるモンスターだ。
そんなことを思いながら、湿ったダンジョン内を歩いているとものの数分でミズデッポウ・オオトカゲと出くわした。
(凄い威嚇しているな)
細長い舌を突き出しながら息を吐き出して威嚇するミズデッポウ・オオトカゲ。
なかなかの威圧感があり初めてみた者はたじろぐのかもしれないが、そんなものは俺とヴァルには関係ない。
「ヴァル、首を斬り落とせ」
コクリと頷いたヴァルが疾風怒濤の勢いでミズデッポウ・オオトカゲに突撃する。
(お~いったな)
ヴァルに知性はあるし、相手が強ければ警戒もする。
しかし、明確な恐怖というものはないらしい。
俺との戦闘で割とお構いなしに突っ込んできたのが何よりもの証拠だ。
分析はするし、手段を考えるが、戦いを前に恐怖によってすくんでしまうことはない。
(まさにダンジョンという魔境にうってつけの存在だ)
ミズデッポウ・オオトカゲの魔法によって宙に水の塊が浮かび上がり、凄い勢いでヴァルへと向かっていくが、持っていた大盾で難なく凌いだ。
一匹と一人の距離が更に縮まる。
(剣の距離だな)
ザン、ヴァルが振るった重厚な剣がミズデッポウ・オオトカゲの首を薙ぐ。
全く詰まることなく刃はミズデッポウ・オオトカゲの鱗を斬り、肉を裂いた。
ボトリと落ちたミズデッポウ・オオトカゲの首からは、自身に何が起こったのか認識できていないさまが見て取れる。
(そうなるよな)
ミズデッポウ・オオトカゲは遠距離の攻撃手段を持っているが、素早さは銅鳥よりも下だ。
もちろん、弱くなったヴァルよりも下だ。
それなりの巨体を持っているから人間が相手をするには苦戦を強いられるが、素の膂力が高いモンスターであれば話も変わる。
突貫して無理やり攻撃を仕掛けてしまえば、ヴァルほどの速さと強さを持っていれば容易く狩ることができる。
(この層も楽にいけそうだな)
ピクリとも動いていないミズデッポウ・オオトカゲを見て、俺はそう思うのであった。
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